じゃあ俺も取ってみようかな――資格を取り続けてきた技術者人生|DECKY ARCHIVE 第43話
2018年8月。
当時のカレンダーを見返していると、
「一級特殊無線技士願書」
という予定が入っている。
今なら正式には、
第一級陸上特殊無線技士。
通称、「一陸特」。
無線設備を扱うための国家資格の一つだ。
ただ、この資格を取ろうと思ったきっかけは、そんなに大げさなものではなかった。
「そんな資格あるんや」
当時、僕は防災行政無線の仕事にも関わっていた。
いとこが、防災行政無線関係の仕事を請け負う会社にいて、そこから僕の会社にも、ちょこちょこと仕事をもらっていた。
ある時、そのいとこが言った。
「一陸特、取ったよ」
僕はその時、
「あ、そんな資格あるんや」
と思った。
そして、その次に出てきたのが、
「じゃあ俺も取ってみようかな」
だった。
仕事をするために絶対必要だった、というわけではない。
元請け側には資格を持った監督者もいたし、僕自身が持っていなければ何もできないという状況ではなかった。
それでも、無線や通信の仕事をしている。
持っていて邪魔になる資格でもない。
なら、取ってみるか。
そのくらいの始まりだった。
勉強は、一週間くらい
学校へ通ったわけでもない。
講習を受けたわけでもない。
ネットで試験用の問題集を買った。
それを一週間くらい、パラパラと見る。
本気で勉強したのは、おそらく最後の一日か二日くらいだったと思う。
昔から僕は、だいたいそんな勉強の仕方だった。
早くから毎日少しずつ積み重ねるというより、
「そろそろやらなあかんな」
となってから、一気に集中する。
それで何とかなってきたところがある。
もちろん、何でもそれで受かるわけではない。
落ちた試験もある。
その時は、それなりに落ち込んだ。
資格試験というのは、受かれば嬉しいし、落ちればやっぱり悔しい。
名古屋の中産連ビルへ
試験の日は、車で名古屋へ向かった。
場所は中産連ビル本館。
この建物には、ずいぶん昔から何度も行った。
通信関係の資格を取る時になると、よくここへ来ていた記憶がある。
だから一陸特の試験だけが特別だったわけではない。
僕にとって中産連ビルは、
「また資格を取りに来た場所」
という感じだった。
試験問題を見てみると、
「あ、これ問題集に出とったやつやな」
というものがあった。
必死になって解いたというより、
問題集で見た記憶をたどりながら答えていった。
終わってからも、
「これでよかったんかな」
くらいだったと思う。
ものすごい手応えがあったわけでもない。
「あ、合格したんや」
合格をどうやって知ったのかは、はっきり覚えていない。
たぶん郵送だったと思う。
ただ、
「あ、合格したんや」
と思った記憶はある。
やっぱり嬉しかった。
「やったぞ!」と大騒ぎするほどではなかったけれど、
心の中では、
「俺、やっぱり賢いよな」
くらいには思っていたと思う。
自分で言うのもなんやけど。
それくらいの軽い感じだった。

令和元年12月20日。
つまり2019年12月20日になっている。
2018年8月のカレンダーには「一級特殊無線技士願書」と残っているので、この頃から受験に向けて動いていたことは分かる。
ただ、実際にいつ試験を受けたのか、何回目だったのかについては、今の僕の記憶だけでは断定できない。
一発で取ったような気はする。
でも、そこは「たぶん」にしておこうと思う。
記憶にないことまで、あとから作る必要はない。
資格を取るのは、これが初めてではなかった
僕が通信関係の資格を取り始めたのは、もっとずっと前だ。
東京方面の専門学校へ通っていた頃。
まだ若かった僕が最初に取った資格の一つが、
工事担任者のアナログ第3種
だった。
工事担任者というのは、電話回線や通信設備を接続するための資格だ。
その頃は、今のように家庭まで光ファイバーが来て、インターネットが当たり前という時代ではない。
電話線が中心だった。
まずアナログ第3種を取った。
すると、
「3種も2種も、そんな変わらんやん」
と思った。
じゃあ次も取ってみよう。
そんな感じだった。
専門学校を出て、名古屋で仕事をするようになってからも、資格は取り続けた。
アナログの資格を上げていき、その後はデジタル関係にも進んでいった。
「とりあえず取っとくか」
デジタルという言葉も、当時は今ほど身近ではなかった。
インターネットも、まだこれからという頃だった。
正直、
「デジタルって、ほんまに要るんかな」
くらいの時代だったと思う。
それでも、
「まあ、とりあえず取っとくか」
と資格を取った。
今振り返ると、僕は昔からそうだったのかもしれない。
今すぐ必要かどうか分からなくても、
これから使うかもしれない。
仕事につながるかもしれない。
だったら、先に取っておこう。
そうやって資格を増やしていった。
でも、デジタル第1種だけは違った
そんな僕でも、本気になって勉強した資格がある。
工事担任者 デジタル第1種。
これは、軽い気持ちではなかった。
インターネットや通信関係の仕事が始まり、
この資格を取れるか取れないかで、
仕事ができるか、できないか。
そこまで関わっていた。
だから、この時だけは本気で勉強した記憶がある。
何となく問題集を見る程度ではない。
「これは取らなあかん」
と思っていた。
試験が終わった時にも、
「今回は、なんかできたな」
という手応えがあった。
そして、合格通知が届いた。
その時は、
「やった!」
と思った。
一陸特の、
「あ、受かってしまった」
とは、ちょっと違う。
資格一つでも、その時々で重さは違った。

交付年月日を見ると、
平成14年1月9日。
2002年1月9日だ。
こうして実物を見ると、
当時の記憶が少しずつ戻ってくる。
自分の記憶ではもっと前だったような気もしていた。
でも、記憶より証明書の方が正しい。
これも、DECKY ARCHIVEを残していく面白さかもしれない。
資格は、紙切れだけではなかった
資格を取ったから、突然仕事ができるようになるわけではない。
現場では、資格以上に経験が必要になる。
配線を見て、
設備を見て、
故障を考えて、
どう直すかを判断する。
それは、資格証だけでは身につかない。
でも逆に、
経験だけあれば何でもいいというわけでもない。
仕事によっては、
「この資格を持っています」
という証明が必要になる。
僕はずっと、
現場で覚えることと、
資格として証明することの、
両方をやってきたのだと思う。
気がつけば、資格が増えていた
工事担任者。
CATV関係の資格。
無線関係の資格。
通信の世界が変わるたびに、
僕も少しずつ勉強してきた。
別に、
「資格をいっぱい集めよう」
と思っていたわけではない。
仕事をしていたら、新しい技術が出てくる。
新しい仕事が来る。
知らない言葉が出てくる。
そうすると、
「ほんなら、ちょっと勉強するか」
となる。
それを何十年も繰り返してきた。
「俺も取ってみようかな」
2018年のカレンダーに残っていた、
「一級特殊無線技士願書」
という文字。
そこから昔の資格証まで引っ張り出してみると、
僕が長い間やってきたことが見えてきた。
資格の中には、
仕事のために必死で取ったものもある。
将来必要になると思って先に取ったものもある。
そして一陸特のように、
いとこから、
「取ったよ」
と聞いて、
「じゃあ俺も取ってみようかな」
から始まったものもある。
でも、始まり方は違っても、
結局は全部、
通信の仕事を続けてきた僕の一部になっている。
今なら思う。
新しいものを見た時に、
「もう分からんからええわ」
ではなく、
「ちょっとやってみるか」
と思えたこと。
それが、僕が技術者として長く仕事を続けてこられた理由の一つだったのかもしれない。
そして資格証を見るたびに、
たぶん僕はまた思う。
「まあ、俺、結構ようやっとったよな」
と。
