ネタバレアイマスク、毎週ショートショートnote、545文字
歳を取ってから、好きなミステリを読めなくなった。
大筋は追える。だが、物忘れがひどくて、途中の細かなことが、するすると頭から抜けていく。
本屋のレジ横で、見慣れぬ商品が目に入った。
ネタバレアイマスク
物忘れが気になりはじめた方へ。新しい読書体験を。
買って帰り、付けてみる。当然、真っ暗だ。
説明書の通りに、読みかけのミステリを顔の前に持ち上げた。すると、犯人の名前が浮かび上がった。
半信半疑で読み進める。犯人がどこで嘘をつき、どこに伏線が置かれていたかがよくわかる。忘れっぽい頭でも楽しく読めた。
別の本でも試した。
今度は、犯人ではなく、「密室の作り方:暖炉の煙道を使用」と出た。
さらに別の本では、「動機:妹の死に関する復讐」と見えた。
何を先に知ればいちばん楽しめるか、作品ごとに選んでくれた。これは楽しい。
それに、探偵も、犯人も、登場人物の誰もまだ知らないことを、私だけが知っているという、その小さな優越感が、なんとも愉快だった。
実生活の中で、できなくなったことがいくらでもあり、すっかり、自信をなくした老人でも、本を読んでいる間はその優越感に浸れた。
若い頃の私は、こんな読み方を邪道だと思っただろう。だが、今の私は忘れてしまう。読み落とす。考えが途中で途切れる。でも、この読み方なら楽しめるのだ。
