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第16話 冬 ゾンビと日常 |時給一年

「ゾンビ映画とかドラマ流行ってるよな」
朔がいう。蓮と透と灯はキッと朔へ視線を送った。
「うん、なんか最近流行ってるみたいね」
私が答える。灯と透と蓮は顔を見合わせている。
「お!?澪が乗ってくるのは珍しいな!それに引き換えお前らは!まったく、お通夜かよ…」
「お前なぁ」
「まぁいいや。そういうのが現実に起こったらさ、どういう役回りと思う?」
朔は軽く流して興奮気味に続ける。
「まずあんたは真っ先にでしょ?」
「まずって何だ」
蓮が即答するのに朔が答える。
「俺は安全なシェルターをいち早く確保しているからまず最初にやられることはないんだよ」
朔は自信満々に答える。
なんとなく朔がシェルターを確保しているのはそんな気がする。なのに何だろう?この安心できない感じ。
「大船に乗ったつもりで居られるぜ?」
朔が鼻高々に言う。
「大船?大きな穴が空いてるんだろ?」
それを透が突き落とす。
「うん。」
「たしかに。」
「私もそう思う。」
満場一致。
「君たち、この朔を甘くみてはいないかい?俺は巨大なショッピングモールをシェルターとしているのだ!」
朔が豪語する。誰も呼応しない。
「あれ!?ショッピングモールをシェルターとしてー」
「そこはいいから。それで?」
透が促す。
「いや、驚くところ!」
「沈黙が答えなんじゃない?」
蓮が半笑いで答える。
「何ぃ!」
「内容によっては驚くかもよ?」
灯が言う。
「いや、なんでも揃うショッピングモールだぜ?生活にはもう困らない!避難してくる人を受け入れながら朔の牙城がどんどん大きくなっていくのだ!」
「避難してくる人と一緒にゾンビ入ってきそうね」
私が言うが
「ゾンビと避難民くらい見分けられるぜ?」
自信満々に朔は答える。私は朔にスーッと近づいていく。
「よくドラマや映画では噛まれてたのを隠してそういうところ来る奴もいると思うけどどうやって見分ける?」
「顔!」
「やっぱダメだw」
「いや、俺の目に狂いはないから!」
「実は私ゾンビでした」
私は朔の右手に噛みついた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「朔終わったww」
「いや、まだだ!噛まれた右手を切り落として命を繋ぎ止めれば!」
「左手!」
ガブッ
「終わったわww」
「いや、まだ足が!」
「さすがに足には齧り付きたくはないかな笑」
「と言うかな、お前の牙城にゾンビ入っててお前はもう両手噛まれてるのよ。ショッピングモール終了だって。」
「いや、まだ諦めない!両手失っても俺は生き延びるぜ!」
「ゾンビひしめく世界でどう戦うんだよ」
朔はうーん、と考えている。
まだ希望捨ててないんだ。
「これ、首筋くらい噛まないとダメかな?」
「やめろぉぉぉ!!澪さん、何でもしますんで穏便に!」
にっこり。
「いただきます」
「ぎゃああああああ!」
「朔終わったww」
蓮は横で笑い転げている。
「これで朔もこっち側だよ」
「澪ってこんなにノリ良かったっけ」
涙を拭いながら蓮が言った。
「…ふふ、たぶんね」
「ええい!もういい!お前らは何やってるんだよ!?」
「俺は木の上にでも小屋を作って生活してるかな」
「つまんね」
「お前が面白すぎただけだろ。俺は堅実に長く生き残る方法を考える」
「蓮は?」
「私はいろんな場所をムギと一緒に彷徨い歩いてるかな。たまに補給してふらふらっと」
「俺のシェルターも活用してー」
「さっき壊滅したでしょww」
「ぐぬぬぬぬぬ」
朔が恨めしそうに私を見る。ピース!
「ぬおぉぉぉぉ!!」
朔が頭を抱えてのたうち回っている。楽しい。で、合ってるよね?
「灯は?」
「私は、そうだなぁ。ずっと澪と一緒に行動してたと思うから私もゾンビ側なのかな?」
「いや、俺は灯の方を見て2人を招き入れたんだ。澪は普通だった!」
「はいはい、後付けでもあんたもう両手噛まれてるからね?」
「じゃあ朔が噛まれたのを見て、澪抱きしめて首から胸から噛まれるかな」
全員の視線が灯に集中する。
「それでいいの!?」
私も驚いたが灯は軽く頷いて続けた。
「たぶん私1人じゃ生き残れない世界だし。それに、同じ噛まれるなら澪がいい」
「灯…」
灯が右手を差し出してきた。右手はまだ痛い、きっと灯も。
私は目頭が熱くなって灯がよく見えなかった。手を広げていると灯の方から飛び込んできた。私は抱きついて首筋に噛みついた。すっぱい。
「その頃朔は?」
透が朔を指差す。
「ぬおおぉぉぉぉ!!」
みんなで大笑いした。

◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇

「ゾンビのいる世界、か。」
部屋で天井を眺めながら呟く。
「すごい話題持ってきたな」
でも、みんな湿っぽくならなくてよかった。
死んで動いてる存在、か。
認めたくないけど。

目を閉じてみる。
荒れ果てた世界。ゾンビが徘徊する世界で生存者は今日の生存のために生きている。ゾンビは空腹を満たすために徘徊、獲物を探している。
灯はそういう世界が来ても私と行動してる。私も同じだと思う。生き残ることじゃなくて私と一緒にいることを選んでくれてた。
私がゾンビ側でも躊躇がなかった。
私がゾンビで悪ノリしたら迷わず一緒に来てくれた。

「じゃあ朔が噛まれたのを見て澪抱きしめて首から胸から噛まれるかな」

怖いはずなのに、そんな私でも抱きしめてくれるんだ。
灯、すごいな。

逆だったらどうするだろう?
一緒に行動してた灯が突然朔を噛み出した。
「ゾンビだ!」って一瞬で察する。
体は灯なんだろうけど、顔は灯かな?抱きしめること、できるかな?
分からない。
灯はその場で即答してくれたのに、「分からない」なんて、情けないな。

武器を持ってたとして、灯に使える?
無理。それは即答できる。
走って逃げる?
うーん、1人で逃げてるところは想像ができないな。走るにしても灯の手を掴んでるんじゃないかな。走り疲れて動けなくなったら灯を抱きしめるかな。
その時の灯、どんな顔をしてるんだろ?
怖く、ないかな?
灯と最期は一緒なのに、だいぶ遠回りした気がする。

即答…か、

枕をギュッと抱いて噛みついてみた。
灯の首の弾力とは違う。ビーズの枕の方が固い。
ーーどうして灯は、あんな選択できるの?
私は枕に顔を埋めたまま強く噛んでみた。


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