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短編小説 「60年目の再会」

「ただもう一度君に逢いたかっただけなんだ。。」

七十五歳の颯太には、六十年消えない想いがあった。十五歳で亡くなった初恋の人、紗英――もう一度会いたいと願い続けたある夜、目覚めるとそこは60年前の実家だった。
忘れもしない紗英が亡くなる一週間前。。。
過去は変えられるのか。颯太は、たった一度のやり直しに全てを賭ける。。

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颯太は七十五歳になった。

縁側に座って庭を眺めるのが、最近の日課だ。妻は十年前に先立ち、息子は東京で暮らしている。一人になってから、ふと立ち止まる時間が増えた。

検索しても答えが出ないこと――それが、十五歳で逝った紗英のことだった。

紗英は隣に住む同級生だった。スマホもSNSもない時代、二人は手紙を交わし、夏になると一緒に蝶を追いかけた。颯太にとって、初めて「好きだ」と思った相手だった。だが紗英は病気で、ある夏の朝、あっけなく旅立った。

六十年経っても、紗英の笑顔は消えなかった。年を取るほど、会いたい気持ちは強くなっていく。スマホの通知のように、心の奥でずっと点滅していた。

「もう一度会えたら、何を伝えよう」

そう思いながら眠るのが、最近の颯太の夜だった。

## 一週間前

目が覚めると、見慣れぬ部屋にいた。木目の浮いた古い天井。畳の匂い。颯太は飛び起きた。

そこは実家だった。もう取り壊されて、写真でしか残っていないはずの家。

手を見ると、皺のない若い手があった。鏡には十五歳の自分が映っている。

「マジか……」

台所から母の声が聞こえた。三十年前に亡くなった、若く明るい声だった。

カレンダーを見て、颯太は息を止めた。紗英が亡くなる、一週間前の日付だった。

これがタイムリープだろうと、夢だろうと関係ない。颯太はそう思った。やるべきことは一つしかない。紗英の運命を、今度こそ変える。

## 約束

颯太は記憶を辿った。紗英は高熱を出し、当時の小さな診療所では手当てが遅れた。今ならわかる。早く大きな病院に運べば、きっと結果は変わる。

颯太は紗英の家に駆けた。紗英は縁側で、絵日記に蝶の絵を描いていた。記憶よりずっと幼く、ずっと眩しい笑顔だった。

「颯太、どうしたの。そんなに焦って」

「紗英、頼みがある。熱が出たら、誰よりも先に、絶対に僕に教えてくれ」

紗英は首をかしげながらも、笑って頷いた。

「了解。颯太って、たまに未来人みたいなこと言うね」

颯太は思わず笑った。当たってるよ、と心の中で呟きながら。

その日から、颯太は紗英のそばを離れなかった。学校帰りも、夕方も。まるで見守りアプリのように、紗英の様子に目を光らせた。

四日目の夜、紗英の家の灯りが揺れた。颯太は全力で駆けた。紗英は布団の中で、頬を赤くして咳をしていた。

「お父さん、お母さん! 今すぐ隣町の病院へ! ここで足踏みしないで!」

颯太の必死さに、両親も動いた。荷車に紗英を乗せ、颯太も一緒に夜道を走った。

「颯太、心配かけてごめんね」

紗英の声はかすれていた。

「謝らなくていい。今度は、絶対に大丈夫だから」

颯太の声には、六十年分の後悔と、それを覆すための確信が込もっていた。

## 蝶の夜

病院に着くと、医師たちはすぐに処置を始めた。今の時代の設備とは比べ物にならないが、それでも「早く着いたこと」自体が、何よりの薬になった。

廊下で待つ時間は、永遠のように長かった。颯太はスマホがあれば検索していただろう。生存率。治療法。何でもいい情報が欲しかった。でも今は、祈ることしかできなかった。

やがて医師が出てきて、父親に何かを伝えた。父親の表情が、ふっとゆるんだ。

颯太は処置室に駆け込んだ。紗英は眠っていたが、頬には赤みが戻っていた。呼吸も安定していた。

「紗英……」

紗英の目が、ゆっくり開いた。

「颯太……? なんで泣いてるの」

「紗英、大丈夫なんだ。本当に、大丈夫なんだ……!」

「ふふ、大袈裟。でも、ありがとう。颯太がずっと傍にいてくれたから、怖くなかった」

窓の外には夏の夜が広がっていた。庭先から、白い蝶が一匹、ひらひらと舞い込んできた。季節外れの、不思議な蝶だった。

「ねえ、見える? 蝶」

「見える。綺麗だね」

「私、また見られるんだね。来年も、再来年も」

颯太は涙をこぼしながら、何度も頷いた。

「ずっと一緒に見るんだ。何回でも」

## 帰り道

颯太が次に目を開けた時、見慣れた天井があった。皺のある自分の手。縁側の向こうには、いつもの柿の木。スマホには、息子からの「最近どう?」というメッセージが届いていた。

夢だったのか、本当に時を超えたのか、颯太にはわからない。でも、心の中に重く沈んでいた後悔は、いつの間にか軽くなっていた。

颯太は庭に出た。秋なのに、一匹の白い蝶が舞っていた。颯太の周りを一度回り、ふわりと空へ昇っていく。

颯太は静かに笑った。

「ありがとう、紗英。今度はちゃんと、未来まで届いたよ」

蝶は青い空の向こうへ消えていった。颯太はそれを、悲しみではなく、確かな希望として見送った。

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何度も同じ夏を生き直したわけではない。でも、たった一度の「やり直し」が、六十年分の後悔を、優しい記憶に変えてくれた。

颯太はそう思いながら、縁側でゆっくりと茶を飲んだ。明日も、また庭に蝶が来るかもしれない。そんな小さな希望を抱きながら。

短編小説 60年目の再会 by Rom.L.Des 2026

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