いたずらさせて!おかしあげるよ! | せりふ三題噺
「おはようございます。」
幼稚園の門の前。
いつもと同じ笑顔で挨拶してくれた園長先生は、今日は頭に大きな赤いリボン、首から紺色のマントをつけている。肩からオレンジ色の鞄もさげているし、足元には箒がちらりと見えた。
「ハッピーハロウィーン!」
園庭では、お友だちがいつものスモックではなく、思い思いの格好で遊んでいる。猫耳をつけていたり、アニメのキャラクターになりきっていたり。
担任の先生は、黒のトレーナーにオレンジのズボン。かぼちゃの頭巾をかぶり、顔にコウモリのシールを貼っている。
他の先生も、ドラキュラや蜘蛛といった装いだ。
僕は、おばけのワッペンがついた薄い長袖の上に、黒地にオレンジの「小さい」を意味するロゴのトレーナー。手提げかばんには、黒地にオレンジの顔が描かれたとんがり帽子と、かぼちゃのお面が入っている。
「去年ではあるけど、魔女みたいな帽子がいいって言ってたなと思って。こういうのって近くなると売り切れちゃうみたいだから…。」
夏休みに買ってきてくれたときの、ママの言葉を思い出す。
先生やお友だちが着ているのと、それではしゃいでいるのを見るのは楽しい。
でも、僕自身がいかにもな仮装をする気にはなれなかった。試しに小物をつけてみたものの、すぐ外してしまった。
朝晩は急に肌寒くなったけれど、昼間は外遊びにうってつけのこの頃。
僕は、園庭の積み重ねられたタイヤの後ろに隠れた。工作で作ったキャンディを入れたかごを手に、誰かが近くを通るのを身を潜めて待つ。
ほどなくして、同じクラスのタカくんが近付いてくるのがわかった。
よし、今だ。
「トリック・オア・トリート!」
「うわっ!」
タカくんの両手が上がったと思ったら、地面に尻餅をついていた。暗闇で待っていた甲斐があった。
「はい、これどうぞ。」
「え、おかしいじゃん!」
「いいの!」
僕はタカくんの手にキャンディを置いた。きっと、ちぐはぐなことをしているのだろうけれど、今の僕はこうしたかったのだ。
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帰り道、隣を歩く息子に尋ねた。
「来年のハロウィンパーティーは、何着たい?」
「きょうみたいなふつうのふくー。」
「プリンセスとかキャラクターの服着てるお友だちもいたけど、いいの?」
「うん。」
「そうなんだ。じゃあ、また来年の夏ぐらいになったら、教えてね。」
夏に聞かれても、ハロウィン当日にどうしたいかなんてわからないだろう。ましてや、1年以上先のことなんて。
とはいえ、息子は自分とそっくりなところも、まったく似ていないところもある。
本心なのか、はたまた遠慮しているのか。
親として、どうすればもっと寄り添えるだろう。どこまで踏み込んでよいのだろう。
抱いている方の息子と交互に様子を伺いながら、家へと向かうのだった。
※下記企画へ参加の短編小説です。
息子の幼稚園での出来事に、ドンピシャなお題でした!
あくまで想像、創作小説ですが、実際にあったことを元に書きました。
