「あざとい」から始まる片想いの物語、片想い文芸部、927字
あざとい、ってまた、言われた。
最初は、中学のとき。二回目は、高校の入学式の後。三回目は、後ろの席の子がこっそり囁くのを耳にした。それから、何回も。誰に向けた言葉かは聞かなくてもわかった。私だった。
私はたしかに、そう見えるのかもしれない。
たとえば、それが、モテようとしてるとか、男に媚びてるとか、そんなふうに。
自分の声の高さ、服の色、視線の残し方、指の動き、物を渡すときの首の角度、そのすべてを計算している、と。
全部がそういうふうに見えてしまうのかもしれない。
でも、ちがうの。ほんとうはちがうの。
計算しているのは、不快を与えないこと、それだけ。人を喜ばせようなどという高尚な動機はなかったし、好かれようとも思っていなかった。私はただ、嫌われたくなかった。
ただ、誰かにいやな思いをさせたくなかったの。
特に川澄くんには……。そう思ってた。
彼が風邪をひいたとき、マスクの予備を持ってきたのは、たまたまなんかじゃない。彼が咳をするのが、空気が乾燥したときって知ってたから、そんな日は、こっそり加湿器を職員室から借りてきた。
「おまえってさ、なんか、あざといよな」
そう言ったのは、彼だった。何気ない声で、冗談みたいに、笑いながら。笑って、目を合わせて、でもそこにはわずかな優しささえ感じ取れなかった。
ああ、って思った。ああ、そうなんだ、って。
私が積み上げたこと、慎重に丁寧にやってきた毎日、彼のためだけにやってきた気づかい、そのすべてが「あざとい」の一言で、消えていった。
私は笑った。たぶん、とても自然に。たぶん、いつもの角度で、唇の端をきゅっと上げて。鏡の前で練習したように。そういうふうにしかできなかった。ほんとうの私は、気の利いたことも言えないコミュ障だった。
あざとくなんてない。私は、ただ、不器用なだけだった。好きになった人に、好きだなんて、言えないだけだった。川澄くんやクラスのみんなに少しでも嫌われないように、間違えないように、そればかり考えて、自分の気持ちを置き去りにして……。
そんなふうに、自分を隠して生きてきただけだった。
だから今日もまた、私は「それっぽく」笑っている。
好きな人に、まっすぐに、嫌われていく。そんな自分に、少しだけため息をつきながら。
