シャボン玉、シロクマ文芸部、336文字
シャボン玉が、ふわりと空に浮かぶ。
沙織は、よくこうしていた。子どもみたいだと笑うと、「この美しさがわからないの?」と言って、少しだけ拗ねた顔をした。
光を映して七色に見えたと思ったら、すぐに消える。
「儚いよね」
そう言うと、彼女は首を振った。
「違うよ。消えるから、きれいなんだよ。打ち上げ花火だって、桜の花だって、ずっとそこにあったら、きっと美しさは半減する」
あのときは、よくわからなかったけど、今なら、少しだけわかる気がする。
手を伸ばすと、泡は弾けて音もなく消えた。
形も、色も、何も残らない。
ああ。全部、泡みたいだった。
出会ったことも、笑ったことも、好きだと言ったことも。
風が吹く。次のシャボン玉を空に飛ばす。
今度は、少しだけ長く、空にとどまっていた。
