カワウソ字、410字、毎週ショートショートnote
河川敷で水死体が見つかった。
現場に駆けつけた私は、遺体のそばに転がっている奇妙な石に目を奪われた。
その表面には、文字が刻まれている。

「これは、何かの符号か?」
同僚が背後から覗き込み、すぐ顔をしかめた。
「気味が悪いな。触らないほうが…」
私が、その字を凝視した時…ぽたり、ぽたり。
肩、背中、腕へと、目に見えない水滴が次々と落ちてきて体にまとわりついてくる。
衣服の中に入り込むように、皮膚を這うように、冷たい水がまとわりついて離れない。
息がしづらい。
「おい、大丈夫か!」
同僚が慌てて腕を掴んだが、彼の手はすぐ滑った。
私は呼吸を奪われながら悟った。あの石は、読んだ者を水の中に引き摺り込むための呪符なのだ。
視界が揺れ、水が目の前を漂い始め、同僚の声も、遠くなる。
「やめろ、おれは…まだ…」
最後に見えたのは、別のカワウソ字だった。

両手を広げたカワウソが私を抱きしめるようにして地面に押さえつける。
水がないのに、私はその場で溺れた。
