引き継ぎで難しいのは、手順より“気づき方”
引き継ぎで、手順は教えてもらった。
メモも取った。
やることも聞いた。
確認する場所も教わった。
それなのに、前任者と同じようにはできないことがあります。
「教わったはずなのに、どうしてできないんだろう」
「自分の理解が足りないのかな」
「前の人なら、すぐ気づけたのに」
そんなふうに、自分を責めてしまうこともあるかもしれません。
でも、引き継ぎで本当に難しいのは、
作業の手順そのものより、
何に気づくべきか
なのかもしれません。
同じ画面を見ている。
同じ資料を見ている。
同じ流れで作業している。
それでも、経験のある人には、
「これは少し危ないかも」
「ここは先に確認した方がいいかも」
「このままだと、あとで詰まるかも」
と見えることがあります。
一方で、引き継いだばかりの人には、
それがまだ、ただの数字にしか見えないことがあります。
ただの一覧。
ただの予定。
ただの入力欄。
ただの確認作業。
見ているものは同じでも、
そこから受け取れる情報が違うことがあります。
私自身も、仕事をしている中で、
「これは早めに確認した方がいいかもしれない」
と思う場面がありました。
でもそれは、最初からできていたわけではありません。
何度も同じような流れを見て、
過去に詰まりかけたことがあって、
この数字のときは少し注意した方がいい、
このタイミングで確認しないと後が大変になる。
そういう経験が積み重なって、
少しずつ見えるようになったものだったと思います。
だからこそ、後任者が最初から同じように気づけないのは、
決して不自然なことではありません。
けれど職場では、ここが見落とされやすい。
前任者にとっては、
もう当たり前に見えている。
だから、つい
「見ればわかる」
「ここを確認すれば大丈夫」
「やっていくうちに慣れるよ」
という言葉になりやすい。
もちろん、それが間違っているわけではありません。
経験がある人にとっては、
本当に見ればわかることもあります。
ただ、その“見ればわかる”は、
経験がある人の言葉なのだと思います。
引き継いだばかりの人にとっては、
何を見ればいいのか。
どこを危ないと思えばいいのか。
どのタイミングで止まればいいのか。
そこがまだ、見えていないことがあります。
手順を教わることと、
危なさに気づけるようになることは、
少し違います。
たとえば、作業の順番は教えられます。
この画面を開く。
ここに入力する。
この一覧を確認する。
この人に連絡する。
ここまで終わったら完了。
こういう手順は、比較的引き継ぎやすいものです。
でも、気づき方は少し違います。
この数字なら注意が必要。
この相手先なら早めに確認した方がいい。
この流れだと後で止まりやすい。
この違和感があったら、一度手を止めた方がいい。
こういうものは、手順書に書こうとしても、
なかなか全部は書ききれません。
前任者の経験の中で、
少しずつ育ってきた判断だからです。
そして、それが言葉にされないままだと、
後任者は苦しくなります。
手順は聞いた。
メモも取った。
教わった通りにやっている。
それなのに、前任者なら気づけたことに気づけない。
そうなると、
「教わったのにできない自分が悪い」
と思ってしまいやすい。
でも本当は、
教わっていないのは手順ではなく、
どこで違和感を持つか
なのかもしれません。
何を見て判断していたのか。
どの状態を危ないと感じていたのか。
どこから先は確認が必要だと思っていたのか。
そこまで共有されていないまま、
「前の人と同じようにやって」と言われると、
後任者はとても苦しくなります。
もちろん、すべてを言葉にするのは簡単ではありません。
経験で身につけたものほど、
本人にとっては自然になりすぎていて、
説明しにくいことがあります。
「なんとなく危ない」
「この感じはちょっと気になる」
「ここは先に見た方がいい」
そういう感覚は、
きれいな手順には落としにくいものです。
だからこそ、引き継ぎでは、
手順だけでなく、
“どこを見ていたのか”を少しずつ言葉にしていくことが大事なのだと思います。
たとえば、
「ここを確認してね」だけではなく、
「ここがいつもと違うと、あとで困ることがある」
と伝える。
「この一覧を見てね」だけではなく、
「この数字が増えているときは注意した方がいい」
と伝える。
「困ったら聞いてね」だけではなく、
「この状態になったら一度確認して」
と伝える。
それだけでも、後任者の見え方は少し変わります。
そして、後任者側も、
「どうやればいいですか」だけでなく、
「どこを見て判断していましたか」
と聞けると、少し整理しやすくなるかもしれません。
もちろん、毎回そんなふうに聞けるわけではありません。
忙しい職場では、聞くタイミングも難しいです。
前任者がもう近くにいないこともあります。
周りの人も、そこまで詳しく知らないこともあります。
本来なら、周りのメンバーがフォローできるといいのだと思います。
でも、それも簡単ではありません。
周りの人も、前任者が何を見て、
どんな判断をしていたのかまでは、
細かく見えていないことがあります。
見えていたのは、
結果として仕事が回っていた状態だけ。
だから、前任者がいなくなって初めて、
「あれは手順だけで回っていたわけではなかったんだ」
と気づくこともあります。
引き継ぎでつまずくのは、
後任者の理解力だけの問題とは限りません。
手順は渡されていても、
気づき方まではまだ渡されていない。
そういうことが、実はたくさんあるのだと思います。
もし今、
「教わったのにできない」
「前任者のように気づけない」
と苦しくなっているなら、
あなた一人の問題として抱えなくていいことかもしれません。
同じものを見ても、
同じように見えるまでには時間がかかります。
経験のある人には見えているものが、
引き継いだばかりの人には、まだ見えないことがあります。
それは、やる気がないからでも、
真剣に見ていないからでもなく、
まだその仕事の見え方を育てている途中なのだと思います。
引き継ぎは、手順を渡すだけでは終わらない。
本当に難しいのは、
前任者が経験の中で身につけた“気づき方”を、
どうやって少しずつ言葉にしていくか。
前任者と同じように、
すぐに気づけなくてもいい。
同じものを見て、
同じように見えるまでには、
少し時間がかかる。
そう思えるだけでも、
少しだけ自分を責めにくくなる気がします。
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