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kosuketsubota
文学茶釜、毎週ショートショートnote、647文字
「千利休はの、茶を点てるとき――茶釜が松風の音を立てた瞬間が、最もよい頃合いだと言ったんじゃ」
そう言うと、先生は机の上の冷めかけた急須を指で軽く叩いた。
「松風とは、シューッという、あの澄んだ音のことじゃ」
「せ、先生……私は小説の講評をお願いしたのですが……」
「だから講評しておる」
先生は私の原稿を鼻で笑いながら翻す。
「お前の小説は――『でした』『ました』『と言った』『と言った』……語尾が並んで、まるで響きが悪い。読んでいて耳が痛いわ」
「そ、そんなにですか?」
「ふむ。蚯音に似ておる」
「きゅうおん?」
聞き慣れない言葉に、私は瞬きをした。
「お湯が沸き始めたばかりの頃……釜の底で泡が生まれてはすぐ弾ける。そのときに鳴るジジジという、不快な音じゃ。蚯音とは蚯蚓の鳴き声のこと。本当はケラという虫の声だけどな」
「へえ……」
「つまりお前の文章は中途半端な段階じゃ。じゃがの」
先生は顎を撫で、ようやく少しだけ柔らかい表情になった。
「続けて書けば、必ず松風に近づく。雑音は消え、ことばが澄み、凛とした余韻が残る。そこを目指せ」
私は背筋を伸ばし、深く頭を下げた。
「は、精進します。ありがとうございます!」
数日後、私は新しい原稿を抱えて再び先生の元へ行った。先生は受け取り、黙って読み始めた。
やがて、ゆっくりと顔を上げ、私を睨む。
「この語尾の……『でしゅ』『でしゅ』というのはなんだ?」
私は胸を張った。
「あれです。松風の音です」
「やかましいわ。馬鹿者が!!」
