火星人襲来パニックの嘘
最近、文藝春秋から「20世紀怪事件案内」が出版されました。この本は20世紀に起きた怪事件、謎事件、お騒がせ事件など、印象に残る馴染み深い事件を漫画で読むことができます。一例を挙げれば、タイタニック沈没、ツタンカーメンの呪い、ネス湖の怪物、ゾルゲ事件、地下鉄サリン事件、ノストラダムスの予言、その他いろいろあります。
その中から「火星人襲来」のエピソードについて書いておこうと思います。
1938年(昭和13年)、アメリカで放送されたラジオ番組「宇宙戦争」を本当の出来事だと信じた人たちがパニックになった、というエピソードを大抵の方は一度は聞いたことがあると思います。
原作はイギリスの作家 H・G・ウェルズが1891年(明治31年)に発表した小説で古典 S F の名作と言われています。
ラジオ放送当日の午後8時、ドラマであることは番組内で告げられていましたが、あまりに真に迫っていたためか、火星人襲来を現実のものと信じた人たちがパニックを起こした、というエピソードはあまりにも有名です。
放送局や新聞社、警察署に電話が殺到し、避難しようとする車で道路が渋滞、暴動が起き、死傷者や自殺者まで出た、と噂になりました。
全米で約600万人が、この番組を聞き、そのうち100万人がパニックに陥った、という話になりました。今でいうフェイク・ニュースのような騒ぎになった、という話が広く信じられてきました。
ところが…..なんと!
「パニックが起きた」
という話がフェイクだったのです。
いや〜、初めて知りました。
放送当日に暴動が起きたという記録はなく、パニックによる死者も確認されていません。パニックのほとんどは新聞が誇張して記事にしたもので、実際に起きたのは問い合わせの電話が殺到したことくらいだったそうです。
なぜ新聞はそのような誇張した記事を書いたのかというと、新興メディアのラジオに広告主を奪われ、危機感を抱いた新聞社がラジオの信頼を失墜させるために仕掛けたものと言われているそうです。この辺りの話は妙にリアリティがあるように思えて興味深いと思いました。
2013年(平成25年)、アメリカの研究者ジェファーソン・プーリーとマイケル・J・ソロコウが事件の再検証を行いました。その結果はそれまで信じられてきた有名なパニックの実態とかなり異なるものでした。
放送当時、ヨーロッパではナチスが台頭し、戦争の危機が迫っていました。アメリカでもその情勢はラジオの速報で度々伝えられていました。それで番組を聞いた人は火星人ではなく、ナチス・ドイツが攻めてきたと思った人もいたようです。
現代においてネット上のフェイクはより巧妙にリアルなものになっています。AIによって作成された動画で、本物か偽物か見分けることは難しいものが氾濫しています。多くの動画投稿サイトはAIで作成されたフェイク動画でてんこ盛り状態となっています。
最近、C2PA(Coalition for Content Provenance and Authenticity)という国際的な仕組みがあることを知りました。「この画像・動画は、どこから来て、誰が作り、どのような編集をされたのか」を記録しておくための国際的な仕組みだそうです。
C2PA自体は「動画の内容が真実かどうか」を判定する仕組みではありませんが、AIとの連携でかなりの確率でフェイクかどうかを判定することができるようです。
AIで作った動画を、そのコンテンツがフェイクかどうかをAIが判断する、みたいなことがこれからの時代、ますます必要になるでしょう。
