ジョンス・タインベックの 「怒りの葡萄」
今回の名作はジョンスタインベックの小説「怒りの葡萄」です。

この作品はアメリカ文学の代表的な作品の一つで1939年に発表されました。アメリカ大恐慌とダストボウルの影響を受けて苦しむ人々の姿を描き労働問題等社会問題に深く切り込んだ作品です。その社会的メッセージと文学的価値からピューリッツァー賞を受賞しスタインベックに1962年にノーベル文学賞をもたらした重要な作品です。なお発表翌年の1940年にはジョンフォードが監督しヘンリーフォンダ主演により映画化されニューヨーク映画批評家協会賞の作品賞を受賞し監督賞受賞またアカデミー賞の監督賞更にジェーンダーウェルが助演女優賞を受賞しています。
それではストーリーに入って行きましょう。

物語は長男トム・ジョードが4年間の服役を終えて釈放され故郷のオクラホマに戻る場面から始まります。しかしトムが見た故郷の光景は荒廃していました。かつて豊かな農地だった大地はダストボウルによる砂嵐で荒れ果て地主

から土地を借りて農業をしていた小作人たちは機械化された農業に取って代わられ土地を追われていました。トムの一家も例外ではなく土地は銀行によって差し押さえられ家族は農場を失っていました。彼は家族の行方を探しますが途中トムの兄ジムケイシーと再会します。ジムケイシーは元牧師でありトムと共に家族を探す旅に出ます。


トムの一家は家長の祖父と祖母両親トムの兄弟たちで構成されておりました。
そして二人は近くの親戚の家でジョード一家を見つけます。ジョード一家はオクラホマでの生活が立ち行かなくなり西部のカリフォルニアに仕事を求めて移住する計画を立てていました。
カリフォルニアでは農業労働者の求人広告が出され豊かな土地として語られていました。彼らはカリフォルニアに豊かな農作物と仕事があるという噂を信じて移住することを決意します。

一家は古びた小さなトラックに荷物を積み込み全財産を抱えてカリフォルニアへの長い旅に出発します。
ルート66を辿る過酷な旅の中で一家は多くの困難に直面します。まず祖父が体力の限界を迎え旅の途中で命を落とします。祖母もその後亡くなってしまいます。さらにトラックは故障し一家は度重なる修理と資金不足に悩まされます。
一家のメンバーは次第に疲弊し精神的にも追い詰められていきます。それでも母は一家をまとめカリフォルニアでの新生活を目指して進むよう家族を励まします。

やっとの思いでカリフォルニアに到着した一家を待ち受けていたのは彼らが期待した豊かな土地とはかけ離れた現実でした。農業労働者の供給過剰により賃金は極端に低く抑えられ労働条件は過酷で生活は一向に改善されませんでした。一家は様々なキャンプを転々としながらその日暮らしの生活を送ります。労働者たちの間には不満が高まり団結して搾取に立ち向かおうとする動きが見られる一方で雇用主側の抑圧や暴力も激化していました。

一方元牧師のケイシーは旅の中で人間の連帯と社会的不正に対する意識を深めていきます。彼は労働者たちのストライキ運動に加わり彼らを支援する活動を行います。しかしその過程で警察に目をつけられ最終的に彼は暴力により命を落とします。この出来事はトムに大きな影響を与えます。彼はケイシーの死を目の当たりにし彼が目指していたすべての人々のための正義という理想を引き継ぐ決意を固めます。彼は仲間たちとともに労働条件の改善を求めて闘い始めますがその結果法の網にかかり家族から離れることを余儀なくされます。

最終的にトムは家族と別れることを決断しケイシーの信念を胸に秘めて行動を始めます。彼の決意は彼が母親に語る独白の中で象徴的に描かれます。僕がどこにでもいるんだってことが分かるだろう。誰かが飢えているとき誰かが不公平を感じているとき僕はそこにいると語るトムの言葉は物語全体のテーマを強く表現しています。
自らが物理的にいなくなっても社会のあらゆる場所で困難に立ち向かう人々の中に自分が存在し続けるという彼の意志は労働者運動の象徴的なメッセージであります。
ジョード一家はその後も過酷な状況の中で生き続けます。父親と兄弟たちは働き続け母は家族をまとめるために懸命に奮闘します。一家の次女ローズオブシャロンは妊娠していましたが厳しい生活環境の影響で出産した赤ん坊は命を失います。

しかし彼女の最後の行動は希望と人間の連帯を表す象徴的な場面となります。飢えた他人を助けるために自らの母乳を分け与える彼女の行動はどんな困難の中でも人間の尊厳と希望を失わないことを示しています。
怒りの葡萄はジョード一家の旅と試練を通じて労働者の権利またそして社会と正義更に家族の絆と希望と絶望といったテーマを深く掘り下げた作品です。スタインベックは詳細な描写と情感豊かな筆致を通じて読者に深い考察と感動を提供し時代を超えた普遍的なメッセージを伝えています。
以上ジョンスタインベックの小説怒りの葡萄のストーリー概要でした。

さて注目すべきポイントです。
第一に社会批判と現実主義:
怒りの葡萄は大恐慌時代におけるアメリカの労働者階級の困難をリアルに描写しています。資本主義の弊害そして土地を奪われた農民の窮状そして労働者の連帯の重要性とその難しさを鋭く描いています。
第二に人間の尊厳と希望:
作品はどんなに過酷な状況にあっても失われない人間の尊厳と希望を描きます。特に母親のマジョードの存在は家族の絆と人間性の象徴として重要です。
第三に象徴的な描写:
小説のタイトル怒りの葡萄は戦いの歌に由来し正義と怒りが実を結ぶことを象徴しています。またカメや土地などの自然描写は登場人物たちの苦闘とリンクし象徴的な役割を果たしています。
第四にトムジョードの独白:
終盤でトムが母親に語る独白は本作のハイライトの一つです。トムは自らが物理的にいなくなっても社会のあらゆる場所で困難に立ち向かう人々の中に自分が存在し続けると語りこの言葉は労働者運動の象徴的なメッセージとして記憶されています。
第五に文学的技法:
小説はジョード一家の具体的な物語と広く一般的な状況を描くインターチャプターつまり挿話的章の構成が特徴的です。この技法により個人の物語と社会全体の現実が交錯し読者に強いインパクトを与えます。
この物語は一家の物語を通じて大恐慌時代の労働者たちの闘争と彼らが直面する搾取や不公正を描いています。同時にそれは人間の尊厳更に家族の絆そして連帯の力を強調し困難に直面しながらも希望を持つことの重要性を読者に訴えかけるものとなっています。
怒りの葡萄は個人の物語を通じて時代の問題や人間の普遍的な課題を描き出した傑作であり現代においてもそのテーマは強く共感を呼ぶものとなっています。
