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短編小説『レナートの帰郷』

今日は友情の物語をお届けします!

ここ最近は実験的な作品を連続して投稿していましたが、今回は皆さんにゆっくり読んで、温かい気持ちになって欲しいなと思いこのストーリーを考えてみました🙂
何かに挑戦して挫折して..という経験は皆さんはありますか?僕は数え切れないくらいありますwそんな時には友達に泣きついたりする事も多いんですが、そんな仲の良い友人を思いながら創作した物語になります。 
きっとこのストーリーを読んでくれた後で皆さんも大事な人に会いたくなるんじゃないかな。。🙂


Che fortuna essere tuo amico.
Un uomo che aveva visto infrangersi il proprio sogno fece ritorno alla sua terra natale, e là, ad aspettarlo, c’era un amico....

イタリアの小さな町へ、夢破れて帰ってきた男。幼馴染との再会が、忘れていた”生きる理由”を思い出させる——。
木の香り漂う工房で交わされる不器用な友情、十六年の時を超えて蘇る絆。ハリウッドでは見つからなかった”特別なもの”は、実はずっと故郷にあった。心温まる友情と再生の物語。

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「レナートの帰郷」 by Rom.L.Des 2026

## 一

 ハリウッドの空は、レナートが思っていたよりもずっと高く、そしてずっと冷たかった。七年間、彼はその空の下でオーディションを受け続けた。エキストラ、通行人役、台詞のない死体役。一度だけ、テレビドラマで「ウェイター」という役名がクレジットに載ったことがある。それが彼の絶頂だった。

 最後の一年は特にひどかった。同じアパートに住んでいたルームメイトが、レナートより五つも若いのに主演の座を掴み、荷物をまとめて出て行った日のことを、レナートは今でも鮮明に覚えている。「才能がないわけじゃない、運がなかっただけだ」と誰もが慰めてくれたが、七年もそう言われ続けると、その言葉自体が呪いのように聞こえてくる。

 三十四歳になった春、レナートはついに荷物をまとめた。安いスーツケースひとつと、七年分の疲れだけを持って、彼はイタリア中部の小さな町、モンテヴェッキオへと帰ってきた。母には電話で「少し休みに帰るだけだ」と言ったが、自分でもそれが嘘だとわかっていた。

 バスを降りると、石畳の広場は記憶の中とまったく同じ姿でそこにあった。噴水の水音、教会の鐘、洗濯物のはためく音。何も変わっていないことが、かえって胸を締めつけた。自分だけが、何も持たずに戻ってきたのだと思い知らされるようで。広場の隅には、子供の頃によく座っていた石段があった。あの頃はそこに座って、遠い国の映画スターになる自分を夢見ていた。今、同じ場所に立つと、その夢が急に幼稚なものに思えて、レナートは目を逸らした。

## 二

 母の家に着いて三日目、広場のバールでコーヒーを飲んでいると、後ろから声をかけられた。

「レナート? まさか、レナート・ベルナルディか?」

 振り返ると、丸い顔に人懐こい笑みを浮かべた男が立っていた。マルコだ。小学校からの幼馴染で、いつも一緒にサッカーをして、いつも一緒に叱られていた相手。最後に会ったのは、レナートが空港に向かう日、マルコが「向こうで有名になったら、俺のこと忘れるなよ」と冗談めかして言った、あの朝だった。

「マルコ……信じられない、何年ぶりだ」

 マルコは返事の代わりに、いきなりレナートを抱きしめ、背中を強く三回叩いた。子供の頃からの、二人だけの挨拶だった。痛いくらいの力に、レナートは思わず笑ってしまった。

「十五年、いや十六年か? お前がハリウッドに行くって、みんなに宣言してから」マルコは体を離すと、頭からつま先までレナートを眺め回した。「痩せたな。向こうの飯は口に合わなかったか?」

「向こうにはお前の母さんの手打ちパスタがなかったからね」

「それを言うなら、俺の手打ちパスタだ。もう十年、母さんより俺の方がうまい」

「嘘つけ」

「本当だ。今度食わせてやるよ」

 軽口を叩き合ううちに、十六年という時間がすっと縮んでいくのを、レナートは感じた。

 マルコは向かいの椅子にどかりと座り、店主に合図してワインを二つ頼んだ。まだ昼過ぎだというのに、まるでそれが当然のことのように。

「それで、どうだったんだ、あっちは」

 誤魔化そうとしたが、マルコの屈託のない目を見ていると、嘘をつく気になれなかった。レナートはぽつりぽつりと話し始めた。エキストラの仕事のこと、家賃が払えなくなって友人のソファを転々としたこと、オーディションに落ち続けて自分の顔さえ嫌いになったこと。

「情けない話だろう」レナートは笑おうとしたが、うまくいかなかった。

 だがマルコは笑わなかった。ただ静かにワインを口に運び、こう言った。

「俺はこの十六年、ずっとこの町にいる。親父の工房を継いで、家具を作って、結婚して、離婚して、また今はひとりだ。世界を見てきたお前からすれば、つまらない人生に見えるかもな」

「そんなことは……」

「いや、いいんだ」マルコは町の方を眺めながら続けた。「毎朝同じ道を歩いて、同じ人に挨拶して、同じ木の匂いを嗅ぐ。俺はそれで満足していた。でも時々、夜中にふと考えるんだ。俺の人生には、何か特別なものがあっただろうかって」

 レナートは黙ってマルコの横顔を見つめた。輝かしい生活を送っていると思っていた自分が、実は誰よりも自分を惨めだと感じていたように、平凡だと思っていたマルコの人生にも、誰にも見せない孤独があったのだ。

「特別なものなら、あるだろう」レナートは静かに言った。「お前の作った椅子に、毎晩座って夕食を食べる家族がいる。お前が直した窓から、朝の光が誰かの部屋に差し込んでいる。それは、僕が七年かけても手に入れられなかったものだ」

 マルコは驚いたように顔を上げ、それから少し照れくさそうに笑った。

「お前は相変わらず、いい台詞を言うな」

「役者だったからね」

 二人は声を合わせて笑った。久しぶりの、飾らない笑い声だった。

「なあ」マルコがふいに立ち上がって言った。「今夜、うちに来いよ。昔みたいに飲もう」

## 三

 その夜、マルコの家の裏庭で、二人は木箱を椅子代わりにして安ワインを飲んだ。夜風が涼しく、頭上には子供の頃と同じ星が瞬いていた。

「覚えてるか」マルコが酔った声で言った。「十四歳の時、お前が学校の劇で王子様の役をやって、セリフを忘れて突っ立ったまま固まったこと」

「やめろよ、それ」

「客席にいた俺が、代わりにセリフを叫んで助けてやったんだぞ。あれがなかったら、お前の役者人生はあの日で終わってた」

「あれは今でも根に持ってる。お前のせいで観客に笑われた」

「感謝しろ。俺がいなきゃ、ハリウッドにすら行けなかったんだからな」

 二人は声を上げて笑った。マルコがレナートの肩に腕を回し、ぐいと引き寄せる。

「本当のこと言うとな」マルコは少し声を落とした。「お前がこの町を出て行った日、俺は柄にもなく寂しくてさ。誰にも言わなかったけど、しばらくお前の部屋があった場所を見るたびに、胸のあたりがざわついた」

 レナートは驚いてマルコを見た。いつも陽気で、悩みなど無縁に見える男が、そんな感情を抱えていたとは思ってもみなかった。

「言えよ、そういうことは」

「男同士でそんな湿っぽい話、するもんじゃないだろう」マルコは照れ隠しに笑った。「でも今日、お前がバールに座ってるのを見た瞬間、ああ、やっと戻ってきたって、心の底からほっとした。誰にも言わなかったが、俺はずっとお前の帰りを待ってたのかもしれない」

 レナートは何も言えず、ただマルコの肩を強く掴んだ。言葉にならない感謝と安堵が、そこに込められていた。

「俺も、同じだ」ようやく絞り出した声は震えていた。「向こうで何もかもうまくいかなくて、惨めで、誰にも本当のことを話せなかった。でもお前になら、情けない自分をさらけ出せる。それがどれだけありがたいか、お前にはわからないだろうな」

「わかるさ、馬鹿野郎」マルコはレナートの頭を乱暴にかき混ぜた。「俺たちは兄弟みたいなもんだ。血は繋がってないが、お前が惨めな時も、俺が惨めな時も、隣にいるのが当たり前だろう」

 二人はそれ以上何も言わず、ただ星空の下でグラスを合わせた。乾杯の理由など、もはやどうでもよかった。

## 四

 その日から、レナートは毎日のようにマルコの工房を訪れるようになった。木を削る音を聞きながら、二人はそれぞれの人生を少しずつ語り合った。

 マルコの離婚の話は、思っていたよりずっと重かった。妻のジュリアとは高校の頃からの付き合いで、誰もが「似合いの二人」と言っていたという。だが子供ができないまま五年が過ぎ、少しずつ会話が減り、ある朝ジュリアが「もう、お互いに義務でここにいるだけよね」と言って荷物をまとめた。

「一番こたえたのは」とマルコは鉋をかける手を止めずに言った。「彼女が出て行ったことより、俺が引き止める言葉をひとつも持っていなかったことだ。好きだったはずなのに、なぜ好きなのか、うまく言えなかった」

 レナートはその告白に、自分のハリウッドでの日々を重ねた。オーディションに落ちるたびに、審査員たちは「何かが足りない」と言った。だが誰も、その「何か」が具体的に何なのかを教えてはくれなかった。足りないものの名前もわからないまま、ただ否定され続ける日々。マルコの孤独と、自分の孤独は、形は違えど同じ重さを持っているように思えた。

「なあ、マルコ」レナートは工房の隅に座り込んで言った。「あの日、お前がジュリアと別れた夜、俺はハリウッドにいて、お前のメッセージに気づきもしなかった。ずっと謝りたかった」

「今更いいよ」マルコは笑い飛ばそうとしたが、レナートは真剣な顔のままだった。

「よくない。俺はお前がしんどい時に、隣にいなかった。これからは、そばにいる」

 マルコは一瞬言葉に詰まり、それから鉋を置いて、レナートの首根っこを乱暴に抱き寄せた。

「お前、ハリウッドで感傷的な台詞を仕込まれてきたな」

「本気で言ってるんだよ」

「わかってるよ、馬鹿」マルコの声はわずかに掠れていた。

 ある日、工房に来た年配の女性がいた。マルコの母、シニョーラ・ベルナルディだった。レナートを見るなり、彼女は目を潤ませて両手で彼の顔を包んだ。

「まあ、レナート。大きくなって……いや、大きいままだったわね。お帰りなさい」

 その言葉に、レナートは不意を突かれた。誰も「おかえり」とは言わなかった。母でさえ、「休みに帰ってきたんでしょう」としか言わなかった。だがシニョーラの言葉には、まるで七年の空白などなかったかのような、当たり前の温かさがあった。

 シニョーラが工房を出て行った後、マルコがぽつりと言った。

「お袋はいつも、お前のことを気にかけていたよ。『あの子は繊細だから、遠くで無理をしていないといいけれど』ってな」

「知らなかった」

「お前は知らないことが多いんだよ、レナート。この町を出てから、何も知らないままだ」

 その言葉には棘があったが、悪意はなかった。ただの事実だった。レナートは自分がこの十六年、故郷について何も知ろうとしてこなかったことに、初めて気づかされた。

## 五

 夏が近づいたある夕方、工房の隅に転がっていた古い木の切れ端を手に取り、レナートはふと言った。

「これで何か作れないかな」

「何が作りたいんだ」

「わからない。でも、何かを作ってみたい。この手で」

 マルコは少し考えてから、道具箱を差し出した。

「なら教えてやるよ。急ぐ必要はない。俺たちには、まだ時間がある」

 最初の数週間、レナートの作るものはひどい出来だった。脚の長さが揃わない椅子、閉まらない引き出し。マルコはそのたびに大げさにのけぞって見せた。

「おいおい、これじゃ客が来た瞬間に椅子が崩壊する寸劇だな。舞台向きだ、ある意味」

「うるさいな、初心者だぞ」

「知ってる。だから手取り足取り教えてやってるんだろうが、ありがたく思え」

 軽口を叩きながらも、マルコは決して笑って済ませず、ただ黙って直し方を見せてくれた。時々レナートの手に自分の手を重ね、鑿の角度を正しく導く。その無骨な優しさに、レナートは何度も救われた。

「役者の仕事と似ているだろう」ある日マルコが言った。「台詞を何度も練習するように、木を削るのも同じだ。一度でうまくいくことなんて、どっちの仕事にもない」

 その言葉が、レナートの中で何かを溶かした。ハリウッドでの七年間、彼はずっと「才能があるかないか」という二択で自分を裁いてきた。だがマルコの言うとおり、演技も木工も、繰り返しの中でしか形にならないものだったのかもしれない。あの七年は無駄だったのではなく、まだ途中だっただけなのかもしれない。

 秋のはじめ、レナートは小さな木箱を完成させた。不格好で、蓋の建て付けも悪かったが、初めて最後まで一人で作り上げたものだった。マルコはそれを手に取り、しげしげと眺めた後、わざと厳しい顔をしてみせた。

「うーん、六十点」

「厳しいな!」

「冗談だ、上出来だよ」マルコはにやりと笑ってレナートの背中をどやしつけた。「よくやった、相棒」

 その一言が、七年分のどんな酷評よりも、レナートの胸に深く残った。

 母にその木箱を渡すと、母は何も言わずにその箱を居間の一番目立つ場所に置いた。翌朝、レナートはその箱の中に、母が大切にしている古い写真が几帳面に並べられているのを見つけた。

 その夜、レナートは久しぶりに母の家の窓辺に立ち、モンテヴェッキオの夜空を見上げた。ハリウッドの空ほど広くはないが、星はよく見えた。

 夢は形を変えただけかもしれない、と彼は思った。舞台の上でスポットライトを浴びることだけが、人生の意味ではないのかもしれない。マルコの工房で木の匂いを嗅ぎながら、誰かのための箱や椅子を作ること。それもまた、ひとつの物語なのだ。

## 六

 冬になり、レナートとマルコは町の小さな劇場から声をかけられた。老朽化した舞台の椅子を新しく作ってほしいという依頼だった。皮肉なことに、レナートが子供の頃、初めて演劇に触れたのがその劇場だった。

「因縁だな」マルコが笑いながら言った。

 舞台裏で寸法を測っていたとき、劇場の支配人が雑談のついでに尋ねた。

「あなた、俳優だったそうですね。今度の町の祭りで、素人演劇をやるんですが、演出を手伝ってもらえませんか」

 レナートは一瞬言葉に詰まった。断る理由はいくらでも浮かんだ。もう演劇には関わりたくない。惨めな記憶しかない。だが、隣で採寸のメモを取っていたマルコが、顔も上げずにぼそりと言った。

「やれよ。俺が椅子を作る。お前は本業に戻れ」

「本業って、俺はもう役者じゃない」

「馬鹿言うな。お前は俺の目の前で、十六年ぶりに水を得た魚みたいな顔をしてる。木箱を作ってる時のお前と、今のお前は顔つきが違うんだよ。気づいてないのか?」

 図星を突かれ、レナートは黙り込んだ。マルコはようやく顔を上げ、いつものにやけ顔で言った。

「やれ。俺が現場監督として見張っててやる。逃げたら承知しないぞ」

 その一言に背中を押され、レナートは支配人に頷いた。

「……やってみます」

 子供たちや町の人々を集めての稽古は、ハリウッドのオーディション会場とはまるで違う空気だった。誰も上手く演じようと気負っていない。ただ、楽しそうに台詞を口にしていた。マルコは毎回稽古場の隅に椅子を運び込んでは、腕組みをして眺めていた。

「監督が見学に来てるぞ」レナートがからかうと、マルコは真顔で答えた。

「当たり前だろう。俺の作った椅子に、誰がどう座るか確認する義務がある」

 嘘だとすぐにわかった。マルコはただ、レナートの晴れ舞台を、誰よりも近くで見ていたいだけだった。

 祭りの夜、小さな舞台の袖から客席を覗くと、最前列にマルコと母、そしてシニョーラ・ベルナルディが並んで座っているのが見えた。レナートは震える手で拳を握りしめた。すると舞台袖の暗がりから、マルコが小道具を運びながらすれ違いざまに囁いた。

「大丈夫だ。俺が客席にいる。セリフを忘れても、今度こそ叫んで助けてやるから」

 その一言で、レナートの震えは嘘のように収まった。

 幕が上がる。

 これはハリウッドの舞台ではない。観客は数十人の町の人々で、出演者はほとんどが素人だ。だが、レナートの胸に去来したのは、七年間探し続けて見つからなかった感覚だった。誰かのために物語を届ける喜び。



## 七

 舞台が終わり、拍手が鳴り止んだ後、レナートは劇場の外でマルコと並んで夜空を見上げていた。

「どうだった」とレナートが尋ねた。

「泣いたよ、恥ずかしながら」マルコは鼻をすすった。「お前が子供たちに演技を教えている姿を見て、なんというか……お前がやっと、自分の居場所を見つけたみたいに見えた」

「居場所、か」

「ハリウッドじゃなかったってだけだ。お前の物語は、ここでも続けられる」

 レナートはマルコの肩に腕を回した。

「なあ、マルコ。もし今夜、俺が客席で叫んでセリフを助ける立場だったら、お前は許してくれたか?」

「何のことだ?」

「十四歳の時のお返しだよ。今日でようやく、貸し借りなしってことにしてくれ」

 マルコは声を上げて笑い、レナートを乱暴に抱きしめた。

「馬鹿野郎。お前と俺の間に、貸し借りなんてものは最初からないんだよ」

 レナートは黙って星を見上げた。もう焦りはなかった。マルコが言うように、彼にはまだ時間があった。舞台のスポットライトを浴びる夢は消えていなかったが、その形は静かに、しかし確かに変わっていた。木を削る手の中に、稽古場の子供たちの笑い声の中に、母が大切にしまった木箱の中に、そして何よりも、隣で笑っているこの幼馴染との時間の中に、レナートの物語は続いていた。

 翌朝、レナートは工房のドアを開けた。マルコがいつもの笑顔で振り返る。

「おはよう、相棒。今日は何を作る?」

 レナートは、七年ぶりに、心から笑うことができた。

「さあ、始めよう」

イタリアの空は今日も穏やかに流れているー

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