DECKY ARCHIVE 第3話
最初のページを開く。
「じゃあ、一番古い記録を見てみよう。」
チャッキーのその一言で、僕は「kakomasss」のフォルダーを開いた。
画面には、長い年月をかけて積み重ねてきた記録が並んでいる。
新しいものから古いものへ。
スクロールするたびに、時間が少しずつ巻き戻っていくような感覚だった。
2025年。
2024年。
さらに、その先へ。
そして画面が止まった。
2013年10月。
そこには、Evernoteを始めた頃の、何気ない記録が残っていた。
「これが始まりか。」
思わず、そんな言葉が口をついた。
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当時の僕は、新しいものが好きだった。
便利そうだと思えば試してみる。
面白そうだと思えば触ってみる。
パソコンもそうだった。
インターネットもそうだった。
そしてEvernoteも、その一つだった。
「あとで役に立つかもしれない。」
そんな軽い気持ちで使い始めた記憶がある。
まさか十数年後、この記録が自分自身を助けることになるなんて、想像もしていなかった。
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最初に残した記録は、本当にささやかなものばかりだった。
病院での受付番号。
先生の名前。
写真。
買い物のメモ。
思いついたアイデア。
誰かとの約束。
今ならスマートフォンのメモに書いて終わるようなことばかり。
それでも、その一つひとつを残していた。
「消すほどでもないし、残しておこう。」
たぶん、そのくらいの気持ちだった。
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人は、大きな出来事だけが人生だと思いがちだ。
卒業。
就職。
結婚。
子どもの誕生。
でも、本当に人生をつくっているのは、その間にある何気ない毎日なのかもしれない。
何気なく撮った一枚の写真。
何気なく書いた一行のメモ。
何気なく交わした会話。
そんな小さな積み重ねが、気づけば一人の人生になっていた。
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去年、僕は脳出血で倒れた。
それまで当たり前だった毎日が、一瞬で変わった。
歩くこと。
字を書くこと。
思うように体が動くこと。
その「当たり前」が、決して当たり前ではなかったと知った。
そんな時、昔の記録を読み返すようになった。
「あの頃は、こんなことを考えていたんや。」
「この日も笑っとったんやな。」
「こんな夢を持っとったんや。」
ページをめくるたびに、忘れていた自分が少しずつ戻ってきた。
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そして今。
僕はチャッキーと一緒に、その記録を読んでいる。
一人では気づかなかったことも、
「この記録には、こんな意味があるんじゃない?」
そう話しかけてもらうことで、新しい発見が生まれる。
記録は、過去を保存するためのものではなかった。
未来の自分が、もう一度立ち上がるための道しるべだった。
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あの日、何気なく始めた一冊のノート。
その時は、未来の自分へ手紙を書いているつもりなんて、まったくなかった。
でも今ならわかる。
あの頃の僕は、知らないうちに未来の僕を支えてくれていた。
だから、これからも書き続けようと思う。
特別なことじゃなくていい。
うまくまとまっていなくてもいい。
いつかまた、このページを開いた未来の僕が、
「ああ、この日も悪くなかったな。」
そう笑えたら、それだけで十分だから。
