ドラえもんの藤子・F・不二雄が描く大人のための漫画—「SF・異色短編」【マンガ家紹介】
はじめに
空き時間に読む漫画を探していて、ふと手に取ったのが藤子・F・不二雄の異色短編集でした。
「ドラえもんの人でしょ」という気持ちが正直ありました。子ども向けの漫画家という刷り込みが強すぎて、なんとなく手が伸びなかった。でも読み始めて、すぐに後悔しました。なぜもっと早く読まなかったのか、という種類の後悔です。
異色短編はSFあり、ブラックユーモアあり、じわじわと効いてくるサスペンスあり。一作ごとにテーマも読後感もまったく違います。共通しているのは、読み終えたあとに何かが引っかかって残るということ。その引っかかりが、しばらく頭を離れない。
ドラえもんを描いた人が、こんなものを描いていた。その意外性だけでも、手に取る理由としては十分だと思います。
藤子・F・不二雄について
1933年、富山県生まれ。本名、藤本弘。幼なじみの安孫子素雄(後の藤子不二雄A)とコンビを組み、「藤子不二雄」として漫画家活動をスタートしました。1987年にコンビを解消し、以降は「藤子・F・不二雄」として活動。1996年、62歳で逝去しています。
代表作はドラえもん、パーマン、キテレツ大百科、エスパー魔美など。なかでもドラえもんは1969年の連載開始以来、国民的作品として今も読み継がれています。アニメ、映画、キャラクタービジネスと展開し、その影響力は日本国内にとどまらず世界中に及んでいます。
子ども向け漫画の第一人者——というのが一般的なイメージです。ただ、それはこの人の一面に過ぎません。
同じ時期、彼は青年誌やSF専門誌に向けて、まったく異なるトーンの短編を発表し続けていました。倫理の問い、正義の暴走、人間の業。あの丸くて優しい絵柄のまま、ひどく冷たい世界を描いていた。それが「SF・異色短編」と呼ばれる、もう一つの藤子・F・不二雄です。
SF・異色短編とは?
藤子・F・不二雄といえば、ドラえもん、パーマン、キテレツ大百科。子ども向けの国民的漫画家というイメージが強いですよね。
ですが彼は1969年から、青年誌やSF専門誌に向けて、まったく別の顔を持つ短編を発表し続けていました。それが「SF・異色短編」と呼ばれる作品群です。
テーマは倫理、正義、価値観の崩壊。絵柄はあのままなのに、描かれる世界はひどく冷たい。そのギャップが、読後感をより鋭くしています。
全部で100作品を超えます。今回はその中から3作品を紹介します。
オススメその①『ミノタウロスの皿』——"正しさ"が揺らぐ体験
【あらすじ】
宇宙船が故障し、見知らぬ星に不時着した地球人の男。助けてくれたのは、ミノアという美しい少女でした。
ところがその星では、人間に似た種族(ウス)が家畜として扱われており、牛に似た種族(ズン類)が支配者でした。ミノアは食用種として生まれた存在で、大祭の大皿に乗ることが最高の名誉とされていました。
男は必死にミノアを説得します。逃げよう、と。だがミノアには、その言葉の意味がわかりません。食べられることを喜んでいる。それが彼女の価値観の全てだから。
【POINT】
この作品が問うのは「残酷な異星文化」ではなく、「価値観の相対性」です。地球人の常識が正しいとは、誰も決めていません。読後、自分のあたりまえをふと疑いたくなります。そういう種類の読書体験です。
ラストシーンで主人公がとる行動と、その表情。結末はぜひ自分の目で確かめてみてください。
ちなみに本作は1969年発表、藤子・F・不二雄が初めて大人向けに描いた作品です。原稿を受け取った担当編集者は「背筋に寒気が走るほど興奮した」と語ったといいます。その感覚、読めばわかります。
オススメその②『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』——正義のヒーローが怪物になるまで
【あらすじ】
平凡なサラリーマン、句楽兼人。正義感は強いが非力で、世の中の理不尽に新聞の投書欄で憤りをぶつける日々を送っていました。
ある日、彼の全身の細胞が突然変異します。怪力、飛行能力、核爆弾でも死なない不死身の肉体。夢にまで見た力を手にした彼は、正義の味方「ウルトラ・スーパー・デラックスマン」として活動を始めます。最初は本当に、正義の味方でした。
だが力にセーブが効かない。軽微な違反者にも過剰な制裁を加えるようになり、世間は彼を恐れ始めます。孤立が深まるほど、彼の「正義」はより独善的になっていきます。
【POINT】
「力を持ったら、人は正義の味方になれるか」——この問いへの藤子・F・不二雄の答えは、かなり悲観的です。そしてその悲観は、現代を生きる自分にもじわじわと刺さります。
主人公のモデルがドラえもんにも登場する「ラーメン大好き小池さん」だというのも見逃せません。あの顔が、その暴挙を働く。そのミスマッチが、ブラックユーモアとも風刺とも違う独特のテイストを生んでいます。
オススメその③『コロリころげた木の根っ子』——声を上げない者の静かな狂気
【あらすじ】
出版社に勤める若手編集者の西村は、結婚記念日に小説家・大和の原稿を受け取りに行くはめになります。
大和は外面は良いが、家では妻に日常的に暴力を振るう男でした。西村は引き止められ、帰れないまま大和の家で時間を過ごします。妻はただ、静かに従い続けています。
そして西村は、ある「スクラップブック」を発見します。廊下に転がった酒瓶、便所に置かれたタバコ、飼われていた猿——それら全てに意味があったと気づいたとき、妻の「大人しさ」の正体が明らかになります。
【POINT】
この作品に声高な告発はありません。怒鳴り声もない。ただ、沈黙の裏に積み重なった何かが、最後の一枚をめくったときに形を持ちます。後味は静かで、だからこそ重い。
タイトルは北原白秋の童謡「待ちぼうけ」の一節から取られています。自らは手を下さず、ひたすら機会を待つ者。その構図が、物語の核心に重なります。3作品の中で、個人的に最もじわじわくる一作です。
おわりに
SF・異色短編を読んで気づくのは、どれも「答え」を出していないということです。正しい価値観はどちらか、正義とは何か、沈黙は美徳か。問いだけが置かれて、読者に手渡される。その問いが普遍的だから、何年経っても色褪せない。
勧善懲悪ではありません。後味が良いわけでもない。読み終えて「スッキリした」とはならない作品が多い。それでも、というかだからこそ、読んだあとにしばらく頭を離れないものが残ります。
「ドラえもんの人」という固定概念は、異色短編を一作読めば簡単に揺らぎます。子どもに夢を届けた人が、大人には人間の業と矛盾をそのまま突きつけていた。その振れ幅が、藤子・F・不二雄という作家の本当の射程だと思います。
異色短編集は現在、「藤子・F・不二雄SF短編コンプリート・ワークス」などで手に取りやすい形になっています。ぜひまずは一篇だけでも読んでみてください。
#藤子F不二雄 #藤子不二雄 #異色短編 #SF短編 #ミノタウロスの皿 #ウルトラスーパーデラックスマン #コロリころげた木の根っ子 #ドラえもん #マンガ #漫画 #漫画好き #漫画好きと繋がりたい #読書 #読書好き #読書好きと繋がりたい #読書記録 #本好き #おすすめ漫画 #おすすめ本 #カルチャー #サブカル #昭和カルチャー #大人の趣味 #社会人の趣味 #SF漫画 #大人の漫画 #note #noteでよかったこと #毎日note #読書エッセイ #フォロバ #フォロバ100 #相互フォロー #相互フォロー募集
