骨折祈願、毎週ショートショートnote、410字
朝、窓を開けると冷たい風が頬に触れた。昔、骨折した右肘が少し痛むのは天気のせいだと思った。
会社に行こうと家を出たが、今日も誰にも会わない。誰かの声を聞いたのはいつだっただろうか。
赤信号で止まったが、車も人もなかった。鏡に映る自分の顔は、記憶していたよりも少し若かった気がした。
夕方、右肘がひどく疼いた。僕はいつからここにいるのか。
そういえば、右肘の骨を折った時、意識を失った。混濁した記憶…同じところを折れば…。
理由はなかった。ただ、それしかないと感じた。階段の角度を確かめ、記憶の断片をなぞるように体を傾けた。重力が引き寄せるのを感じた。次の瞬間、世界が割れた。
痛みが爆ぜた。瞬間、すべての音が戻ってきた。
そして、目を開けた。
白い天井、機械音、清潔なシーツ。
「先生、反応があります」
声が近づく。自分の名前が呼ばれる。
名札が見える。手には点滴。
「十年ぶりに、目を覚まされました」
僕は、自分がどこにいたのか、初めて知った。
(410字)
