僕らのあざとい朝ごはん「#2000字のドラマ」「#あざとごはん」
○登場人物
早見駿(23・男)有名大学を卒業後、携帯大手キャリアに就職。近畿支社に配属される。数々の販促アイデアを出し二年目の評価で近畿地区の同期の中で最高評価を得た。四年目から本社勤務が約束されている。あと一年で、さらに実績を上げようと焦っていた。自ら多くの仕事を並行してこなしていたが、大口のお得意様との面談を忘れるという失態を犯した。
S1:ゲストハウスの自分の部屋
早見は、有給をとって地方のゲストハウスに泊まっていた。チェックインをした後で自分の部屋のベッドの上で普段着のまま大の字になって天井を眺めていた。
早見「はぁ(と大きなため息をつく)、課長の勧めで有給をとってこんなところに来たけど、一人になると落ち着くどころか、課長と二人で謝罪に行ってぺこぺこ頭を下げているシーンばかりがフラッシュバックする」
早見が起き上がると、テーブルの上に冊子が置いてあるのが目に入る。歩いて近づきそれを手に取り、開いた。最初のページを読み、目を大きく見開いた。
早見「ここは、元気が出るパワースポットとして有名です。ちょっと人生に疲れた人もここを出る時には笑顔でいてくださることをお祈りします…って、そんな簡単に行けばいいよな」
そう言うと、また、ため息をつく。
早見「気分転換に交流スペースにでも行ってみよう」
S2:交流スペース
交流スペースには誰もいなかった。壁に今日のお知らせと書いた紙が貼ってある。『明日の朝食をご希望の方 朝ごはんセット(ご飯とお味噌汁)200円とおかずはこの交流スペースで干物の販売をするのでそれを買って食べてください(ゲストハウスのオーナーは干物屋さんです)。』
早見「なんか、変わってる。てか、これ、干物って誰が焼くの?まさか、俺じゃないよな」
ふんっと鼻を鳴らして早見は玄関へと歩く。
早見「ちょっと散歩でもしようかな」
S3:砂浜
砂場に仁王立ちした早見は、海を眺めていた。海なんて眺めるのはいつ以来だろうか。いや、むしろこんな見事な水平線を見るのは生まれて初めてかもしれない。早見はそう感じていた。
早見「自然の雄大さに比べたら、俺の悩みなんてもう忘れてしまってもいいくらいちっぽけなもんだよな」
S4:翌朝の交流スペース
並んでいる干物からどれをチョイスするか悩む早見。
早見「金目鯛、サバ、アジ、カマス、サンマかぁ。金目鯛、デカっ、そして高っ。一匹で二千円かよ。やはり干物の王道はアジでしょ」
早見はアジを買い食堂へ。
S5:食堂
食堂の奥に横長の電気グリルが2台置いてある。その横にはスタッフが立っている。
スタッフ「こちらで干物を焼いてください」
早見「やっぱり、自分で焼く感じ?」
スタッフ「そうです。どうぞ、どうぞ、あっためてありますからすぐ焼けますよ」
早見「えー、わかんないんだけど」
スタッフ「海は身から、川は皮から。海魚なので身の方を下にして焼いてください」
早見「へー、海の魚と川の魚で逆なんだ。身を下にして焼いてと」
スタッフ「皮がヘリの方がめくれてきました。ひっくり返してください」
早見「はい。熱っ。ひっくり返しました。わ、身から脂が滲み出てる。うまそう」
スタッフ「はい、出来上がりです。この皿に入れてお持ちください。あちらでご飯と味噌汁を受け取ってお好きな席でお食べください。冷蔵庫に冷たい麦茶が入っていますのでセルフでどうぞ」
S6:食堂の自分の席
早見の目の前には、炊き立てご飯と豆腐の味噌汁、アジの干物、麦茶。早見はまず、干物の身をほぐし、箸でつまんだ。白身はテカテカと光り湯気を出している。パクッと口に入れてもぐもぐと食べる。
早見「俺たち若者はあんまり干物って食べないと思うけどこれはうまい。焼いた魚のいい香りが鼻腔にひろがる。口の中にはふっくらとした食感とアジの濃厚な味が広がる。熱くてうまくて、熱くてうまい」
味噌汁を啜ると、出汁がよくきいていて、体に温かさが染み渡る。またアジを口に入れ、ご飯を口に頬張ると、ご飯は炊き立てでぷりぷりしていて、もちもちしていて、少し甘みがあって美味しい。
早見「このアジ、なんでこんなにうまいんだ?」早見はアジを箸でつまんだまま、眺めていた。
早見「そうだ。いらない水分を飛ばしてあるから味が濃縮してうまいんだ。いらないものを捨ててしまえば、いいんだ。(しばらく考えて)
そうか、俺もこのアジみたいにいらないものを捨てよう。
変なプライドとか、欲望とか捨てて、もっと自分に磨きをかけよう。よし、俺は干物になるぞ」
満面の笑顔になる早見だった。
