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IVS2026リポート 世界へ挑む京都大学発スタートアップ ~ディープテック起業家が語る、社会実装への挑戦~

 IVS2026とは IVSは国内最大級のスタートアップカンファレンスです。2026年は7月1~3日まで京都で開催され、約13,000人が来場。国内外の起業家や投資家、大企業が集い、世界を見据えた挑戦が語られました。

2026年IVSに、京都大学イノベーションキャピタル株式会社が登壇

 2026年IVSの大きなテーマの一つが、「日本発のディープテックをいかに世界へ届けるか」。初日のメインステージでは、ノーベル化学賞受賞者の北川進教授が、研究成果を産業へとつなぐ可能性について語り、多くの来場者の注目を集めました。その熱気が続くなか、KYOTO STAGEでは京都大学イノベーションキャピタル株式会社(以下、京都iCAP)によるセッション「ディープテックスタートアップのススメ~巨額の資金調達、世界展開前提のビジネスモデル、世界に注目される興奮~」が開催されました。京都iCAPの菅野流飛氏をモデレータに、新進気鋭のスタートアップ経営者、間澤敦氏(ライノフラックス株式会社 代表取締役CEO)と、松本凌氏(iCAP客員起業家)が登壇、世界をめざす2人の挑戦について語り合いました。

世界から注目される「日本のスタートアップ」

菅野 ベンチャーキャピタリストの経験を生かして、本日お集りのような起業家の皆さんを応援したい。そんな思いで、京都大学発スタートアップの設立支援を担当しているモデレータの菅野です。
 タイトルにもあるように、「日本のスタートアップ」は「巨額の資金調達」「世界展開を前提としたビジネスモデル」として世界から今大変注目されています。それらについて探っていきたいと思います。まずはお二人の挑戦をお聞かせください。

ライノフラックス株式会社 間澤敦氏の新エネルギー創出

間澤 三菱商事でスタートアップ投資に携わった後、2023年に京都大学の客員起業家制度を活用して京都へ移り、京都大学発のエネルギースタートアップを創業しました。
 私たちが挑戦するのは、「燃やさないエネルギー」という新しい発電技術です。
 京都大学工学研究科で2016年から研究が進められてきた成果をもとに、2025年に事業化しました。
 京都大学で培われた独自技術により、バイオマスを燃やさず、水溶液中で低温反応させて水素を取り出し発電する新しい仕組みを開発。従来比約3倍の発電効率に加え、高純度水素も回収できるため、未利用資源をエネルギーへ変える循環型技術として期待されています。これまで処分コストがかかっていた未利用バイオマスを、エネルギーと新たな価値へ転換する循環型の技術として、コカ・コーラや住友林業などとの実証も進行中です。
 コカ・コーラとの取り組みでは、飲料製造の過程で発生するコーヒーかすなどの副産物を、私たちの技術によって新たなエネルギー資源へと生まれ変わらせる実証を進めています。こう話すと、順風満帆に聞こえるかもしれませんが、設立当初から本当に数々の試練を乗り越えてきました(笑)。
 京都から生まれた技術で世界のエネルギー課題に挑み、持続可能な社会の実現につなげたいと考えています。

菅野 ライノフラックスの技術は、バイオマスを「価値ある資源」とクリーンなエネルギーに変え、そして「処理コスト」でしかなかった副産物から新たな資源まで回収するというもの。これまでコストをかけて廃棄していたものから、お金とエネルギーを生み出し、循環型社会の実現と脱炭素の両立をめざす、とても大きな社会課題への挑戦なのですね。
 では、今年10月の創業に向けて準備を進めている松本さんの挑戦をお聞かせください。

松本凌氏の描く「生き物を見守る」未来

https://www.kyoto-unicap.co.jp/team/

松本 私は味の素で約9年間、研究開発と事業開発に携わり、社内起業を経験した後、「世界を舞台に挑戦したい」と2025年に京都iCAPへ参画し、京都大学発スタートアップ「LumillioBio(ルミリオバイオ)」の創業準備を進めています。
 私たちがめざすのは、「あらゆる生物が病気にならない社会」の実現です。その鍵となるのが、生き物の状態を24時間365日リアルタイムで可視化するセンサー技術です。
 現在、人は年に一度の健康診断などでしか体の状態を知ることができません。私たちは京都大学工学研究科の「電気化学酵素」技術を活用し、生体内の代謝反応や乳酸などを高精度に測定するセンサーを開発しています。将来的には、感染症の兆候を症状が現れる前に検知できる可能性もあります。
 
 この技術は医療だけでなく、微生物を活用したバイオものづくりにも応用できます。人が担ってきた分析をセンサーが代替することで、生産性を大きく向上させることが期待されています。京都大学発の技術で、生き物を見守る新たな社会インフラを世界へ広げていきたいと考えています。

左:間澤氏 右:松本氏

アカデミア発スタートアップの魅力と難しさ

菅野 京都大学の世界トップレベルの研究成果を軸に、「これまで測れなかった生体情報を測れるようにする技術」の社会実装化、本当に楽しみですね。
 お二人にはぜひ、アカデミア発スタートアップならではの魅力、また難しさについてお聞きしたいです。

間澤 当初は、会社設立を2024年1月に予定し、技術開発や資金調達、創業メンバーとの準備も進めていました。しかし、登記書類を持って法務局へ向かう日、「今はまだ会社をつくるべきではない」という思いが拭えず、設立を見送りました。論文から技術の可能性は理解できるものの、本当に長期的な事業として成立するのか、自分自身に確信が持てなかったからです。
 その後、研究者と改めて目標を設定し、「ここまで技術を成熟させることができたら創業する」と決め、約3カ月かけて一つひとつ課題をクリアしました。技術的な不確実性をできる限り減らし、「これなら社会に届けられる」と確信できた段階で、やっと創業に至ったのです。
 大学発スタートアップでは、優れた研究成果があればすぐに事業化できるわけでは決してありません。本当に社会実装できる技術なのかを見極めることが、最初の、そして最も大きなハードルだったと振り返って思います。

松本 そうですね。優れた技術があるだけでは事業は始まりません。
 私自身も、「人類を大きく変える技術で起業したい」と考え、世界中の研究を探し続けていましたが、本当に人生を懸けて取り組みたいテーマとは何なのか、自分自身と向き合う時間が必要でした。
 父を膵臓がんで亡くした経験から、「病気になる前に気づける社会をつくりたい」という思いに立ち返った矢先に、京都大学の研究者が持つセンサー技術に出会いました。この技術なら実現できると確信する一方で、研究者と事業化の方向性を何度も議論し、会社設立そのものを見送ろうと考えたことまであります。それでも研究者やスタッフとの対話を重ね、お互いに納得できる形を見つけたことで、創業を決意しました。
 アカデミア発スタートアップでは、技術の力だけでなく、研究者と起業家が同じ未来を描けるかどうかが、社会実装への第一歩になると実感しています。

やむことのない世界への挑戦=信念+ワクワク

松本 私が創業をすると決めて、日本の技術を選択した理由は、とてもシンプルです。「世界一をめざせる技術」だと確信したからです。
 世界中のどこを探しても、この分野では京都大学の技術が頂点だと。その自信がなければ、世界を相手に戦うことはできません。技術だけではなく、それを世界で事業として成功させることが私たちの役割だと思っています。
 今は会社設立に向けて、資金調達やお客様との対話を進めるフェーズに入っており、起業を決心した1年半前とはかなり質が異なる“ワクワク”を日々感じています。
 思い描いた通りには進まないことや、想定外の事象をどう切り盛りするか、同じ経験をしている先輩方と、お酒を飲みながら相談できるようになったことが、一番大きな成長だと感じています。

間澤 私たちは、バイオマス資源が世界中に存在するため、この技術は京都から世界へ広げられると創業当初から信じています。日本の工場で実績を積み重ね、その成果をアメリカやドイツ、フランス、インドネシアなど海外へ展開していきたいと考えています。
 もちろん、その道のりは決して平坦ではありません。海外投資家からの資金調達では、「日本への投資はしていない」と門前払いされることも何度もありました。世界市場では、「本当にスケールする事業なのか」「世界で通用する技術なのか」と、極めてシビアな目で評価されます。それでも、その厳しい問いに真正面から向き合い、事業戦略を磨き続けてきました。
 昨年にはKPMG主催の国際会議で発表する機会をいただくなど、京都大学発の技術への関心は着実に高まっています。断られても挑戦をやめない。京都で生まれた技術を世界のスタンダードへ育てることが、私たちの目標です。

松本 今日のお話で少しでも心が動いた方がいれば、ぜひスタートアップに挑戦していただきたいと思います。私は京都という街が、日本で一番スタートアップに挑戦しやすい場所だと感じています。

間澤 本当に、やればやるほど難しさもおもしろさも実感します。それでも、世界を変える可能性を持つ技術に挑戦できる環境があり、今この時代だからこそ実現できることがあります。ぜひ一歩踏み出して、一緒に挑戦しましょう。
 
菅野 IVS2026のステージで語っていただいたお二人の言葉からは、京都大学が生み出す世界水準の研究成果を、社会実装によって世界へ届けようとする強い意志が伝わってきました。
 ディープテックスタートアップとは、優れた技術と起業家の情熱が重なり、社会課題の解決へ挑む営みそのものです。京都から世界へ――その挑戦は、これからも続いていきます。

左から菅野氏、間澤氏、松本氏