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【書評】北村匡平『遊びと利他』、そして「創造性のクライシス」について

「創造性テスト」というものがある。これはエリス・ポール・トーランス(Ellis Paul Torrance)というアメリカの心理学者が、人の創造力を測るために開発したテストである。その内容は多岐にわたるのだが、例えば簡単な図形が書かれた用紙を渡し、それを完成させる課題を与えたりする。そこに表現された「創造性」が点数で評価されるのだ。

「創造性テスト」の例

この「トーランス・テスト」は1960年代半ばから主に子供を対象に実施されてきた。そのデータを解析したある教育学者は、知性を測る目的で作られたIQテストの平均点が年々上昇しているのに対し、創造性テストの平均点が落ちてきていることに気づいた。つまり、子供の「インテリジェンス」は向上しているのに、創造力が減退しているというのである。その教育学者は、この問題を「創造性のクライシス」(Creativity Crisis)と呼んだ。[1]

北村匡平の『遊びと利他』(集英社、2024年)を読んでいたら、この「創造性のクライシス」のことが頭をよぎった。本書は、公園、幼稚園、遊具など子供の遊び場となる空間に光を当て、綿密なフィールドワークや当事者へのインタビューを通してその在り方を問い直す仕事である。そして「利他」という観点から、遊び場の意義と可能性を改めて私たちに示す内容となっている。

その焦点は、2000年以降の日本にある。新自由主義的思考やSNSが急速に拡散し、また震災や新型コロナウィルスの影響が体感されたこの時期、公園や遊具に質的な変化が見られるようになったと北村は言う。本来は純粋な遊戯や共同体形成の場となっていたはずが、安全確保やリスク回避を優先するあまり、それらは細かいルールや規則によって管理されるようになった。そのため、遊具の使用回数は制限され、「入口」や「出口」の形成を通して「秩序」が作られ、スケートボードやキックボードなど「想定外」の遊戯が禁止されるようになった。遊びの「自由」や「余白」が奪われ、多くの大人が理想化するルールや効率性を遵守する、杓子定規な行動が強く求められるようになった。

しかし、そのような傾向と一線を画する動きもあり、例えば福井県敦賀市にある「第二さみどり幼稚園」にはイサム・ノグチや大宮エリーなどのアーティストがデザインした遊具がゆったりとした空間に置かれており、「芸術」と触れる機会が日常化されると同時に子供の創造性や多様な遊びが奨励される。手作りの「DIY遊具」が特徴的な東京都世田谷区の「羽根木プレーパーク」には遊び場に廃材が置かれ、「自由」な遊びを通して子供たちの責任感を育もうとする。さらに、筆者が「ラディカル」と見なす大阪府河南町にある「森と畑のようちえん いろは」では、自然の中に子供を放り込むことによって山や倒木といったナチュラルな物を遊具化し、効率化に抗うような「冒険」や「寄り道」も容認する。

イサム・ノグチのデザインによる札幌・モレエ沼公園の遊具(撮影:2023年7月)

上に挙げられた三つの空間にはある種の「救い」を感じるが、それらはあくまで例外的な事例だ。北村も現在の社会を「危機的状況」(13頁)と捉えており、それが遊び場の効率化や管理化に表れていると鋭く指摘する。ただ、問題の根源はもともと2000年代以前、つまり経済的な豊かさが何よりも追求された高度経済成長期にもあるように思う。その時期は裏山や空き地といった「余白」が団地や住宅地に変えられ、公園にはブランコ、滑り台、砂場(「三種の神器」、62頁)といったお決まりの遊具が設置されるなど、遊戯の画一化が計られた。身近な遊具を見ても、ままごとの道具からプラモデルの飛行機までプラスチックの既製品が一般化し、絵を描くにも塗り絵で決められた枠を塗りつぶすことが目的とされた。今ある「創造性のクライシス」は、確かにコスパ、タイパ、AI、アルゴリズムなどが常態化している現在加速していることは間違いない。だが、それが日本の、特に戦後の長期的な流れの中で形成された問題だとも思えてならない。

本書の価値は、問題を指摘するに留まらず、解決の突破口を示している点にある。それは、北村によれば、公園や遊具に「余白を組み込むことで偶発性を高め、計画・管理を半ば手放した「ゆるい」設計を目指すこと、そして何より「あそび」の要素を忘れないこと」(327頁)、つまり建設的な共同体形成を促すような「利他の場」を作っていくことだという。この考えに大いに共感する。そのためにはクリエイティブな発想が要求されるはずだが、もしかしたら大林宣彦や宮本茂のような作り手(「子供」的な発想を持つ「大人」)の仕事を改めて見直したり、老若男女を問わず楽しめるスイスのネフ社(naef)のおもちゃで遊んだりしたら刺激を得られるのではないかとふと思った。

『遊びと利他』は、現在失われつつある人間の創造力を盛り返すためのヒントが盛り込まれた刺激的な書だ。この本をきっかけに「クライシス」の打開へと向かえれば、これほど嬉しいことはない。

スコットランド・エジンバラのプリンセス・ストリート庭園(撮影:2025年3月)

[1] Kyung Hee Kim, "The Creativity Crisis: The Decrease in Creative Thinking Scores on the Torrance Tests of Creative Thinking," Creativity Research Journal, 23:4 (2011), 285-295.他にも、Kim, "The Creativity Crisis," Newsweek, July 10, 2010も参照。ちなみに、キムの調査結果はアメリカのデータを用いたものである。

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