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穏やかなる着地

うちのオカンは賑やかである。

そしてパワフル。

音楽の趣味が俺と似てるから、新しい曲を教え合ったりもするんよ。

最近ではもっぱらVaundyにどハマりしてるようで、なにかとオススメしてくる。

なによりVaundyの不意に見せる笑顔が、俺の笑った顔と似てるらしい。
自分でも似てるなって思うくらいには確かに似てる。

なので、『あんたもギター弾いたら?』とか、
『あんたもお絵描きしてみたら?』とか平気で言ってくる。

似てんのは顔だけやってのに。

そんなオカンやけど、もうすっかり高齢者の仲間入り。
なにせ俺は遅くにできた子やったから。

今これを書いてる現在では、オトンの介護問題でなにかとメンタルがゴリッゴリ削られているけど、この問題が片付いて落ち着いた頃にはオカンの介護問題も出てくるんやろなあと。
色々覚悟はしないと、と最近はそのことばかり考える。

だから、元気でいてくれる今、オカンの希望は最大限叶えてあげたいし、寄り添いたい。

理由があれど、俺はオトンに寄り添うことができひんかったから。

せめてオカンだけは、穏やかなる着地をして欲しい。
それが今の俺の願い。

離れて暮らしているけど、なにかと用事で顔を合わせるので、その都度聞くの。

「なんか困ってることはない?
俺にできることはある?」

でもそんな時は決まって、
『こっちのセリフや!』と笑いながら俺の身体を案じてくれる。

先天性の病気を持つ俺に、
『五体満足に産んであげられへんかった』なんてよく呟いてる。

知ってるんやで。

なにより俺の身体を心配してくれていること。

わかってるんやで。

そんなオカンに俺がしてあげれることなんて、所詮知れてるってこと。

だからこそオカンの望みは叶えたい。
あ、でも、お絵描きや作曲はVaundyに任せといたらええねんで。

チャキチャキしてて、働き者で家族思いで博愛主義で、Vaundyが大好きなオカン。


そんなオカンが今日、突然うちに来た。


チャイムを鳴らすと同時にスペアキーで鍵を開け、俺の名前を呼びながら部屋に入ってきた。

俺はテレビを見ながら洗濯物を畳んでた。

オカンが言うには、
仕事帰りに車に乗ったら車内にバッタが居たそう。
どっかのタイミングで入ったんやろな。

で、どうやらそのバッタが弱ってて動かへんってことらしい。

バッタが動かへんからうち来たん?って最初はそれが面白くて、オカンの話を聞いてた。

実際ビニール袋に入ってるそのバッタを見せてもらったんやが、これがなんと言ってもデカい。

俺の“親指と人差し指で作るL字”よりもデカい。

こんだけデカいバッタは初めて見た。
ので、Google先生に画像検索してもらった。

どうやらショウリョウバッタという種類のバッタさんらしく、イネやススキなんかを食べるらしい。

「でもうちにイネもススキもないで…?

それに言うたらなんやけど、バッタやねんから自然に放ってあげた方がいいんちゃう?」

そんな少しドライな意見を言う息子に対してオカンは、
『別に世界の動物全て助けたいって言うてるわけちゃうねん。
ただ、目の前に落ちてる救える命は救いたいやん』

俺はオカンのこういう、自分本位な優しさがすごく好き。

何回もそれでぶつかったことはあるし、今も俺は俺なりの意見がある。
でも、それで助かる命があるならいいやーん?くらいの温度感で言ってくる。

実際それで助かる命があるから、それでいいと思う。
現に今まで、オカメインコにスズメ、犬に猫にとメジャーな動物は一通り拾ってきた。

そして動物病院に連れて行き、助けれへんかったってボロボロ泣く。

そんなオカンやからこそ、
目の届く範囲の命は助けたいと願うから、仕事終わりに疲れてる中でも車を走らせて、俺にバッタを託したんやと思う。

だから手を貸すしかない。
オカンが俺の名前を呼びながら部屋に入ってきた時から、俺が力になれる案件なんやとは思った。
ただ、バッタはどちらかと言うと苦手なフォルムしてるし、人がしてあげられることなんて限られてるけど…仕方ない。

こうなったらGoogle先生に教えを乞うしかない。

色々調べたけど、結局は新鮮なお水がいいとのことなので、
ほんの少し霧吹きでかけて様子を見ることにした。
こんだけお外も暑いやん?
そりゃバッタさんもバテるわな。

様子を見てる間、Vaundyの新曲がどうのって楽しそうに喋ってはったから、
YouTubeでVaundyの新曲MVを観せると手を叩いて喜んでた。

ほんま賑やかな人。

少し経ってバッタはぴょんぴょん跳ねるまでに回復した。

このまま飼うのもなぁってことで、バッタさんはうちの近くの草むらに帰すことにした。

袋から出してお尻をちょんっと触ると、大きく一回跳ねて草むらの奥に消えてった。

それを見届けて、
オカンも満足そうな笑顔で帰って行った。

オカンを見てると、好きなものがある人ってのは強いんやなと思う。

信念ってほどじゃないけど、なんて言うの?
こう、一本自分の中で筋が通ってる人。

そして自分をよく知ってる人。
なにをすればご機嫌が上がるとか、なにをすれば後悔が残るとか、そういうものをよく知ってはる。
やからここまでパワフルで居られるんやろなと。

オカンの車を見送り部屋に戻ると、オカンからLINEが1通入ってた。

『Vaundyのファンクラブってどうやって入るん?』

やっぱりパワフルやわ。

ほんま負けるわ。

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