UAE発・日本行きのタンカーたち:ホルムズ海峡を“通過しない”輸入ルートの現在|渡邉英徳研究室
ホルムズ海峡を“通過しない”輸入ルートの意味
ホルムズ海峡をめぐる緊張が続くなか,UAEのフジャイラから日本に向けて航行しているタンカーを,4月21日時点で少なくとも4隻確認できます。

原油タンカー「NEW GIANT」千葉 4/28着
原油タンカー「NEW PEARL」名古屋 5/3着
石油・化学製品タンカー「VESTA」千葉 5/7着
原油タンカー「NEW PARADISE」千葉 5/8着
なお,到着予定日はAISに基づく推定値であり,今後変動する可能性があります。ただし,ここで重要なのは細かなETAではありません。フジャイラを起点とする日本向けの石油輸送が,複数隻・複数時点で実際に動いている,という事実です。
4隻のうち3隻はVLCC級の大型原油タンカー
まず目を引くのは,4隻のうち3隻が大型の原油タンカーである点です。
「NEW GIANT」は2016年建造,リベリア船籍,載貨重量約31.96万トン,船長約333mのVLCC級です。旧船名は「HANGZHOU」でした。
「NEW PEARL」は2011年建造,香港船籍,載貨重量約30.15万トン,船長約333mのVLCC級で,旧船名として「MC AMETHYST」「DALIAN GLORY」などが確認できます。
「NEW PARADISE」は2010年建造,リベリア船籍,載貨重量約29.79万トン,船長約330m級のVLCCです。

これらの3隻は,いずれも小回りの利く緊急避難的な「代替船」ではありません。日本向け・大口の原油輸送を担える,本格的な遠距離・幹線輸送の器である,と評価できます。
1隻だけなら例外的な輸送とも読めますが,4隻がすべて「フジャイラ発・日本行き」の同一航路上に並んでいることは,この経路を通る輸送が,運用として回り始めていることを示します。
UAE・フジャイラ港が持つ意味
この状況を考察するうえで最も大きいのは,やはりフジャイラという港の存在です。

フジャイラはオマーン湾側に位置し,ホルムズ海峡を通らずに外洋へ出られるUAEの戦略拠点です。UAEはアブダビ内陸部からフジャイラへ原油を送る ハブシャン=フジャイラ・パイプラインを持ち,能力はおおむね日量150万バレル,拡張時には180万バレル級とされています。
私はこれまでの記事で,ホルムズ海峡では「通れる船」と「通れない船」が選別される秩序が形成されつつあることを論じてきました。しかし,フジャイラからは,ホルムズ海峡を"通過せず”に原油を輸送することができます。
ロイターも,フジャイラが海峡迂回のための重要拠点であり,主にアジア向けの原油がここから積み出されていると説明しています。
つまり,この4隻は単に「ホルムズ海峡を避けた船」ではありません。海峡の外に,すでに用意されていた代替インフラが,実際に日本向けの石油輸送を支えつつあるのです。
日本向けへの「振替」が起きている?
ここでさらに注目したいのは,今回確認できた4隻のうち,少なくとも一部は,もともと日本向け専用ではなく,都度の需給や契約に応じて行き先を変えうるタンカーである,という点です。
とりわけ「NEW PARADISE」をはじめとするVLCC級の原油タンカーは,特定国向けに固定されるというより,アジア地域の複数の需要地に応じ,柔軟に配船される傾向があります。
そう考えると,今回の日本向け輸送は自然発生的なものではなく,ホルムズ海峡情勢の悪化を受け,本来は別の国・地域向けだったものが,日本向けに振り替えられた可能性があります。
公開情報から,個別の交渉過程を確認することはできません。しかしながら,フジャイラという海峡外の輸送ハブから,同時期に複数のVLCC級原油タンカーが日本へ向かっていることを踏まえると,偶発的ではなく「日本行きへの振替」が継続的に行なわれている,とみるほうが自然です。
つまり今回見えているのは,日本側が「ホルムズ海峡を“通過しない”」供給ラインを現実に確保しつつある動きである,といえそうです。
海峡をそもそも「通らずに済ませる」物流の秩序
これまでホルムズ海峡で見えていたのは,「どの船が通れるのか」という選別の秩序でした。中国所有,インド人乗組員,オマーン船,パキスタン船といった属性が,「デジタルの白旗」として機能していた局面です。
しかし今回の4隻は,別の秩序を示しています。海峡をそもそも「通らずに済ませる」物流の秩序です。言い換えれば,いま起きているのは単純な「封鎖/非封鎖」ではありません。
ホルムズ海峡を通る船の選別秩序
ホルムズ海峡外の輸送ハブによる迂回的な物流秩序
この二つが並行して立ち上がっているようです。本記事で扱った4隻のタンカーは,後者の存在を明瞭に示しています。
今後の焦点
今後の焦点は,この4隻が到着するかどうかだけではありません。より重要なのは,この後も同様の「フジャイラ発・日本行き」のタンカーが継続して現れるのか,という点です。
もしこの流れが続くなら,フジャイラ経由は一時的な代替ではなく,緊張下における新たな安定輸送の枠組みとして,定着しつつある可能性があります。逆にここで途切れるなら,まだ過渡的な危機対応に留まっている,とみるのが妥当です。
現時点でいえるのは,ホルムズ海峡を通らない日本向け輸送が,もはや抽象的な可能性ではなく,実際の船舶の列として観測されている ということです。そこには日本側の交渉を反映した再配船の可能性も浮かんでいます。
また,フジャイラ経由はホルムズ海峡迂回の有力策ですが,完全に安全が確保されているわけではありません。フジャイラ港と貯蔵設備,そして原油パイプラインに対する破壊・機能停止の示威は,今後も十分あり得ることに留意が必要です。
いずれにしても本記事で述べてきた状況の変化は,今後の中東海域,そして日本のエネルギー確保を考えるうえで非常に重要です。今後もデータをもとにした分析を続けていきます。
