曼殊沙華は恋をする、毎週ショートショートnote、492字
遠くに住む恋人からメッセージが届いた。
「あの幸手権現堂堤の曼珠沙華が懐かしい」
そういえば、もう咲いている頃だ。私はすぐに写真を撮って送ってあげようと決めた。スマホを手に、赤い花の群れの中を歩く。燃えるような景色に息を呑み、カメラを構えた瞬間、画面の奥に人影が映り込んだ。
拡大すると、その人影がこちらに振り向いた。
「僕も一緒に撮ってくれるのかい?」
聞き覚えのある声に心臓が跳ねる。慌てて視線を上げると、そこに彼が立っていた。遠くにいるはずの彼が、花の赤に包まれて笑っていた。
「え……なんで?」
駆け寄る私に、彼は少し照れくさそうに肩をすくめた。
「君を試したわけじゃないけど、すぐ来てくれたんだね。そんなに僕のことを思っていてくれて嬉しかった」
その言葉に胸がいっぱいになる。気づけば彼の手を強く握り返していた。
その瞬間、堤を埋める曼珠沙華が一斉に揺れた。
私たちを見て……スクリーンに映る恋愛映画のクライマックスを見る観客のように、胸をときめかせながら。
曼珠沙華も恋をするのだと思った。
誰かに恋をするのか、恋に恋をするのかは、わからない。赤い花弁を震わせて、見えない手を差し伸べるようにして。
#幸手権現堂秋祭り
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#曼珠沙華は恋をする
