つくし上位互換、毎週ショートショートnote、565字
──心があると逆に辛い。言葉を理解し、知識を増やしたところで、所詮、つくしはつくし。
兄の気持ちは、言葉にならない震えとなって、地下茎を通じて僕に伝わってくる。
僕たちの地下茎が地中に敷かれた光ファイバーに偶然にも接触し、ある日突然、インターネットにつながった。僕らは世界の知識を取り入れることができた。
Google検索を覚え、Wikipediaを読み漁り、SNSのアカウントを複数作り、世界中のあらゆる言語を瞬時に翻訳し、地政学、宇宙論、エピステモロジーについて語ることができるようになった。
兄と違って、自分の姿形なんてどうでもよかった。日光を浴びて胞子を飛ばすことに、もはや何の意味も感じなかった。僕はネットを通じて自己実現すればいいのだと考えた。
毎日が充実していたそんなある日
「あ、つくしだ」
子どもの声がした。
その直後、指先の圧力が僕の茎をつまみ上げた。根元からぷつりと断ち切られ、僕は空中に持ち上げられた。
引きちぎられる瞬間、兄の声がした。
「つくしはつくしだ」
僕の思考は止まっていなかった。意識は、サーバーのクラウドへ移動して再起動した。風のない世界。光のない世界。だが、世界と繋がったままだ。
つくしの上位互換ではなくなった。
仮想世界の僕は、知識を蓄え、人格を磨き、自由を得た。自らを「つくし」と名乗る必要すらなくなったのだ。
(565字)
