思い出相続税、毎週ショートショートnote、522文字
科学技術の進歩で、人の記憶はデジタルデータとして保存できるようになった。
政府はそれに課税した。思い出相続税。支払わなければ、故人の記憶は閲覧できない。
父が死んだ。
昔から妙に気が合い、兄貴と呼んでいた職場の先輩が言った。
「やめとけ。あれは税金を取るために加工されたデータだ」
それでも、私は見たかった。
私が生まれる場面、よちよち歩きの私。どの記憶にも、父の笑い声があった。けれど、ところどころで、父の独り言。
「あのことを、いつ話そうか。妻だったら、うまく話せたのかもしれない」
先輩にその話をすると、苦笑いをした。
「やっぱりな。うちの母親も、同じこと言ってたよ。『夫だったら、うまく話せたのかもしれない』ってな」
先輩は肩をすくめた。
「だから言っただろ。興味を引くように作ってあるんだ。二人分、払わせるために」
母の記憶の受け取りは、保留にしていた。
両親は離婚していたから見たいとも思っていなかった。
だが、私は手続きをして閲覧した。
母が、小さな子を抱き上げた。
笑い方も、目の細め方も、名前も知っていた。先輩だった。
職場で、先輩がいつもの調子で声をかけてくる。
「どうだった?」
私は笑みを浮かべて答えた。
「先輩を兄貴って呼んでたの、間違いじゃなかったみたいです」
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デジタルデータは記憶をそのままコピーするのではなく、本人が残したいものを残せる仕組みだったんですね。そして、兄弟がいるという秘密に自分でたどり着けるようにしていたんですね。
秘密にしていたのは、離婚理由にもあるのかもしれません。
