母の葬式 母の葬式の話です。笑わせるつもりはなかったんですが、結果そうなりました。
母を見送ってから数年が経った。
母の葬式は身内だけのこぢんまりとしたものだった。斎場も個人経営の小さなところで、先に亡くなった伯母と同じところ。
二度目だったので、支配人さんも私や兄のことを覚えていてくれて、顔見知りになっていた。
葬式の段取りを打ち合わせしている時、母の思い出話になっていた。
「お母さま、お元気な時はどんな方だったんですか?」
遠方から来る兄の到着を待つ間、母の人柄を私の目線だけで語った。
「お母さまのご趣味は?」
「それが、趣味が多いというか、多すぎるというか、家事そっちのけでやってましたね」
「どういったご趣味で?」
「編み物、ケーキ作りに始まってシュークリームとかマドレーヌとか?あとは大音量で音楽を聞く、推理小説を読みまくる、漫画を読みまくる」
「そうなんですね。手作りのケーキに、手編みのセーターに、愛さんはお幸せなお子さんだったんですね」
「とーんでもない!大迷惑ですよ。手編みのセーターって真冬に着せられると編み目から風がびゅーびゅー入って寒いったらありゃしないし、おかげで子供のころはずっと鼻ったれで……。しかも編んでる最中に話しかけようものなら、あーもう!目数数えてたのにわかんなくなっちゃったじゃない!とかって怒り出すし!」
――今さらこんな細かいことを覚えている自分が、ちょっと情けない。
「手作りケーキにしたって、あれですよ?私、誕生日が九月なんですね、だから苺のない季節なんです。兄はいいですよ?三月生まれだから。華やかな苺のケーキを作ってもらえて。でも私の誕生日ときたら、上に飾るものがなくって缶詰のみかんとか桃とかそんなんばっかりで。それに友達を呼ぶんですけど、私の友達じゃなくって、今でいうところの母のママ友とその子供とかで。ちっとも仲良くもない同級生とかが、誕生日プレゼントを握らされて座ってるんですよ?」
「あ、すみませんね……」
「いえいえ、構いませんよ、続けてください」
支配人さんはずっと優しく頷いてくれている。
申し訳ない……。
母の話になると、何かのスイッチが入ったみたいに愚痴をまき散らしてしまう。
ニコニコと笑顔でいられると、大人げなく愚痴った自分が恥ずかしくなってくる。
黙り込んでしまった。
「音楽もお好きだったんでしょう?」
支配人さんから話を切り替えてくれた。
「どんな音楽を聴かれてたんですか?」
どんな音楽?
そうだ、大音量でクラシックを聞いていた。
学校から帰ると私のただいまの声がかき消されるぐらいの音量でモーツァルトのバイオリンだの、ピアノだののクラシックをどでかいオーディオセットで流していた。それから、私が中学生頃には、「THE ALFEE」を夕方ガンガンかけて夕食の準備をしていたな。
あれって一体なんだったんだろ。ストレス発散っていってたけど。
「そうだったんですねー。」
支配人さんがまたまた優しいほほえみで頷く。
あ、私、今、喋ってました?あはは……。
と、そこに兄家族が到着した。
良かった。バトンタッチ……。
これ以上、私の口を動かすまい。
兄は、祭壇の前で黙って手を合わせていた。
叔父夫婦や叔母夫婦も揃い、式が始まろうとしていた。
支配人さんがマイクをそっと準備すると
「皆様、大変お待たせいたしました。
これより、故○○様のご葬儀並びに告別式を執り行います。
式に先立ちまして、皆様にこの曲をお聞きいただきたいと存じます。
故人は生前、よくこの曲を大音量でお聞きになっておられたとか。
本日はその思い出の曲と共に故人との歩みを静かに偲んでいただければ幸いです。」
スッと後ろに下がる。
「え?」
兄が私の顔をちらっと見て
「?」という表情をした。
「それではお聴きください。「星空のディスタンス」」
「ギュイーン‼」(高見沢さんのギターをこするようなピックスクラッチ音)
「ジャジャジャジャーン!」(厚みのあるエレキギターの和音)
「デッデッデッデ、デッデッデッデ……」
爆音すぎた……。
兄がもう一度しっかりと私の顔を覗き込む。
目が見開いていて怖い。
隣で義姉が、小刻みに肩を震わせている……。
しかも、これはフルだ。フルバージョンだ。長い。長すぎる。
そのあとの導師ご入場です、のあいさつも読経も焼香も全部かき消された。
帰り際、母の弟である叔父が言った。
「俺の葬式の時はベンチャーズにしてもらおうかね。」
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