架空の島に未来の行政施設を建てよう!探究で挑む「架洲™プロジェクト」〜南さつま市の未来を描くまで〜
鳳凰高校サイエンスクラブ顧問の中村太悟です。
DXハイスクール校である鳳凰高校では今、デジタル技術を駆使して、地域課題の解決に挑むワクワクするような探究プロジェクトが動いています。
その名も、「架洲™(かけしま)プロジェクト」。
私たちの住む南さつま市の課題に向き合い、「未来の行政施設」をゼロから考案して、バーチャル空間上に建設してしまおう!という壮大な取り組みです。
完成したものはこちら!
探究の時間に制作した未来の行政施設のイメージムービー#UnrealEngine5 と #Blender を使って制作しました。 pic.twitter.com/HKDyUThFXu
— 鳳凰高校サイエンスクラブ (@HoohScienceClub) December 18, 2025
完成した作品を見ると、生徒たちの創造力や技術力に驚かされるばかりですが…実はここに至るまでの道のりは、決して平坦ではありませんでした。
今回は、総合的な探究の時間で生徒が活動した軌跡をまとめたいと思います。
架空の島に「未来の行政施設」を建てよう!
今回の舞台は「架洲™(かけしま)」と呼ばれる架空の島です。

本校の卒業生であり、株式会社IDENCEの加藤さんが推進する「架洲™プロジェクト」で、「架空の地域の行政施設を高校生にも考えてもらいたい」とお声かけいただいたことがきっかけでした。
この島に、南さつま市の実在する土地の情報や地域課題を反映させ、「未来の行政施設」を建設するというのが今回のミッションです。

しかし、ただ自由に建物を作る活動ではありません。加藤さんのプロの視点を取り入れた「本気の探究活動」としてスタートさせました。
Unreal EngineやBlenderといったソフトウェアを使いながらも、根底にあるのは「私たちの未来の街をどうするか?」というリアルな問いかけです。
いきなりデジタルではない。まずは「リアル」を知る授業。

このプロジェクトでは、すぐにパソコンを開いて作業を始めたわけではありません。
何を何のために作るのか? 誰のために作るのか?
ここがブレていては、良い活動にはなりません。
そこで今回は、制作に入る前に「徹底的にリアルを知る時間」を設けました。
南さつま市職員による自治体の現状

まずは南さつま市の行政職員の方に来校していただき、特別講義を行っていただきました。
そこで語られたのは、リアルな地域の現状です。
現在、検討されている「南薩振興局の移転に伴う行政施設建設」という、具体的でホットな話題を含め、行政が建物を作る難しさなどをお話しいただきました。

「もし本当に新しい施設ができるなら、どんな機能が必要か?」
「今の南さつま市に足りないものは何か?」
行政の方の切実な言葉を聞くことで「自分たちの街の未来に直結している」と、このプロジェクトが単なるシミュレーションではないんだということを肌で感じることができました。
「架洲™」に込められた想い

また、加藤さんからは「なぜ架空の島『架洲™(かけしま)』を作るのか?」という根本的な問いについてお話しいただきました。
あえて「架空の島」という設定にすることで、制約に縛られすぎない自由な発想が可能になること。そして、この「架洲™」を実験場として、様々な地域課題の解決モデルを試してみたいという加藤さんの熱い想い。

行政からの「現実的な課題」と、加藤さんからの「クリエイティブな視点」。この2つのバトンを受け取ったところで、生徒たちの探究がスタートしました。
壁、壁、壁…言語化とコミュニケーションの難しさにぶつかる生徒たち。

様々な大人たちのバトンを受け取り、プロジェクトが始まったものの、すぐに生徒たちは大きな壁にぶつかりました。
それは技術的な難しさではなく、「コミュニケーションの壁」でした。

今回、プロジェクトを進めるにあたって以下の4つの班を構成しました。
設計班
2Dデザイン班
3Dモデリング班
3DCG制作班
このプロジェクトには本校普通科の4つの異なるコースからメンバーが集まっています。普段の学校生活ではあまり接点のない生徒同士が、いきなり一つのものを作り上げなければなりません。

「こんなイメージにしたい!」と2Dデザイン班が思っても、それを設計班や3Dモデリング班にうまく言葉で伝えられない….。
専門用語が通じない、イメージが共有できない、作業が進まない。初めは、なんとも言えないもどかしい空気が流れていました。
救世主は生成AI!?Geminiが「共通言語」に

そんな停滞ムードを打破した一つのツールが、生成AIの「Gemini」でした。
生徒たちは、頭の中にあるボンヤリとしたイメージを書き出し、Geminiに入力して画像を作成し始めました。
すると、今まで言葉だけでは伝わらなかったイメージが、具体的な「絵」として共有できるようになったのです。

「そうそう!こういう雰囲気にしたかったんだよ!」
「あ、これならモデリングできるかも!」
AIは単に作業を楽にする道具ではありませんでした。異なる得意分野を持つ生徒たちの間をつなぐ、「共通言語(コミュニケーションの架け橋)」として機能したのです。
この頃から少しずつではありますが、チーム内での歯車がガチっと噛み合い始めることとなりました。
「自己満足」じゃダメなんだ。行政施設をつくるという責任。

チームワークが良くなってきたところで、次に立ちはだかったのが「リアリティの壁」です。
これは「行政施設」を作るプロジェクトです。いくらデザインが格好良くても、法律的に建てられないものや、市民が使いにくいものでは意味がありません。
メンターである加藤さんからは、生徒たちのアイデアに対して、プロの立場から愛のある厳しいフィードバックを何度もいただきました。

「実際に建てる時の法律、ちゃんと調べた?」
「そのデザインで、市民の方は納得して利用してくれるかな?」
ただのゲーム作りや遊びなら、そこまで考える必要はないかもしれません。しかし、加藤さんが生徒たちを「対等なクリエイター」として扱い、本気で向き合ってくれたおかげで、生徒たちも考える場面が多くなりました。

「自分たちの自己満足で作ってはいけない」
「使う人のことを本気で考えなければならない」
地域と連携したプロジェクトだからこそ、責任感を自然に意識できる時間となりました。
教室はまるで「開発現場」。4つの班の総力戦!
メンター加藤さんから毎回、愛のあるフィードバックを受けて、生徒たちも活動を進めます。
また、探究の時間は延々と続くものではなく、本校が設定した探究発表会に向けて、一旦の成果を報告する必要があります。
まさに時間との戦いです。
教室はさながらベンチャー企業の開発現場のような熱気に包まれました。
それぞれの班が、自分たちの役割を果たし、時には意思疎通を行いながら作業を進めます。
【設計班】の苦悩 法律と「市民の想い」の板挟み

「法律的に、ここに非常階段がないとダメなんだよ!」
「えっ、そうするとデザインが崩れるんだけど…」
設計班は、建築基準法などのルールと格闘しながら、同時に「どうすれば市民に愛されるか?」を議論しました。
単に箱を作るのではありません。
「市民が憩える場所になるためには何が必要か?」
「建物にどんな名前をつけたら、市民に親しんでもらえるか?」
こうしたリアルな課題解決を、一つひとつ文章や図面に落とし込んでいきます。
【2Dデザイン班】の挑戦 0から1を生み出す

設計班のコンセプトを、目に見える「形」にするのが彼らの役割です。
「自然をイメージした緑を使いたいけど、街中に合うようなデザインってなんだろう」
Geminiで生成したイメージ画像も活用しながら、チーム全員が納得する色使いや雰囲気を決定していきます。まだこの世にない建物の「顔」を作る、責任重大なポジションです。
【3Dモデリング班】の職人芸 2Dから3Dへの翻訳

そして、2Dデザイン班が考えたデザイン画という「バトン」を受け取り、立体に落とし込んでいくのが3Dモデリング班です。
「この曲面、Blenderでどう表現すればいいんだ…?」
「データ重すぎて動かないよ!ポリゴン数減らして!」
平面の絵を立体にする過程では、どうしても矛盾が生じます。それを技術と根気で調整し、整えていく作業は、まさに職人芸でした。
また、Blenderでモデリングするのが初めてという生徒たちもこの時間にスキルを磨き、建物内に置く物品たちをどんどん制作していきました。
【3DCG制作班】の統合 UEとVRで「空間」を共有する

そして、すべてのデータを統合するのが3DCG制作班です。
単にデータをつなぎ合わせるだけという役割ではなく、Unreal Engineで展開した「架洲™」のデータを、Meta Quest 3を使って実際に体験し、チーム全体にフィードバックを行いました。
「実際の土地の広さはこれくらいだから、建物のサイズ感はもっと大きくてもいいかも」
「このアングルからの街の雰囲気に合うようにしよう」
「スケール感」や「空気感」を他の班に正確に伝えることで、全員のイメージ統一が可能となりました。
さらに、最終的に完成した行政施設を「どう見せれば一番魅力的に伝わるか?」という演出プランまで練り上げました。
ゴーグル越しに見た「未来」

試行錯誤を繰り返し、ついにバーチャル上の行政施設が形になりました。いよいよ、Meta Quest 3(VRゴーグル)を装着して、自分たちが作った世界に入る瞬間です。
ゴーグルを覗いた生徒たちの第一声は、忘れられません。

「うわっ、すげぇ…!!」
「本当に建ってる!目の前にある!」
平面のモニターで見ていたものが、圧倒的な臨場感を持って目の前に広がる。自分たちが考えたアイデアが、バーチャルとはいえ「現実」として立ち上がった瞬間、生徒たちの目はキラキラと輝いていました。
苦労してコミュニケーションをとった時間も、プロから愛のある指摘を受けた経験も、すべてはこの瞬間のワクワクのためにあったのです。
作って終わりじゃない。「伝える」までが探究活動。
バーチャル空間に行政施設が完成し、Meta Quest 3で体験…! 「やったー!完成だ!」と万歳したいところですが、ここで終わらないのが探究活動です。
自分たちの頭の中にあるアイデアや、苦労して作ったバーチャル上の施設の魅力を、「まだ何も知らない人」に伝えなければ意味がありません。
次なるミッションは、全校生徒や先生方に向けた「プレゼンテーション」です。
行政職員の方へのプレゼン

プレゼンの練習段階で、プロジェクトの最初に来校してくださった南さつま市の行政職員の方に、再びお越しいただきました。
自分たちが考えた「未来の行政施設」を、プロの行政職員に見てもらうのです。

「最初はL字型ではない建物の形を想定していたようですが、L字型が良いと判断した理由は何ですか?」
「内装の3つのスペース(カフェ、ファミリースペース、学習スペース)を選んだ理由は何ですか?」
単なる「生徒の発表」としてではなく、行政職員としての視点からの鋭い質問やアドバイスをいただきました。
生徒たちは南さつま市の職員さんからの質問に答えながらプレゼン資料の修正イメージを明確にしていきました。
ギリギリまで粘った「探究発表会」

そして迎えた、全校生徒の前での「探究発表会」当日。
当日の朝までスライドの手直しや、発表原稿の修正を繰り返す生徒たちの姿がありました。
本番のステージでは、緊張しながらも堂々とした声で、自分たちが描いた南さつま市の未来を語りかけました。
その姿は、プロジェクト開始時の生徒たちとは別人のようでした。
テクノロジーという「翼」をどのように扱うか

今回のプロジェクトで活用したBlenderやUnreal Engine、そしてMeta Quest 3といったデジタル技術や本校の環境は、単なるツール以上の意味を持っていると感じています。
時代は急速なデジタル化の波が押し寄せており、生徒たちは将来、その荒波と向き合って生きていかねばなりません。
だからこそ、本校では「子供だまし」ではない最先端のツールを整備し、生徒たちの成長を本気で後押ししています。
プロが使う「本物の環境」を用意したからこそ、生徒たちは遊びではない、妥協のない活動をおこなうことができました。
しかし、どれだけ高性能な翼(テクノロジー)があっても、それを操るパイロット(人)が一人では、この長い旅路は完走できませんでした。

今回の活動で生徒たちに一番伝えたかったのは、デジタル技術の凄さはもちろんですが「他者と協働して成し遂げることの大切さ」です。
話したことのない仲間とチームを作る難しさ。
自分の考えを言葉にして伝えるもどかしさ。
地域や社会のルールを踏まえて創造する責任感。
そして、それを他者に伝えるプレゼンテーションの重み。
これらを乗り越えた経験こそが、鳳凰高校が目指す「リアルな学び」だと確信しています。
これからも鳳凰高校では、生徒の「やりたい!」「興味がある!」を中心に、地域と連携しながら未来を創る探究活動を続けていきます。
この「架州プロジェクト」もまだまだ始まったばかりです。
今後の生徒たちが描く未来に、どうぞご期待ください!
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もし、この活動に共感してサポートいただけたらものすごく嬉しいです。サポートいただいたものは、次回の活動にすべて充てたいと思います。