さらばカップル~哀愁に包まれた鳩~
近くのカフェでひと休みすることにした。
音楽を聴きながら、ぼーっとする。
こういう時間がなによりの癒しで、最高に贅沢。
座ってる席からは窓の外がよく見えて、いろんな人が歩いてる。
誰にだって帰る場所があって、それぞれに生活があるんやなぁって、そんなことをぼんやり思ったりして。
イヤホンから流れてきたのはサザンオールスターズのミス・ブランニュー・デイ。
「街でよく見るタイプの君よ」ってフレーズが印象的な曲。
確かに最近の人って“街でよく見るタイプ”っぽいなぁとか思ったけどこれ80年代の曲でね。
ってことは、今も昔も人ってそんなに変わらんのかもな〜なんて思いながら、1人用のソファ席に深く腰をかけて、お腹の前で指を組んで、ただ目を細めて、外を見てた。
よしよし、ぼーっとしてきた。
気持ちもじんわり乗ってきて、このまま完全にぼーっとできる!
って時に、俺と窓の間の席に若いカップルが着席した。
あー、そっちに俺が座っとけばよかったなぁ…って思った。
まさにその瞬間。
着席から10秒でまさかのキス。
いやいやいや、嘘やろ。
めちゃくちゃ自然に、口と口やで?
ぼーっとの世界から引き戻されて、現実に連れ戻された上に非日常に放り込まれた。
頭が追いつかへん。
鳩が豆鉄砲食らったってこういうことか。
鳩の気持ちが痛いほどわかった。
そりゃ突然豆鉄砲食らったら驚くわ。
そのカップルは大学生くらいかな。
彼氏は高校球児みたいな短髪で、
彼女はギャルっぽくてちょっと派手。
彼の方はおとなしくて、彼女が引っ張ってる感じかな〜とか思ってたけど、そんなのどうでもよかった。
とにかく、キスしてる。
コーヒーを飲んでは、キス。
ケーキを一口食べては、キス。
さすがにそれ食べにくない?
自分のお腹の奥、1番素直な部分から出た感想がそれやった。
まぁまぁ、若いしね。
そういう愛の表現もあるわな。
ここは俺も落ち着かなあかん。
そんなんで慌てふためく俺じゃない。
とりあえず座り直して、コーヒーをひと口。
それと深呼吸も忘れずに。
大きく息を吸って〜
キスしとる。
吐いて〜
キスしてた。
なんやねんこれ!
俺は一体なに見せられてるんや!
しかも、5分で20回はしてたね。ほんまに。
もうわかった。
そっちがその気ならこっちもやる気よ!
何回するか数えてやんよ!
暇人を、、甘く見なよ!
と、意気込んだと同時に俺は初めて人を見て胃もたれを起こした。
向かい合って座ってたカップルが、気がつけば隣に並んで座ってる。
彼女は彼氏の膝に足を引っ掛けて、首に手を回してる。
ソファでお姫様抱っこされとる。
カフェでやることか???
それもうネカフェでやったらどうやろか???
そんなことを考える俺が変なのか…?
あかん、これ以上見てたら胃がヤラレる。
その瞬間。
まさにギョッとした。
公共の場で服に手を入れるなああああああああ!!!!
さすがにこれ以上は身の危険を感じた。
ここにいたら危険や。
そう判断して、俺は席を立った。
その時、彼氏と目が合ったのよ。
ニヤッてしてた。
なんかすんごい負けた気がした。
俺なんか罰当たるようなことした?
知らず知らずのうちになんかした?
んなわけねえ!!
とにかく店を出て近くの喫煙所へ。
呆然としながらタバコを咥える。
雨が降ってきた。
ライターが濡れて火がつかへん。
泣きっ面に蜂ってこれか…。
これはしばらく引きずりそう。
人の振り見て我が振り直せって先人は言ったけど、
人の振りを見るにも限度があるって初めて知ったよ。
負った傷は鋭く深いけど、俺も行き交う人々の群れに飛び込んで、自分の生活に戻ることにする。
雨に打たれながら。
ほなな、カップル。
