動画あり:「京大知の森」開催リポート~AIがある時代に大学で何を学ぶ? 京大で語られた、正解なき時代の「知性」と「衝動」
京都大学成長戦略本部で実施している公開講座「京大知の森」。
京大の「知」を広く発信する公開講座として、大学の知や教養に触れたい方、これから学びたい・学び直したい方にもご好評いただいています。
今回、2026年4月19日に開催された知の森のテーマは、「AI時代の『知性』と『衝動』 -京都大学でどう学ぶか」。本リポートでは、当日のハイライトをアーカイブ動画(リンクは本文中)と合わせご紹介します。
なお、今回は内容を図解する「グラフィックレコーディング」のライブ制作も実施しました(制作:肥後祐亮氏)。画像で気になるキーワードがあれば、ぜひ動画で「知の森」へさらに分け入ってみてください!
0.なぜ「知性」と「衝動」なのか?
冒頭、司会からは今回のテーマの主旨を簡単に紹介。
近年、生成AIをはじめとする技術が急速に発展し、私たちの強力なパートナーとして、瞬時に最短ルートの答えが手に入る時代に。コスパ・タイパのような効率志向や、他者の正解をなぞることが簡単になった一方で、そこから大きく外れた選択肢を選ぶには、ある種の知的体力が求められるようにもなっています。
AIが答えを出す時代だからこそ、人間ならではの主体性が改めて問い直されています。あえて答えのない問いに時間をかけたり、一見役に立たないことに情熱を注いだり。そんな非効率にもみえるプロセスに、不確実な時代を生き抜くヒントがあるのではないか? そんな問題提起から講座は始まりました。
1.学びには「主体性」も「モチベーション」もいらない?(谷川嘉浩先生)
最初の登壇者は、京大卒業生であり、京都市立芸術大学 講師の谷川嘉浩先生。若手哲学者として、『増補改訂版 スマホ時代の哲学』や『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』などの著作や、評論や企業との協働などでもご活躍されています。
冒頭、ミュージシャンのCreepy NutsのDJ松永氏による生成AIと創作のエピソードから、本題である「衝動」へ。アニメ化もされた魚豊氏の作品『チ。―地球の運動について―』も引用しながら、自覚的な意志に先立つ深い欲望としての「衝動」を、自己の変化の兆しとして解説します。
ここでの「衝動」とは、「衝動買い」のような一時の感情的な欲求とも、抽象的な「モチベーション(内発的動機づけ)」や「やる気」「偏愛」などとも異なります。周りから見れば「何でそんなことを?」とも見えるようなことを本人はものすごく真剣にやっているような、自身の固有性に根差した意欲だと説明します。

「私自身がこれを欲する」という欲望(衝動)に耳を傾けることが大切と語る谷川先生。
・主体性を忘れよう ―心の内を見つめるな
「やりたいこと」を探す時、人は自分の内側を見つめてしまいますが、心の内を開けたところでたいしたものは入っていません。「将来の夢」にせよ、私たちは知っている範囲、想像できる範囲でしか欲望できないからです。また、不変なものを想定しがちです。
世の中で推奨される「やりたいこと」「自分探し」の罠を指摘する谷川先生。大切なのは、外部環境とのインタラクション(相互作用)の中に身を置くこと。行動し、環境が変われば「私」も「やりたいこと」も変容してゆく。その中で生じる小さな衝動を細かく言語化する。その動的なプロセスに、一元的な指標で測れない衝動の重要性を語りました。

講演の内容は、アーカイブ動画で全編視聴可能です。
🎥 モヤモヤも変化も受け入れ楽しむ。谷川先生の講演動画本編はこちらから👇
2.好奇心に突き動かされた問い、その先にある知性(塩瀬隆之先生)
続いて、総合博物館 教授の塩瀬隆之先生の講演。システム工学やコミュニケーションデザイン等を専門とされ、『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』などの著作でも知られます。
講演では、塩瀬先生が携わった大阪・関西万博日本館のプロジェクトや京大のノーベル賞受賞者の研究展示を例に、AIとの付き合い方や、好奇心と卓越した研究の源泉を紹介しました。

転じてコミュニケーションデザイン研究の原点に。
ロボットとコミュニケーションについての研究遍歴のお話から、話題は生成AIとの付き合い方へ。「AIが人間の仕事を奪うか?」という問いには、馬と飛脚を例に、AIをどう使いこなすかはあくまで人間と社会に委ねられていると指摘。また、「AIが間違うというより信頼度の異なる情報源が混在している状態」であり、まずは自分の得意なことを調べないと信頼度は測れないとして、足場となる知識や探究心の重要性を語りました。
・好奇心の隣にある「まだわからないこと」
また、北川進先生のノーベル賞受賞記念展示やiPS細胞研究所の展示プロジェクト等を紹介。ノーベル化学賞受賞者・福井謙一博士の生誕100周年の展示では、100年前の元素周期表に当時存在が予想された未知の元素が手書きされていたことに触れ、「わかっていること(知識)」のすぐ隣に「まだわからないこと(好奇心)」があり、そのわからないことに対してどう向き合うかという姿勢とプロセスが知性そのものと紹介しました。
・不可能を突破する知を育む「場」と「自由の学風」
不可能とされた壁を超える知が生まれた背景には、個人の資質だけでなく、その探究を育む「場」があると指摘。京都大学創立125周年記念展示を例に、こうした知を育む「自由の学風」について、軽快なトーンで解説しました。
「なぜそんなことをし続けているの?」と言われそうな時でも、他者の評価や解釈から自由であること(でも対話はする!)が大切だと語ります。「専門」も「異分野交流」も誰かに言われてやるのではなく、自ら興味を持ったことを突き詰めた結果起きること。隣の研究者が何をやっているかはわからなくとも、互いの「のめり込み」をリスペクトする。そんな環境が、深い探究を支えていると締め括りました。

🎥 ユーモアあふれる塩瀬先生の講演動画はこちらから👇
3.講師対談:ある意味、ここからが本編!
後半は、両先生の対談と、スマホからリアルタイムで寄せられた会場からの質問に答えるQ&Aセッション。
・Q: みんな答えを急ぐ問いに向き合いすぎちゃう? 急ぐと何がうれしい? 何がダメ?
・Q: 先生方なりのおもしろい「独学」のやり方は?
・Q: 人生のレールを外れる/戻る衝動の見つけ方は?
…などなど。講演中は自席で描いていたグラフィッカーの肥後さんも、壇上でライブ描画を披露しました。
・みんな、答えを急ぐ問いに向き合い過ぎちゃう?
途中、谷川先生が言及したのは哲学者の鶴見俊輔氏の「親問題」と「子問題」の概念。人生における根源的な問い(親問題)と、その過程で生じる具体的な課題(子問題)があり、子問題、すなわち明確に設定でき短期的に解決可能な課題の方が優先される現状を指摘。
塩瀬先生も、教育現場の同様の課題や、教える側や評価する側の都合から、短期的な課題解決を探究や研究と勘違いさせ、「大きな問い」に向き合う機会を奪っている懸念に触れました。
変化してこその成長だが、大人や成長を促す側が、「将来のため」「役に立つか」など、実は自分の不安を相手に投影していないか、というお二人の指摘が印象的でした。

卒業生の参加者からは、「研究室の飲み会の二次会のような空気感で心地よく、今の30代らしい軽やかさの谷川先生と、それを高いレベルで体現する塩瀬先生が、年代差を超えて尊重と共感をもって対等に語り合う姿は企業ではなかなかない光景。隣にいる視点の違う相手に気軽に問え、語り合えた、京大で当たり前に過ごした時間の貴重さを再認識した」という感想も届きました。


🎥 講師対談・質疑応答の全編動画はこちら👇
4.おわりに
AI時代。最短ルートで「正解」にたどり着けるからこそ、あえて自分の好奇心や変化を受け入れ、未知の大きな問いに向き合うプロセスに価値が生まれます。
今回のテーマは、どちらかと言えば若い世代向けに企画されたものでした。中高生や親子での参加も多くありましたが、蓋を開けてみると、次世代の育成に関わる大人の方々からも大きな反響がありました。
参加者アンケートでも「現行のキャリア教育への違和感がよく言語化されていた」「親子で共通の話題ができた」「高校生の子にとっても、今の学校教育とは異なる新たな視点を持つきっかけになった」といった声が寄せられ、世代を超えた刺激の場となりました。
次回の京大知の森は2026年12月頃に開催予定です。ぜひお楽しみに!
🎥 KyotoU Channelの京大知の森特集ページはこちら👇
💡追記:共に「知の森」を広げませんか?
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