いつのまにか、らくご|「癇癪」を聴きながら、バイブスについて考える。
くたくたで、ふにゃふにゃで、
バキバキな身体を引きずり、
今日も一日が終わろうとしている。
働きすぎの私は、働かない頭で
ぼんやりと車窓を眺めている。
郊外の夜は暗すぎて、
そこに映るボロボロの自分しか見えない。
イヤホンから流れる落語では、
帰宅した主人が癇癪を起し、
誰彼かまわず怒鳴りつけている。
らくごの世界ではいつも、
気の短い棟梁か、ケチな小金持ちが怒っている。
現実ならあまり関わり合いたくないタイプでも、
らくごの登場人物なら、いとおしく感じられる。
それはらくごの世界が、
「お天道様は見ている」の世界観だからだ。
人にやさしくできないやつには、
必ずバチが当たるようにできている。
だから、こんなにふらふらな夜にも、
安心して聴いていられるのかもしれない。
怒っている主の声を聴きながら、
ふと職場での小さなできごとを思い出していた。
私の職場では、昼食を会議室で食べる。
キッチンカウンターで、
インスタントのおみそ汁にお湯を注ぐ。
いつもの定位置には、副社長こと
「66歳のトトロ」が
私の期待に応えるかのように、トトロらしい
まぁるいおなかと背中で座っていた。
その愛らしいフォルムとは裏腹に、
トトロさんは眉間にしわを寄せ、
怪訝な表情を浮かべている。
温厚だが、怒りんぼうな一面もあるのだ。
だけど不思議と、人をいやな気持ちにさせない
可愛らしさがこの人にはある。
「どうしたんですか?」
まえを通るときに声をかけてみた。
「あのよぉ。
......なんでダンスは止められないんだ!?」
まさかの問い!
かのソクラテスも、驚きでアゴがはずれそうだ。
「え?え?......えぇ?」
私は動揺している。
トトロさんは怒っている。
「電気も、ガスも、水道も止められても
ダンスは止められないって、
一体どういうことなんだ?訳わからん!!!」
「わっははは!あぁ!それはですねぇ......」
トトロさんは正午すこし前にラジオから流れた
音楽のことを考え、ぷりぷりしていた。
その曲は、どんぐりずの「LIFE LINE」
♪ 電気止められた
ガス止められた
水道止められた
でもダンスは止められない~
トトロさんは、
「今をたのしもうぜッ!」という、
若者のバイブスを受け止められずにいた。
ライフラインよりもダンスを大切にする
架空の若者に怒り、そして若者の行く末を
真剣に心配している。
「あれは令和のコミックソングですよー
歌っている人が本当に
そういう人ではないですよー」
作品を解説(マジレス)するという、
なんとも無粋でバイブス不足な自分の言動に
さっきから内心、面白さがこみ上げている。
トトロさんはそんな心の内を知るはずもなく、
「公共料金を払わないなんて、わからんな~!」 と、まだ首をかしげて心配している。
もうトトロさんの怒りはおさまったようだ。
お手製の鮭弁当に箸を伸ばしている。
怒りのバイブスって、案外長持ちしない。
一度外に出せば、すっきりして忘れてしまう。
らくごの世界の癇癪も、
トトロさんの癇癪もそうだ。
それに比べて、
たのしい、うれしい、きもちいい。
そういう快のバイブスは、
天井知らずに高まり続ける。
だからダンスは止められない。
たとえ、公共料金を払えなくなっても。
らくごも例外ではない。
一度はまると、面白くて抜け出せない。
私も気をつけなくては。
高まりすぎた快のバイブスで、
お天道様のバチが当たらないように。
このバスを降りたら、
コンビニで電気代を払わなくちゃ。
それと、だれか私に教えてほしい。
「バイブス」の使い方、合ってる?
