雪の降る街で エピローグ ②<Fin>
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※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・出来事とは一切関係ございません。
エピローグ ② <Fin>
前略
コウ君、お元気ですか? 身体の傷は癒えましたか? 一戦車のみんなは元気かな? 皆に碌にお別れの挨拶もできず、突然隊を離れることになってしまい、本当にごめんなさい。
あたしは今、PKOの司令部要員としてアフリカのA国に来ています。この国の人たちはとても貧しくて、その日一日を生きるのがとても大変なんだけど、その辛さを感じさせないくらい皆とても陽気で温かくて優しくて、逆にこっちが癒されています。
あの人のことは、今でも思い出します。罪の無い大勢の人たちを巻き込んで、沢山の仲間たちを傷つけて。許せないはずなのに、それでも大好きだった人のことを恨んだり忘れたりすることは出来なくて。最低だよね。
病院のベッドで目が覚めてからはずっと泣いていました。あたしも死んだ方が良かったと何度も思いました。いや、今からでも遅くないって。でもね、その度にコウ君とジンさん、みんなの怒った顔が頭に浮かんだの。
あたしのことを信じて、命懸けでついてきてくれた一戦車のみんな。その気持ちを裏切ることだけはやっぱり出来なかった。
だからもう一度、頑張って生きることにしました。前に進まなきゃダメだよね。コウ君とジンさんに助けて貰ったこの生命、大切に使わせていただきます。
それから、あの夜のことは気にしていません。あの時、コウ君になら抱かれてもいいかな、と思ったんだ。これは本当。
一人っ子のあたしにとってコウ君はずっと可愛い弟のような存在だと思ってたけど、もしかしたらどこかで貴方のことを一人の男性として意識していたのかもしれません。
こんなこと今さらだよね。あー、逃した魚は大きかったなー(笑)
色々なものを断ち切る意味でも頑張っていこうと思います。きっと、あたし達の祖国は平和のために、もっと出来ることがあるはずだから。
またいつか、どこかで一緒に働ける日を楽しみにしています。
末長くお幸せにね。彼女、大切にしなきゃダメだゾ!
橋本 藍
「これでよし、と」
藍は手紙をレターケースに入れて封をすると、ひと息ついて顔を上げた。
右腕には日の丸を背景に剣と鳶、そして桜星を起点に周りを神聖なる榊で囲んだ徽章が、所在なげに縫い付けられている。
天幕の外に広がるのは母なる大地と、それを包み込む灼熱の太陽。
気候も景色も全く異なるはずなのに、どことなく富士の裾野を思わせる雄大な光景にふと懐かしさが込み上げ、感傷に耽っていると、
「Ai! What should I do with this!?」
と大声が飛んできた。
声の方を振り向くと、仲の良いオランダ軍の女性士官がブンブンと手を振り、作業手順の助けを求めている。
「Please wait a moment! I'm coming!」
藍はにっこりほほ笑むと、ひと際大きな声で返事をして、元気よく席を立った。
*
光一は車を降りると、反対側に回って助手席のドアを開けた。
「大丈夫か?」
そっと彼女の手を取り、腰を支える。
「うん、まだちょっと痛むけど」
小首を傾げ、嬉しそうにはにかむ恋人。
「無理すんなよ、死にかけたんだから」
「コウちゃんもね。おっと」
よろめく菜々。まだ足下が覚束ない。
「ほら、だから無理すんなって」
菜々を抱きかかえるように車から下ろす。
「ありがと。へへ、夢みたい。コウちゃんとこの桜を見れるなんて」
「ああ、綺麗だな。上手く言えないけど、神様は本当にいるんじゃないかって思えてくる」
あのバンカーバスターの爆発に巻き込まれ、愛車こそ再起不能となったものの、奇跡的にいずれも軽傷で生還を果たすことが出来た三人。
だからこそ、信じたかった。いや、縋りたかったのかもしれない。
〝真実はいつだって闇に葬り去られるものだ〟
そう語る仲木戸は敵の顔ではなかった。
であれば自分達は一体、誰と、何の為に戦っていたのだろうか?
恐らく、自分にそれを知る機会が訪れることは一生無いだろう。あの戦い以来、どこか抜けることのない空虚感。
「神様はいるよ」
「え?」
まるで自分の心情を掬い上げてくれるような力強い言葉に、驚いて菜々を見た。その先にあるものを信じている、強く美しい瞳。
「あたし、初詣でお願いしたの」
そっと目を瞑る彼女。
「春になったら、コウちゃんとあの桜を見れますように、って」
そっちか、と光一は苦笑すると同時に、ほっとした。
笑われたと勘違いした菜々が顔を真っ赤にして頬を膨らませる。そんな彼女が堪らなく愛おしい。
「俺もお願いしたんだ」
彼女の手を取ると、力強く握りしめた。
「菜々を守れる強さを俺に下さい、って」
菜々はぽかんと口を開けていたが、やがて照れたように俯いた。
「きっと大社の神様が守ってくれたんだよ」
彼女の言葉に、光一も頷く。
眼下に広がる雪解けの棚田と水面に映える儚げな山桜。
それはまさに日本の原風景。その幻想的な光景にはまるで神が宿っているように思え、光一はすうっと息を吸うと意を決した。
もう、早過ぎることは無いと心に言い聞かせて。
「なあ」
「うん?」
「結婚、しないか?」
「……うん」
「って、返事早っ」
「何よ? 返事は早い方がいいでしょ?」
「えーと、その、俺がお前と結婚したくなった理由とか、もっと聞きたくないのか?」
「大丈夫。あの時、コウちゃんがあたしの為に流してくれた涙だけで充分だよ」
山本山でのことを言っているのだろう。
当時を思い出し、今度は光一が赤面する。
「……お前には本当に負ける」
「でも本当にいいの? あたし、身体にキズついちゃったから、もう水着とか着れないよ?」
揶揄うように、菜々が覗き込んでくる。
「ば、ばーか! 俺はな、その、……菜々が好きなの!」
呆気にとられた表情の菜々。
「おい、どうした?」
「コウちゃん……、今あたしのこと初めて好きって言ってくれた……」
「へ? 言ってなかったっけ?」
「初めてっ! もうっ。プロポーズの方が先って……コウちゃんらしい……」
菜々があははとお腹を抱えて笑う。双眼から涙を溢れさせながら。
「幸せになろうな」
「うん」
彼女が光一の肩にそっと頭を乗せてくる。繋ぐ手が心地良い。
きっと大丈夫、俺達なら。
そう思った。
この温もりこそが幸せだと、心の底から思い合える二人であれば、きっと――――――
<完>
リンク
前の話 雪の降る街で エピローグ ①|京
最初から読む
雪の降る街で 第一章 「鼓動」 ①|京
あとがき
長きに渡りお付き合いいただき、誠にありがとうございました🙇♀️
藍はの右腕に付いていたワッペンは「特殊作戦群」ですね。粟谷が引き取り、上層部に掛け合って彼女の夢のひとつであったPKO派遣を叶えてあげたのでしょう。
詳しくは第四章「榊」をご参照ください😊
それにしても光一、これまで好きって言ってなかったとは💧
ほんと男は言葉足らずですよね。藍も本編を通じて必死に求めていたのは「言葉」でしたし。
戦前に菜々ちゃんが藍に「彼は全然楽しそうじゃない」と食ってかかったことがありましたけど、あれも光一の言葉足らずからくる不安だったのでしょうね。
これで二人はきっと大丈夫でしょう😊
さて、あとは数日後にあとがきを掲載して、しばらくnoteは読み専に浸ろうと思います☺️
皆さまの素敵な記事が私を待っていますので🥰
私の方は、年明けには新作を掲載できれば、と思っています。その時はTalesとの同時掲載を目指します。
それでは皆さま、本当にありがとうございました🙇♀️
お身体にお気をつけてよいお年を!ᕦ(ò_óˇ)ᕤ
