アホウドリの空_Season2〜自衛隊ラブストーリー〜【その壱】愛は行動よ。私たちは愛する力を持って生れて来た。それでも、筋肉のように鍛えなくちゃいけないの。 ②
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【その壱】愛は行動よ。私たちは愛する力を持って生れて来た。それでも、筋肉のように鍛えなくちゃいけないの。 英国人女優 オードリーヘップバ―ン ②
お店に入ると、約束の十五分前だったが、佐那と美鈴は既に着いていて、先に始めていた。夕陽は店員にソフトドリンクを頼むと、浮かない顔をしている佐那の前に座り、キャッチアップする。
内容は案の定、恋愛相談だった。正直、経験値がフルエスコートしてくれる敏生だけなので、気の利いたアドバイスなど出来るわけもなかったが、美鈴に話を聞いてもらうだけでもスッキリとしてきた身としては、しっかりと聞き役に徹しよう、と臨んだのだが。
「確かに、結婚を言い出した途端に逃げ出す男は多い、って言いますもんねー」
美鈴の言葉にギクッとする。目の前で泣きじゃくっている佐那。重過ぎる、のっけから。
「でね……お前重たいって言われて……、距離を置きたいって」
「うわー、最悪ですね。その彼」
いつもなら一緒になって憤慨するはずが、敏生との「結婚」を意識し始めてしまっている自分にとって、明日は我が身。
「あ、ねえ、彼は普段はどんな感じだったの?その、佐那ちゃんが結婚を言い出す前は」
「……普通でした。いつも優しかったし、いつも好きって言ってくれて」
そこは敏生と同じだ。でも……。
「彼のご両親とは会ったりしたの?」
ぶんぶんと横に首を振る佐那。
「親の話とか持ち出すとはぐらかされて、おかしいとは思っていたんですけど……」
彼女の返答に少しホッとする。少なくとも自分の場合は彼から実家に誘ってくれた。
「佐那さんの彼氏、かっこよかったですもんね。女に不自由しない男は結婚に縛られたくないっていうし」
折角浮上した心が美鈴の言葉で再び下降する。
「あ、で、でもみんながみんな、そうって訳でもないじゃない? もしかしたら佐那ちゃんの彼も何か考えがあってのことかもしれないし」
何故か佐那の彼の肩を持ってしまう。おかしい、と自分でも思う。
いつもなら男に味方することなんかないのに。佐那の相談に乗るつもりが、彼女の境遇に自分を重ね合わせて、一緒に浮沈を繰り返してしまう。
限界。これじゃダメだ、と考え、スマホを手に取り、二人に断ってお手洗いに立ったと見せかけて、素早くメッセージを打ち込む。
しばらくして、店の扉が開き、入ってきた敏生の姿を認め、胸を撫でおろした。
「どうしたんだよ。女三人、深刻な顔で」
「門真一尉、どうしてここに?」
美鈴と佐那が驚いて彼を見上げる。
「ごめんね。あたしが呼んだの」
敏生の登場に店内が色めき立つのが分かったが、今はそこを気にしている場合じゃない。
彼は夕陽の隣に腰を下ろすと、斜め向かいの佐那を覗き込んだ。
「なーに泣いてんだよ、佐那は」
「えっとね、実は……」
これまでの相談内容を手短に彼に説明する。
「うーん、俺には良く分かんないな。当事者じゃないから、軽々しく答えられる内容でもないしな」
腕組みをして、思案する彼。夕陽は縋るように、彼の二の腕にそっと手を添えた。
「……男って、実はかなり繊細な生き物だし、もしかしたらその彼は佐那に言い辛い悩みを抱えているのかもしれないね。商社マンだったよな、彼。しかも超一流商社の」
佐那が泣き腫らした顔を上げる。
「超激務だろうし、転勤も多いって聞くよね。一方で佐那もバリバリの管制官だろ? 例えば彼が海外とかに異動を命じられて、仕事にやりがいを感じている彼女を連れて行って良いのかとか、悩んでいるかもしれないし。あるいは、他にやりたいことが見つかって、それが不安定な職業だとしたら、佐那に不自由をかけるかもって、悩むかもしれない。そんな時に急かすようなことを言われたら?」
ハッとした表情で敏生を見る佐那。思い当たる節でもあったのだろうか。
「どんなに出来た彼氏だって、人間だもん。心にも無い言葉が出ることだってあるよな」
敏生の言葉に、夕陽も思わずうんうんと頷いてしまう。
「まだ好きなんだろ? 彼のこと。本当は別れたくないんだろ?」
目を抑えながらコクンと頷く佐那。
「だったらズダボロに捨てられるまでは信じて見ろよ。このタイミングで別れたら絶対に後悔するぜ。全てが曖昧のままだと、次の恋にだって進み辛くなると思う」
その通りだ。所詮、人の心など、あれこれ想像したところで当人にしか分からない。曖昧が嫌なら、ちゃんと本人に確認するか、それが怖くて出来ないなら、ひたすら信じるしかない。
「それでもし、彼が本当に酷い奴なんだって分かったら、すっぱり諦められるだろ」
話し終えると、敏生が手元のソフトドリンクにようやく口を付ける。夕陽の頼みに、真剣に向き合ってくれている彼に、ただ感謝しかない。
佐那はしばらく俯いて何やら思案している様子だったが、しばらくしてパッと顔を上げた。もう涙は無い。
「みなさん、ありがとうございます! 不肖、伊吹佐那、これから彼のところに行って宣戦布告してきます! 玉砕したら骨を拾って下さい!」
あっけにとられる夕陽と美鈴。敏生は膝を叩くと、佐那に拳を突き出した。
「おし。自衛隊は専守防衛だけど、まあいいや。行ってこい!」
「はい! 門真一尉、ありがとうございます!」
佐那はグータッチに応じると、バックを手に取り、軽い足取りでお店を出て行った。
「……さっすが、お兄ちゃん。ここ数日ずっと塞ぎ込んでた佐那さんを、ものの数十分で立ち直らせちゃった」
「だろ?」
「うん。やっぱりすごいな、敏生は。来てくれて本当にありがとう」
夕陽の言葉に、彼が嬉しそうに鼻の頭を掻く。彼の言葉は常にポジティブで、迷いが無い。だから、自分もいつも前に進む勇気を与えてもらっている。
「さて、次は美鈴の番か?」
「あたしは、今日はいいですよー」
「え……?」
突然の彼の振りに、きょとんとする夕陽。
「ついでだよ、ついで。こういうことは早く解決しちまった方がいい」
「でも……」
「え? え? 美鈴ちゃん?」
会話の流れが分からず、二人を交互に見る。美鈴はバツが悪そうに、夕陽を上目遣いに見ると、グイッと手元のハイボールが入ったグラスを空けた。
「実は佐那さんのことが落ち着いたら、夕陽さんに相談しようと思ってたんですけど……」
「美鈴、航のことが好きなんだよ。ずっとな」
「……え? ええー!?」
敏生の機付長の坂本航三等海曹。
「……やっぱり気づかれてたんですね」
「当たり前だ。妹分の機微なんてお見通しだよ」
全く気づかなかった。編隊機の機付長同士だから、二人が話をしているのは何度も見たことはあるが、坂本は常に業務的な対応で素っ気ない感じで、美鈴との色恋の類など微塵も感じたことが無かった。
一方、可愛くて愛想も良い人気者の美鈴の周りには、いつもイケメン隊員たちがひっきりなしに寄って来ていて、アピール合戦の様相を呈しており、そのうち、その中の誰かと付き合うのかな、くらいに思っていたのだが。
「とはいえ、また厄介な奴を好きになったな」
「厄介?」
「ああ。俺は機付長のあいつに絶大な信頼を寄せてるし、男としてもすごく信用できるやつだけど、こと恋愛に関しては超絶奥手だ」
「……確かに、坂本君には自分と同じ匂いを感じるわ」
「そうなんです。だから、夕陽さんがお兄ちゃんに口説かれていた時、何が嬉しくて何が嫌だったのかを知りたくて」
「あ、それは俺も知りたい」
興味津々と二人が覗き込んでくる。自分語りが苦手な身としては非常に難題だったが、美鈴の機微に二年近くも気づけなかった身としては、少しでも役に立ちたかった。
「嬉しかったことは……、今もだけど、いつもあたしのことを気に掛けてくれていることかな。敏生のフォローって、飛んでいるときもそうだけど、あたしにとって、凄く絶妙なタイミングなの。今日の佐那ちゃんのことだって。いつも感謝してる」
本心だが、口に出してみると気恥ずかしいこと、この上ない。
「へへ。そっか。気に掛けているというよりも、夕陽のこと大好きだから、自然に身体が動いちゃうだけなんだけどね」
「ありがとう、敏生」
見つめ合いながら、テーブルの下で手をぎゅっと繋ぐと、美鈴がコホン、と咳払いする。
「ごちそうさまです。じゃあ、嫌だったことは?」
聞かれて、うーんと宙を見つめる。
「……やっぱり、他の女の子たちが沢山寄ってくること、かな。あたしなんかより綺麗で可愛い子たちばかりだから、自信無くすわ。もちろん、敏生のせいじゃないんだけど」
キョトンとする彼。
「……夕陽より綺麗で可愛い女の子なんて、今まで居たか?」
「はい、夕陽さんは無茶苦茶可愛いと思いますよ?」
可笑しそうに美鈴が相槌を打つ。
「も、もう、二人ともそんなこと言っても、何も出ないよ」
顔の火照りを抑えようと、残りのハイボールを一気に空け、お代わりを注文した。
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