あいのかたち


#創作大賞2025 #オールカテゴリ部門



インターホンが鳴る

「やばい来た」

駆け足で玄関まで急ぐ

人生でとてつもなく大きな買い物をした

39歳 独身、7年間男無しの私が3日前に注文した

「はーい」

満面の笑みで玄関の扉を開けると目の前に居たのは理想の男

完璧な容姿、完璧な声、髪型に筋肉の付きかた全てがパーフェクト

「ただいま」

そう言って男は完璧な笑顔を見せた

つい見とれてしまう

「ど、どうぞ入って」

男が私の目の前を通りすぎる瞬間、完璧にいい香りがする

本当に完璧すぎる

男は部屋に入ると迷いなく私がいつも座る席の前に座った

ドキドキしながら震える手を隠して男の目の前に座る

何を話せばいいのか困る

しばらくの沈黙があったあと男が話しだした

「千花(ちか)さん」

「は、はい」

急に話しかけられて声が裏返ってしまった
なんとも恥ずかしい

自分が注文した男とはいえ緊張する

「じゃあ始めますね」

そう言うと男の目が一瞬青白く光った

「アンドロイド識別番号SR.358Aご注文いただいた成瀬たくみ。今日から千花さんの恋人として勤めて参りますのでよろしくお願いいたします」

そう言うと男は深々と頭を下げた

「千花さん1つ質問してもいいですか?」

「は、はい、どうぞ」

「今回なぜご注文いただいたのでしょうか?」

「へ?」

まさかそんな質問されるとは思っていなかった

何を言えばいいものか…
両親を安心させたくて?友人たちも次々に結婚して焦って注文したと言うべきか

でもこのサイトを見つけたのはたまたまだった

「たまたまです。ネットで見つけてなんかいいなと思って」

「そうですかありがとうございます」

男はそう言うと目の光を止めた

「あの、その目が光るやつは何をしてるんですか?」

今度はこっちから質問してみた

「これは僕を作った皆さんに千花さんが話して下さった内容を送信しております」

「はぁ…なるほど…」

なんかロボットっぽい、ってかロボットか

「あの成瀬さん?」

「僕のことは呼び捨てでいいですよ」

呼び捨て?いきなりか…恥ずかしいな
私はゴクリと生唾を飲み込んで思いきって呼び捨てで呼んでみる事にした

「じゃぁ、た、たくみ」

「なに千花さん」

「触ってもいいですか?」

初対面で私は何を言っているのか自分でも驚いた

その質問に男は完璧な笑顔と完璧な歯並びで「もちろん」と答えた

私は緊張しながら男に近づき頬に触れてみた

男の肌は人間のように温かく弾力がありよく見るとちゃんと毛穴があった

「あっ、髭がある」

「もちろんです。僕たちは人なのかアンドロイドなのか区別がつかないように作られていますから」

すごい、すごすぎる

髪の毛も、耳も、目も、爪だって私たち人間と変わらない

むしろ違う所を探す方が難しい

感動しすぎて泣きそうだ

「千花さんお腹が空きました」

「え?食べるの?」

「はい。普通に人間の皆さんが口にするものを食べます」

そうだったネットで見た説明書にもそう書いてあった

お風呂にも入るし、トイレもするし、それにちゃんとセックスもできると

人間の持っている感情を全てインプットされているらしい

ただし子孫は残せないとも書いてあった

わたしは椅子から立ち上がり冷蔵庫の中を調べた

何を作るか迷って明日には賞味期限の牛乳があったのでグラタンを作った


「どうぞ召し上がれ」

「いただきます」

男は丁寧に両手を合わせたあと、スプーンでグラタンをひとくちすくってふーふーしながら食べ始めた

男はグラタンを食べるなり、熱い、熱いと言いながら全て完食した

「ごちそうさまでした。本当に美味しかったです。千花さんのグラタンまた作って下さいね」

男の完璧な笑顔を見るたびに私の渇ききった心に潤いが戻っていくようだった

それから男は入浴を済ませテレビを見ながらテレビを見ている

私がお風呂に入りあがってくる頃には男はテレビを消してベッドに横になっていた

私は男を起こさないようにテレビをつけて聞こえるはずもない音量でみていた

しばらく経った頃だった

「千花さん」

寝ていた男が目を覚まし後ろに立っていた

「すみません起こしました?」

「いいえそれより一緒に寝ませんか?」

その言葉に私の体は一気に緊張で固まってしまった

7年間、彼氏無しの私の体は今すぐにでもこの男を襲ってしまいたかったが、初対面でそんな事できるわけない

男の誘いに悶々としていると、突然、後ろから抱きしめられた

こんな事されては完全に駄目だ
私の心臓は完璧に爆発した

それからのことはもう消し去ってしまいたいほど恥ずかしいものになった

私は理想の男に7年間の悔しさ、寂しさ、恐ろしいほどの性欲を全身を使ってぶつけた

けれど男はなんの抵抗もせず私の全てを受け入れた

だから私は遠慮することなく馬鹿になった

男の服を剥ぎ取るように脱がすとこれまた完璧な肉体美が現れた

それを見るとなおさら興奮してしまった

自分が今セックスしている相手がアンドロイドだとは全く思えない

人の温もり、人間らしい匂いがする夢でも見ているかのようだった

なんだか自分に蓄積した贅肉たちが恥ずかしい

だけど念願叶って理想の男に抱かれているという幸福感が私の全てを包みこんでいた

今まで自分でも聞いたことのない声をあげその声が自分の耳にまで聞こえてくるとさらに興奮した

そして全てをぶつけまくった朝、かなりの疲労で目を覚ました

だけど体は疲れていたが心は幸せでいっぱいだったそれになんだかいい香りが部屋中に立ち込めている

男は私より早く目を覚まし朝食を作っていた

そういえば今まで付き合った男たちには朝食など作ってもらったことなどなかった

でもまあ、そんなことどうでもいい
今までの人たちは私の理想の人ではなかった

だけど今は目の前に理想の男がいる、しかもそんな人が朝食を作っている私の為に私だけの為に

なんという幸せか涙が出る

たくみは鼻歌を歌いながら作っているなんてかわいいのか

にやけながら見つめていると目が合ってしまった

「おはよう千花さん」

「おはようたくみ」

「ご飯食べよう」

「うん」

テーブルに並べられた朝食を見て感動してしまう色んな色がある夢の世界だここは

いつも私の朝食は菓子パンか、コーヒーのみ
こんな色鮮やかな朝食を見るのは生まれて初めてだ

どれから食べようか迷ってしまうがとりあえず目玉焼きに手をつけた

旨すぎる

美味しすぎて泣きそうだ

その目玉焼きを皮切りに他の料理たちを無我夢中で食べた

無我夢中で食べている私の姿を見たたくみた呆然としていた

その視線に気づいてしまった私は恥ずかしくて顔が真っ赤になった

「千花さん、そうとうお腹空いてたんですね」

たくみは笑いながら言った

「ごめん」

顔を真っ赤にした私を笑顔で見つめている
もうドキドキが止まらない

話を変えようとたくみに私はこう言った

「そうだ、今日デートしよう」

「デートですかいいですね」

たくみはそう言って笑いながら私の口元についたご飯粒を取ってパクっと食べていた

なんとも朝から刺激の強い心臓がまた爆発しそうなほどドキドキしている

そんな最高な朝から始まったせいかその日1日は、それはそれは最高な日になった

その日をさかいに二人で何度も外へ出かけた

出不精だった私には目に写る全てのものが新鮮だった

新しく出来たお店や、ずっと行きたいと思っていた飲食店がもう潰れていたり街並みがすっかり変わっていることに気づかされた

ある日街で会社の同僚と出会ってしまった時があった

同僚は私と仲良く手を繋いでいるたくみを見て目を丸くしていた

その目はまるでこの世の中にこんないい男がまだ残っていたのかという感情だった

そしてなぜこんなにいい男が私みたいな女と仲良くしているのか不思議でたまらなそうな顔だった

会社ではあまり話さない正直嫌いなそいつが私に話しかけてきた

「ちょっと千花さん?なに?このいい男。弟さん?」

は?腹が立つこと言いやがって

私がこんなにいい男と付き合えるわけないと思っているのだろうか

私が少し不機嫌になったのがたくみにははっきりとわかったらしく横からこう言った

「いいえ。千花さんと真剣にお付き合いさせていただいてます成瀬です」

そう言って深々と頭をさげたたくみを見て少し誇らしくなった 

「そうなんです。わたしたち付き合ってるんです」

私はそう言ってたくみの腕に甘えるようにしがみついて見せた

その姿を見て同僚はあきらかにイラついている様子だ

「あ、そ、そうなんだ。おめ、おめでとう。ははは。じゃあね。」

同僚は逃げるように帰っていった

いつも金持ちの旦那の自慢ばかりしている同僚に仕返しができて良かった

きっとこいつのおしゃべりのせいで会社には私の恋人の事はバレてしまうだろうけど
でもそれでもいい私は悪い事はしていないのだから

それにいつもぶりっ子ばかりしているあの部下も黙らせる事ができるはずだ

なにもかも完璧にうまくいく

別の日には2人で温泉にも行った

いつもお風呂に入っているから温泉も大丈夫だろうと思っていたら、少しずつピリピリすると言っていた

でもそれ以外は何も問題なかった

毎日楽しく過ごしていると、たくみがアンドロイドだということを忘れてしまう時があった

だけど道を歩いていると散歩中の犬によく吠えられていた

どの犬も飼い主さんの後ろに隠れて歯茎を剥き出しにしながら唸り、しっぽはお尻を隠すように丸くしていた

野良猫もたくみを見るなり、シャーっと言い背中の毛を逆立てて威嚇していた

やっぱり動物にはなにか目には見えない嗅覚というものを感じてしまうのかもしれない

そのたびにたくみはひどく落ち込んでいた

どうやら動物が大好きだったらしい

ときには喧嘩もしたりしたが次の日には仲直りしていた

そしてあっという間に2年が過ぎてしまった

本当にあっという間だった

そんな何気ないある日、夕食を済ませ2人でテレビを見ていたら、たくみがこう言った

「結婚しようか」

一瞬、何を言われたのか理解できなかったがすぐに理解できた

何も言えずたくみを見つめて固まってしまった

たくみも何も言えない私をじっと見つめている

「い、嫌ですか?」

その言葉にはっとした

「い、嫌じゃないです。いいんですか?私で」

たくみは優しい笑顔を見せて私の両手をぎゅっと握った

その手はいつもより温かく大きく感じた

「はい。千花さんがいいんです」

たくみのプロポーズは私にとって完璧なシチュエーションだった

完璧な男はどこまでも完璧だった

2年付き合って、プロポーズを貰ってからようやくたくみを両親に紹介した

両親共に驚いていたがとくに動揺することなくたくみを受け入れ結婚も許してくれた

私としてはもう少し何かがあってもいいんじゃないかと思ったが、まあ、平和に収まって良かった

それかれ一生着ることのないと諦めていたウエディングドレスを着ることが出来た

これもまた完璧なドレスに完璧な結婚式だった

両親も涙を流し喜んでいた

ただ、たくみがアンドロイドだということは話していない

きっとこの先も話すことはない

たくみとの結婚生活は付き合っていた頃よりも幸せだった

だけど1つ心配な事があった

私たちには子供ができないということ

それだけはもうどうしようもないこと

けれどなにひとつ悲しくはなかった 

だって、子供も注文した

いつの日か、たくみに子供の事を話した事があった。その時教えてくれた

たくみは自分達アンドロイドには成長型アンドロイドというものがあると言っていた

それは生後1ヶ月の赤ちゃんから人の寿命まで機能し続けるというロボットだった

そんなものまであるのかと感心し、その日に注文した

赤ちゃんは、たくみの時と同じように好きな顔や、目の色、性別、性格などいろいろ決められた

一週間後、家に届けられたのは生まれて1ヶ月たった赤ちゃんのように見えるアンドロイドだった

たくみを作っている会社の社員が直接届けてくれた

本物の赤ちゃんのようにベビーカーに乗せられ眠っていた 

よく見てみると寝息が聞こえる

赤ちゃんを受け取ったのはいいがまずどうすればいいのかわからない

初めのうちはあまりかわいいと思えなかった

だけどミルクを飲ませたり、オムツを変えたり、お風呂に入れたりと2人でしていくうちにアンドロイドでもかわいくて仕方のない存在になっていった

私よりたくみの方が赤ちゃんの扱いが上手だった

その赤ちゃんアンドロイドは、ひかるという名前をつけた

かわいいかわいい女の子

大きくなるにつれて私には似ても似つかないほど、かわいい顔をしていた

だが、たくみがかなりのハンサムだった為、誰もこの子の事を疑わなかった

そのあと、私たちは調子に乗って双子の赤ちゃんアンドロイドを注文した

名前は、りくとけいた

性別は2人とも男の子

この双子はとてつもなく大変だった

双子は双子らしく泣くときは同時に泣いた

お腹が空くときも必ず2人同時だった

気づけば私は3人の母親になっていた

隣には完璧な旦那がいて、目の前には完璧な子供たちがいる

自分が死ぬまでこんなに幸せでいいのだろうかと思ってしまう

私の人生はなんて完璧なのだろう


私の両親は子供や旦那に囲まれて幸せそうな写真を見つめていた

「お父さん、千花には本当の事を話したほうが」
千花の母親は涙をこぼしながらそう言った 

「必要ない」

父親は幸せそうな私の写真を見ながら答えた

「だって、千花もアンドロイドだって知らないのよ」

「知らんでいい。今は幸せに暮らしているんだ」

「そうだけど」

「俺たちも孫が出来て幸せじゃないか」

父親も声を震わせながらずっと写真を見ている

母親はオレンジ色に染まる空を見つめている

「でも、千花を作った方達にあんな事を言われた時は驚きました」

「ああ、そうだな」

それは千花が37歳になったある日、両親の所に千花を作った会社の人間達がやって来るなり突然こんな事を話した

「アンドロイド同士を結婚させたいのですが」

そんな提案を聞いた時、千花の両親はかなり戸惑った

けれど詳しい話を聞いていくうちに悪い話しではないと思えてきた

それで仕方なく承諾した

千花の父親は空を見上げてこう言った

「千花はもう37歳になるんだな」

千花の両親には子供が出来なかった

結婚して8年頑張ったが授からなかった

もう精神もお金もぼろぼろだった

むしろお互いの事を少し嫌いになっていた

2人は絶望の中、一筋の光を見つけた

それはアンドロイドを作っている田中という男と知り合った

両親は田中の話を食い入るように聞いていくうちに、子供を作ってほしいと言ってしまった

もう必死だった

田中には両親の必死さが伝わったのか理由も聞かずに承諾した  

そしてしばらくして人間と全く区別のつかない千花を作り上げた

千花は成長型アンドロイドだ

生後3ヶ月の千花が両親の元へ届けられた

母親は千花を腕に抱くとアンドロイドとは思えないほどの温もりを感じた

その瞬間、母親は大粒の涙を流しそしてこう言った

「なんてかわいい子なの」

そう言ってずっと泣いていた

それはまるで8年間の苦しみが報われた瞬間だった

それから両親は溢れんばかりの愛情を千花に注いだ

どれだけ夜泣きをしても好き嫌いが多くても、たくさんわがままを言っても怒らなかった

どんなに大変だと思えることでも二人にはとてもかわいくて宝物のように感じていた

幼稚園に行く年齢にまで成長した時には二人して心配でたまらなかった

怪我をしたり、怪我をさせられたりするのではないか、それが原因で千花がアンドロイドだど気づかれてしまうのではないかという恐怖が両親を襲っていた

けれど幼稚園に入った千花は意外にもすぐ友達も出来て毎日楽しくやっていた

それに卒園するまで誰も千花がアンドロイドだと気づく者はいなかった

なぜなら周りの子供達と同じように遊び、給食を食べ、お昼寝をしたり、かけっこもして、夏にはみんなと一緒にプールにも入っていた

千花はどこにでもいる普通の無邪気な子供だった

一度だけ同じクラスの男の子に泥団子をぶつけられて大泣きしながら帰ってきた時があった

全身、泥だらけで大泣きしている千花を見た父親は顔を真っ赤にするほど激怒して幼稚園まで怒鳴り込みに行った事もあった

その時は園長先生と泥団子をぶつけた男の子の両親が来て、話し合い穏便に済んだ

千花の卒園式には両親2人して人目も気にせず号泣していた

二人は千花がアンドロイドだという事を忘れてしまうほどになっていた
 
小学生になると幼稚園の頃とは違い人の数も倍になっていた

千花はこの人の多さに恐怖を覚え学校に行きたくないと言い出した

両親は無理をさせずにゆっくりと千花のペースを守りながら登校させた

少しずつ学年があがっていくうちに千花にはあっという間に沢山の友人が増えた

5年生の頃には恋をした

そしてもう、学校へ行きたくないとは言わなくなっていた

千花の初恋の相手は隣のクラスの担任の先生だった

それを知った両親は衝撃を受け授業参観の日にはこっそりその先生を二人で見に行ったりもしていた

先生はごくごく普通の人だった

とくにはかっこいいとも言えなかったが千花にはものすごくハンサムに見えていた

こっそりと見ていたら先生が気づいて千花の両親に優しく笑いながら会釈をした

その笑顔を見るなり千花の母親はクスッと笑った

その先生の笑顔はどことなく千花の父親の笑顔に似ていた

そのことを父親に話すと恥ずかしいと言いながら、顔は満面の笑顔だった

そしてあっという間に千花は中学生になった

千花は一年生の頃、バスケット部に入部した

千花にとって部活は人生で一番、楽しかった時期だった

部活をやり始めてから帰りが遅くなった

早くても午後7時半、遅いと午後9時を過ぎていた

この事を両親はとてつもなく心配していた

父親は千花に部活を辞めるよう何度も言った

父親のその言葉に千花は激怒した

この時初めての親子喧嘩をした

父親も母親も初めて見る千花の表情にショックを隠しきれなかった

けれども千花は卒業するまで部活は辞めなかった

その時からかもしれない千花の反抗期が始まったのは


高校生にもなると千花に彼氏が出来た 

千花が高2の時、ひとつ上の先輩だった

この先輩はとても優しくておとなしい人だった 

千花は学校の終わりと、日曜日には必ずデートをしていた

短いスカートをはいて、濃いめの化粧をしてピアスやネックレスなどをしていた

どんどん変わっていく娘を見て両親は生きた心地はしていなかった

毎日のように注意を言ったり、毎日のように怒ったりしていたが千花は聞く耳を持たなかった

それどころかむしろ舌打ちをしたり、壁に自分の鞄を投げつけたりしていた

千花自身もこの怒りを自分自身で押さえられない様子だった

そんなある日、千花が朝帰りをした事があった

両親は心配で心配で一睡もしていなかった

早朝6時45分千花が帰ってきた

千花が帰ってくるなり父親ではなく母親が千花の頬をビンタした

千花は怒り母親を睨みつけていた

号泣している母親の後ろで父親は驚いて手も足も出なかった

千花と母親は数日いっさい口をきかなかった

そんな日々が続いていたある日、千花の方から母親に泣きながら謝ってきた

母親も何も言わず千花を抱き締めてあげた

そしてこう伝えた

「あなたはどんな事があっても、私の宝物。かわいい私の大事な娘なの」

母親の言葉に千花は心が温かくなりずっと泣いていた

そんな千花を母親はずっと抱き締めていた
 
先輩と付き合って半年も経つと二人は喧嘩ばかりしていた

それがきっかけであまり話さなくなり、連絡も途絶え、結局、先輩が卒業すると同時に二人は破局した

千花の生まれて初めての失恋だった

先輩が卒業し、おまけに失恋もしてしまった千花は自暴自棄になり暴飲暴食をするようになった

千花が高校を卒業するころには体重が80キロを越えていた

両親はアンドロイドとはいえ太っていく娘を見て驚きを隠せないでいた

両親は千花を説得し家族全員でダイエットを始めた

そのおかげで千花は大学1年生の後半には昔の千花に戻っていた

この頃から千花はひとり暮らしを考えていた

千花は両親に自分の思いをぶつけた

最初は反対されたが千花の熱意に負けて大学2年生になる頃には念願のひとり暮らしを始めた

両親は毎日、毎日、朝と夜に電話をした

困ったことはないか、ご飯はちゃんと食べているかなど毎日、毎日、同じことを聞いていた

そんな日々が千花にとっては少し苦痛だった

千花はアルバイトも始めた

最初のバイトは居酒屋だった

慣れない仕事に悪戦苦闘していたが2ヶ月もすると楽しくなっていた


だけど勉強と両立するのが難しくなり9ヶ月で辞めてしまった

それからの千花は大学の勉強に集中した

空いている時間は遊びにもいかずほとんど勉強していた

サークルや合コンなども興味はあったが失恋してから人と関わるのを避けてしまっていた

大学もそろそろ卒業が近いとなったときいつものように両親から千花に電話があった

だか5分ほど鳴らしても千花は出なかった

それから何度も、何度もかけ直しなが千花は出る様子はない

心配になった両親は1時間かけ、千花のアパートへ向かった

父親は心配のあまり制限速度を20キロもオーバーしていたがそんなこと気にする余裕などなかった

そしてようやく千花のアパートに到着した


二人は急いでシートベルトを外して車の鍵もかけずに千花の部屋のチャイムを鳴らした

応答はない

母親は合鍵でドアを開け中に入ると風呂場で千花が倒れていた

両親は慌てて千花にかけより抱き上げると千花の目は真っ黒になっており、体中からブンブンと妙な音が鳴っていた

両親は急いで千花を作った知り合いの男性に電話をした 

その知り合いはその日の深夜には急いで千花を引き取りに来た

どうやら千花は風呂場の水で滑って頭を強く打ちそのせいで頭に埋め込まれていた精密機械に支障が出てしまったという

千花が治るまで両親は震え、泣いていた

頭を打ったせいで自分達の事や、たくさんの思い出を忘れてしまうのではないかと不安だった

それから結局、修理に2ヶ月もかかってしまった

2ヶ月後、千花が目を覚ました

千花は病院のベッドに寝ていた

千花の意識は朦朧としていた

目を覚ました千花に両親は声をかけた

「千花。わかるか?父さんだぞ、母さんもいるぞ。わかるか?」

泣きながら自分の事を見つめている両親をみて千花は「うん」と小さく答えた

そのあと、自分がお風呂場で転んで頭を打ち手術を受け2ヶ月も意識がなかったと教えてもらった

それから千花は完全に回復して、今までの出来事も全て覚えていた

母親は何かあったら心配だからと千花が卒業するまで一緒に暮らしていた


卒業したあと千花はしばらくやりたいことも見つからずふらふらとしていたが近くのスーパーでバイトを始めた

とくにやりたい仕事でもなかったがなんとなく三十代後半まで働いていた

もちろん職場恋愛もしたり、同僚に誘われてずっと憧れていた合コンとやらにも参加することができた

けれどもまったく楽しいものではなかった

それに職場恋愛などするものではないと知った

別れた後の気まずさったら酷いものだった

結局、その気まずさに耐えられなくなった元カレが職場を去って行った

千花はいつも心の奥の方にもやっとした不安を抱えていた

自分はいつまでこのままの生活を繰り返しているのか、そしていつまで自分は独りなのかと

このままこんな感じで日々が過ぎていき独りで生き独り死んでいくのかと、そう思っていた

そんな楽しくもおもしろくもない、なんの刺激もない毎日を生きている頃だった両親の元へアンドロイド同士の結婚をさせていたいと話がきたのは

とんでもない話しだったか今となっては両親に後悔はなかった

千花には理想の男が作れるというサイトをわざと見つけさせ、アンドロイドを注文させる事に成功した

そして作られた理想の男に千花がアンドロイドだと気づかれないように作った

千花の脳内に埋め込まれているカプセル型の精密機械に自分は生まれながらの人間なんだと強く思い込むように操作した

それから2年後、千花から結婚相手を紹介された

会ってみると千花みたいに人間と区別がつかなかった

この感覚は初めて千花を見た時と同じだった

最初は戸惑っていた両親だったが、話しをしていくうちに、たくみの事を受け入れ父親はいつもより酒が進んだ

かなり酔っ払った父親はたくみと一緒にお風呂に入り、お互いの背中を流しあった

父親は結婚とは何かをたくみに熱心に話していた

そんなこともあってか父親もたくみもいつもより長く風呂に入っていしまい二人とも完全にのぼせてしまった

父親は気持ち悪さと、ふわふわとする意識のなか心は幸福感で満たされていた

孫はできないとわかっていたがそんなことどうでもよかった

千花がもう独りぼっちではなくなったのだからそれだけで幸せだった

それから少しして、千花から子供が出来たという連絡がきた

その時、父親はちょうど千花の幼い頃の写真を綺麗にまとめたアルバムを見ていた

アルバムを見ているうちに父親の目からは大粒の涙がこぼれていた

子供だと言っているその子はロボットだと知っていたからだった

父親は写真を見つめこう言った

「ごめんな千花。普通の、家族になりたかったな。普通にさ」

そう言って父親は次から次へと涙をこぼした

「お父さん大丈夫ですか?」

母親はそっと優しく父親の背中をさすりながら泣いている

「俺たちはこんなに幸せだけど千花は幸せだろうか。ほんの少しでも幸せを感じているだろうか」

「幸せに決まっています。こんなに素敵な家族ができたんですから。それにこんなに素敵な父親もいるんだから」

「もっとちゃんとした父親だったらよかったけどな」

「そんなことありません。」

二人はいつまでもいつまでも満面の笑顔で笑っている千花の写真を見つめていた





いいなと思ったら応援しよう!