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アホウドリの空_Season2〜自衛隊ラブストーリー〜【その玖】良い結婚ほど素敵で、友好的で、魅力的な関係、結びつきや仲間は存在しません。 ②

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【その玖】良い結婚ほど素敵で、友好的で、魅力的な関係、結びつきや仲間は存在しません。 ドイツ人神学者 マルティン・ルター ②


 もっとも、乗組員の殆どは、家族や恋人を日本に置いてきている状況につき、上陸日だけでなく、日常的にも顔を合わせることが出来る自分たちは、かなり恵まれている。

 だからこそ、公然の秘密だった恋人時代とは異なり、公に夫婦になった今となっては、これまで以上に周囲に気を遣う必要があった。

「結婚式、タイからわざわざお越しいただくことになって、すみませんでした」

 敏生が両親に頭を下げると、和博が首を横に振った。

「我々の赴任日がなかなか決まらなかったからな。君たちには気を揉ませてしまい、こちらこそ申し訳なかった」

 結婚式の三カ月前に、タイの日本人学校に赴任してしまった両親。

「素敵な結婚式だったわね。敏生さんも儀礼服姿がとても凛々しくて。ね、お父さん」
「ああ、とても良い式だったな」
「それは、ありがとうございます。余興で仲間たちの悪ノリが続いたので、ご気分を害されないかと冷や冷やしてました」
「いや、体育会系のパワフルさに圧倒されたよ。若者はあれくらいで丁度よい」
「そうね。皆さん、とても面白かったわ」

 新郎新婦共に幹部自衛官だけあって、当然ながら、式の出席者の大半が礼服姿の自衛官たち。サーベルアーチを作っての新郎新婦入場や、全体起立式での乾杯など、自衛隊色が全面に押し出された式次第の上、保守党の領袖である、首相の久峨が主賓として登場したこともあって、自衛隊も保守党も毛嫌いしていた両親が何か言い出さないかと、ハラハラしていたのは事実。

 仲間たちの遠慮のないサゲ満載の内容の祝辞や、空自VS海自の対抗戦の様相を呈することとなった、悪ノリ連発の身体を張った隠し芸などに、何度も背筋が凍っては両親の様子を窺った。

 だが、両親は感情をむき出しにすることはなく、終始笑顔を浮かべていて、特に美鈴が厚木基地内で密かに結成していた「トシユウ見守り隊」による、二人のイチャコラ暴露レポートには手を叩いて笑っており、つつがなく式を終えることができた。

 あの時は、自分たちのために、大人の対応に徹してくれたものとばかり思っていたのだが、今の両親の様子を見ていると、どうやらそれだけでも無さそうだ。

「ところで、お義父様とお義母様は、どうして海外に出ようと考えられたのですか? 日本人学校は志願しないと行けないと聞きました」

 やはり、敏生も同じことを感じていたのか。その疑問は自分も知りたかった。和博と真理子は、顔を見合わせると、ふっと微笑んだ。

「敏生君。あの日、君と出会って、私たちは教師として思い描いていた理想の若者像を、君の中に見つけてしまった。よりによって、あれほど否定していた自衛官という職に就く、君の中にね」

 和博の言葉に、真理子が静かに頷く。

「長年、教師をやってきたが、君ほど、大きな視野と志を持って、日々を真剣に生きている若者にこれまで出会ったことは無かった。君のような若者を、私たちは教師として育てることが出来なかった」

 結婚の許しを貰った時に、両親の、敏生に対する全幅の信頼を感じていたが、そういうことだったのか、と合点が行くと同時に、胸をくすぐられる。自分の選んだ生涯の伴侶を両親に認めてもらえることが、こんなに嬉しいなんて。

 当の敏生は、照れたように手を振った。

「お義父さん、それは私のことを買い被りすぎです。それに、お義父様、お義母様は夕陽さんをこんなに立派に育てられたじゃないですか。夕陽さんほど素敵な女性は、この世の中で他にはいませんよ」

 彼の言葉に、再び、耳を真っ赤にして俯く。

「ありがとう。ただ、夕陽は君も知っての通り、私たちのところを息苦しくなって飛び出した娘だ。恐らく、夕陽は君と出会わなかったら、こうして私たちと仲直りして会うことも、二度と無かっただろう。君には本当に感謝している」

 図星だ。あの時だって、半ば強引に彼に引きずられて実家に帰ったのだ。自分から謝る気など、さらさらもなかった。

「だからこそ、君が帰った後、私たちは自問自答せざるを得なかった。私たちの教育は間違っていたのだろうか。私たちは、あまりにも狭い世界の中で、物事を考えていたのではないか。そして、世界の情勢が目まぐるしく変わっていく中で、このまま狭い日本に居続けても、何も分からないんじゃないか、ってね」

 和博が手元のビールを口に運ぶ。

「もうこの歳だ。最後に、日本以外の世界を覗いてみたくて、居ても立っても居られなくなった。そんな時、日本人学校の校長と教頭の席が空くと聞いて、二人で手を挙げたんだ」

 あの日の敏生との邂逅が、両親にとって、そこまで大きな出来事だったとは。いや、納得できる。自分にとっても、敏生との出会いは、ただの初恋ではなかったのだから。

「そのお歳でそんなお考えができるなんて、やはり、私はご両親を尊敬します」

 敏生の言葉に、照れたような笑いを浮かべる和博。

「まあ、正直なところ、教職員も生徒も保護者も日本人だし、この街は日本食も不自由なく食べられる日本人村だ。海外とはいえ、代わり映えはしない」
「それでも、ここが海外であることに変わりはありません。日本人して不自由に感じることや、危険なことは沢山あるはずです」

 空いた和博のグラスに、ウェイトレスが再びビールをなみなみと注いでいく。

「確かにここに来て、日本のときに比べて考えなくちゃいけないことが増えたわね」
「ああ。特に、生徒たちの安全をどうやって守っていけばよいのか、ということにね」

 レストランのショーステージでは、バンドの生演奏が始まっていた。

「この国は今、2014年の軍事クーデター以来、一応、治安が安定している。2023年の総選挙で直接軍政は終わったが、依然として軍の影響力は強い。だがクーデターが起こる前は、国中が赤シャツと黄シャツに分かれて政争に明け暮れていた。度重なる騒乱で、2011年には日本人カメラマンも混乱に巻き込まれて命を落としている。皮肉なことに、民主主義下での政争による国の混乱が、軍事クーデターによって平和を取り戻したんだ」

 和博が辺りを見回しながら解説してくれる。仏教国であり、穏やかな国民性から微笑みの国と呼ばれるタイ。

「タイは初めてきたけど、とても政争に明け暮れるような人たちには見えないわ」
「表向きはな。だが、富裕層と貧困層、都市部と農村部の分断は思っている以上に根深いものがあるようだ。それに加えて、ここからは離れているが、最南部ではイスラム過激派によるテロなども頻繁に起こっているし、たまにそれがバンコクに飛び火することもある」

 周りを見ても、開放的で、どの顔にも笑顔が浮かぶ、とても平和な光景。もっとも、国防の最前線に身を置く自衛官としては、平和が微妙なバランスで成り立っていることも知っている。

「そんな状態だからこそ、この先、再び日本では考えられないような事態が起こるかもしれない。そうなったとき、私たち教師は全くの無力だ。選挙や政争で暴動が起こることもない日本は、つくづく良い国だと思うようになった」

 和博はふっ、と息をつくと、敏生に向き直った。

「だから先日の退避訓練の時、ここ異国の地で君たちの飛行機の日の丸を見て、とても胸が熱くなったんだ。自衛隊の海外派兵にあれほど反対していた私たちがね」
「ほんとね。あれほど忌み嫌っていたはずの日の丸が、あんなに頼もしく思えたことは、これまでになかったわ」

 傍らの真理子もしみじみと頷く。

「この国で何かが起こった時、君たちが助けに来てくれる。自分たちの命よりも大切な生徒たちの命を、君たちが守りに来てくれる。そう思ったら、涙が滲んでいた。私たちだけじゃない。保護者の方々も、皆、君たちの存在に勇気づけられていたよ。ありがとう」
「お父さん……」

 あの帰郷の際に仲直りこそ出来たものの、自分の職業については、一生理解してもらえないものだと思っていたのに。胸に熱いものが込み上げてくる。

「まったく、君たちには、以前にあれだけのことを言っておいて、都合が良すぎるな。本当に申し訳なかった」

 頭を下げる和博に、敏生が手のひらを見せた。

「謝らないでください。ご両親のお考えは決して間違っていません。私たちは国民の皆さんの笑顔を守るために、強力な力を与えられています。だからこそ、その力の使い方を決して間違えてはいけない。時には厳しい目で見ていただくことも必要だと思っています」

 敏生のこういうところは、高潔なお義父様譲りだな、と思う。和博と真理子もまた、彼に対して柔らかい笑みを浮かべている。

「ありがとう、敏生君。君のような青年が娘婿になってくれて、私たちは本当に幸せだよ」

 今日、本当の意味で両親と和解できたような気がして、夕陽はテーブルの下で、そっと彼の手を握った。

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