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レシートに、シロクマ文芸部、1066文字


レシートに東雲という名前が印刷されていた。

店員が若い頃の彼にそっくりだったから、二つあるレジのうち、私は迷わずこちらに並んだ。
久しぶりの帰郷で、たまたま入ったコンビニ。

偶然の一致だろうか。彼と同じ苗字。年齢からして、彼の息子でも不思議はない。

私はレシートを見ながら言った。
「東雲(しののめ)くんっていうのね。東って字は『しの』? それとも『しのの』?」

彼は私をチラリと見て、事務的な口調で答えた。

「複数の漢字に特有の読みを当てる熟字訓というものです。個々の漢字の読みはありません。たとえば……」

私は思わず、その先を口にした。
「今日という字は……」
「今日という字は……」
声がぴたりと重なった。

彼が目を丸くして私を見る。

三十年前。放課後の図書室で、同じことを得意げに語ってくれた男の子がいた。
東雲拓也くん。

「お父さんのお名前、拓也さん?」
「はい」
「元気?」
「はい。毎日元気ですが理屈っぽくて、母に怒られてます」

思わず笑ってしまった。
昔から変わらないらしい。拓也はいつも真面目な優等生。私はクラスで一番騒いで、よく先生に注意されていた。

「そう。よかった。私、クラスメイトで佐々木っていうの」

昔、あなたのお父さんの彼女だったのなんて……そんなことは子どもに言うことではない。
クラスメイト、くらいがちょうどいい。

彼は一瞬きょとんとしたあと、ふっと表情をやわらげた。

「じゃあ、母のこともご存じですよね。沙織っていうんです。旧姓は立花」

今度はこちらが目を丸くする番だった。

立花沙織。
私とは正反対の女の子。無口で、引っ込み思案で、いつも陰に隠れるようにしていた。
彼女はいつも教室の隅にいて、私はいつも教室の真ん中にいた。

「母、たまに言うんです」
彼はレジ袋を整えながら、少し照れくさそうに続けた。
「高校のとき、自分を変えてくれた友達がいたって。佐々木さんという、明るくて、うるさくて、でも誰より優しい人だったって」

あの頃の私は、孤立していた沙織をクラスの輪に入れるために、当時付き合っていて、クラス委員だった拓也を巻き込んだ。
高校を卒業する時、彼から別れを告げられた。好きな子ができたって。それが、彼女だったと今、知った。

そして二人のあいだから、この子が生まれた。
「また、うちに来てください。母、きっと喜びます」

私は小さくうなずき、レシートを折って財布に入れた。
私、ピエロみたいだなと思った。でも、誰かが笑えたならそれでよかったのかもしれない。
昔の答え合わせができたけど、人生って熟字訓みたいだなと思った。
きっと、一文字づつ読めるほど単純なものではないのだと。

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