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#24 死産 セルフグリーフケア この世界の片隅に

セルフグリーフケア

 立ち直っていく過程で、私はカウンセリングを受けたり、同じ経験をした人に話して少しずつ気持ちを落ち着けて行ったというのもあるが、その過程では自分一人の時間も大事だったと思う。本を読んだり、漫画を読んだり、お笑いを見たり。1人で何も考えない時間も必要だったし、富士ちゃんのことを考える時間、自分の悲しみについて考える時間も必要だった。

その中で、もともと知っていた作品だったが、産後休暇の間に何度も見直してしまった作品がある。こうの史代さんの「この世界の片隅に」だ。この作品は漫画原作でアニメ映画、ドラマ、ミュージカルにもなっている。私は漫画と映画を何度も見返した。

そしてこの作品の喪失を悲しむ表現が如何に秀逸であるかに気付いた。作中の表現をなぞって何度も自分の悲しみについて考え、思い切り悲しみに暮れ、そして自分を慰めた。

*以下ネタバレを含むので読みたくない人は読み飛ばしてください

「この世界の片隅に」こうの史代著 あらすじ
第二次世界大戦末期の広島・呉を舞台に、普通の人よりのんびりしていてドジな性格だけど、絵を描くのが好きな主人公、すずさんの日常を描いた物語。
物語前半は、戦時中ながらも呑気に明るく生きるすずさんとその家族、義家族、友人、ご近所との日常が描かれる。
しかし後半では、終戦直前、厳しくなっていく戦況と空襲だらけの呉が描かれ、ただの一般人のすずさんにも戦火が迫る。
すずさんは小学校入学を控えた姪の晴美ちゃんとなんとか空襲を生き延びて義姉と合流しようと歩いていたところ、爆発せずに残っていた時限爆弾に遭遇し、利き腕の右手と、つないだ手の先にいた晴美ちゃんを喪う。そして満身創痍のすずさんが少しずつ立ち直っていた矢先、実家のある広島市に原爆が投下され、終戦へ。
皆が何かを喪っていた時代、世界の片隅で、耐え難い苦しみを経験しながらも、一般人すずさんが家族と共に生き抜いていく物語。

双葉社「この世界の片隅に」こうの史代 著

悲しみの表現

 作品は戦時中を背景にしている。その過酷な環境は今の日本とは全く異なるが、ただ、普通の人が感じる、喪失による悲しみの本質は違わないのではと思った。もちろん、人の手によって奪われたかどうかというのは大きな違いではあるが。

作中で私が何度も自分をなぞらえてしまったのは、漫画の下巻で、姪と自分の右腕を喪ったすずさんを取り巻く周囲の人の"やさしさ"と晴美を守れたのではないかという自責の念、そして右腕との思い出をなぞりながら虚しさをかみしめるすずさんを描いたシーンだ。

悲しみに暮れる時間

治りが案外早うて良かった、あんたが生きとって良かった、良かった、良かった…
良かった言われるがどこがどう良かったんか
うちにはさっぱり判らん 歪んどる

双葉社「この世界の片隅に」こうの史代 著

苦しみの中で、みんなが前向きに、不幸中の幸いを探してすずさんを励ましてくれるが、すずさんの心を癒すことはできない。

悲しい時、不幸中の幸いを探して自分を慰めようとするときがある。でも、そうして悲しみに抗ってみても、本当は虚しいだけ。無理に前を向くことはない、誰のことも気にせず、悲しみに暮れて構わない、そんな時間がすずさんには必要に見えた。そして、私にもそんな時間が必要なのではないだろうかと思えた。

無くしたものと向き合って
そしてすずさんは自分の右手との思い出も順々に辿って、失ったものに向き合っていく。

昨日ない事を思い知った右手
六月には 晴美さんとつないだ右手
・・・
去年の三月にはふるさとを描きとめた右手
・・・
十年前の八月にはすみちゃんのために砂にお母さんを描いた右手

双葉社「この世界の片隅に」こうの史代 著

 喪ったものとの思い出をたどるのは苦しくて、寂しくて、虚しい。それでも喪失、そして現実と向き合って、気持ちと折り合いをつけていく。辛い作業だが、すずさんがしたように、私も妊娠中の富士ちゃんとの思い出を一つずつ振り返って、思い切り悲しみに暮れて、思い切り泣いた。

8月には帰省で妊娠を友人に祝われた富士ちゃん
7月にはバレエ音楽にはしゃいでよく動いた富士ちゃん
・・・
これで急に気持ちを整理できるわけではない、でも苦しくなるのはわかっていても、富士ちゃんの思い出と向き合うことは、私が現実を受け入れて立ち直るために必要な工程だったと思う。

この世界の片隅に

「この世界の片隅に」に触れて、私はすずさんに寄り添ってもらえたような心持がした。もともと知っていた作品だったが、死産後に読むと全く見方が変わってしまった。これは創作作品であるが、創作作品であるがゆえに他人の経験とその本心に触れられ、そしてそれに救われるということはあるのだなと思った。


今回一番重いシーンを引用しましたが、作品全体としては思わず笑うところもあり、読後には心温まる作品でした。

アニメ映画も厳しい環境ながらもほのぼのとした雰囲気の世界観を表現しています。声優陣もキャラクターを生き生きと表現されており、特にすずさん役の、のんさんの演技が素晴らしいです。

https://note.com/human_toucan116/n/n586a4afa2577%0A%0A%0A

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