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成長戦略本部のヒトとシゴト #1

#1 イノベーションプロデューサー 藤田 佳澄|FUJITA Kasumi

伝える仕事から、つなぐ仕事へ。
研究と社会を結びイノベーションを動かす。

理系研究の経験と、メディア業界で培ったコミュニケーション力。
その2つを武器に、研究と社会をつなぐイノベーションプロデューサー(IP)へと転身を果たした藤田佳澄さん。
キャリアの歩みや転職のきっかけは?
現在の仕事のやりがいや難しさは?
そして、将来めざす姿とは?
藤田さんの働く姿を通して、IPという仕事に迫ります。

Q.前職ではどのようなお仕事をされていたのですか?

 新卒で放送局に入職し、放送管理という放送をサポートする職種で、約5年間在籍しました。大阪や神戸を中心に、イベント運営や番組の編成、広報活動など幅広い業務を担当しました。
 公開収録イベントの会場運営をはじめ、番組の効果的な放送時間帯を検討する編成業務、地元の小中学生による局見学対応や、阪神・淡路大震災から30年という節目に合わせた広報活動など、多彩なプロジェクトに携わりました。
 実は、大学院の修士課程ではバイオメディカルエンジニアリング(生体医工学)を専攻しており、医療機器の開発や治療条件に関する研究を行っていたんです。細胞培養やレーザー照射実験、動物実験、さらにはAIを活用した医療画像の解析や細胞検出プログラムの構築などに打ち込んでいました。しかし、当時は研究というのはとても孤独な仕事という印象がありました。それよりも、「多くの人と関わりながらチームで成果を出す仕事がしたい」と思うようになり、その思いどおり、前職で多くの人と協力しながら仕事に取り組むことができました

Q.転職を考えたきっかけや、京都大学を選んだ理由を教えてください。

 転職を決意した一番のきっかけは、全国転勤のある働き方を見直し、生活の拠点を定めてワークライフバランスを向上させたいと考えたことです。関東出身で大学院まで関東で過ごしましたが、最初の配属で関西に来て生活する中で、関西の暮らしやすさや文化に惹かれるようになりました。だから、関西に根を張って働きたいな、と。
 仕事に対する“時間軸”の意識の変化も、転職を決めた理由でした。前職での業務は明日・来週・1カ月先といった比較的短いタイムスパンで動くものが大半でした。それに対して、「もっと長い時間をかけて、じっくりと社会の役に立つ技術や未来の基盤になるプロジェクトに関わりたい」という思いが膨らんでいきました。
 そのような中で自分の原点を振り返った時、大学で所属していた研究室の教授が産学連携や医工連携に精力的に取り組まれていたことを思い出しました。そうした連携は意義のあることだと感じていましたし、自分は研究そのものはできなくても、「研究者をサポートし、社会へつなぐ側としてなら貢献できるのではないか」と考えました。調べていくうちに京都大学が産学連携やイノベーション創出に力を入れていることを知り、ここでなら自分の「理系研究のバックグラウンド」と「前職で培った広報やコミュニケーション能力」の両方を存分に活かせるのではないかと確信したのです。

Q.現在はどのようなお仕事をされているのでしょうか?

 京都大学成長戦略本部統括事業部イノベーション領域にて、IPとして勤務しています。IPの主な役割は、京都大学が持つ高度な研究成果(シーズ)と企業側のニーズを結びつけ、共同研究や包括連携を組成してオープンイノベーションを創出し、社会実装につなげることです。
 現在は主に、企業から資金や研究テーマの提示を受けて行う研究公募の周知活動、企業との包括連携協定や共同研究の組成に向けた立ち上げ支援などを担当しています。企業と連携するチャンスがあることを学内の研究者に知っていただき、関心や応募を引き出すため、地道なアプローチ活動を行っています。
 入職してから半年ということもあり、業務の全体像を把握するため、専攻分野にとらわれず幅広いジャンルの案件に関わらせてもらっています。京都大学では、18の大学院をはじめ、iPS細胞研究所、医生物学研究所、化学研究所、防災研究所など多くの附置研究所を擁し、人文科学、社会科学、自然科学の幅広い領域で研究活動が行われています。それぞれの研究領域を支援するために、職場には、多様なバックグラウンドを持つプロフェッショナルが集まっています。民間企業出身のベテランの方々が多く、多様な企業文化や経営視点、業界知識に触れることができます。フラットなカルチャーを掲げる、風通しの良い環境でもあります。「こういう新しい試みをやってみたい」と提案すると、「まずやってみたら」と背中を押してくれる柔軟性があり、毎日新しい学びを得ています。

Q.IPという仕事における「難しさ」や「大変さ」はどんなところですか?

 最も難しさを感じるのは、大学(研究者)と企業における文化や視点のギャップを埋めることです。研究者は「その技術がいかに学術的にすばらしく革新的か」という点に重きを置きます。一方で、企業側は「それが自社のビジネスにどうつながるのか」「継続性や収益性はあるのか」「数年後にどのような社会的価値や成果を生むのか」という経営的かつ実践的な視点を持っています。だから、「この研究はすごい」とPRするだけでは企業には響きません。先生方の研究内容を正確に理解したうえで、企業の経営課題に刺さるような言葉に翻訳し、双方にとってのメリットや将来の価値を提示する“橋渡し役”に徹することが重要です。
 学内の研究者へのアプローチ方法も課題です。多忙を極める先生方へ公募情報に関するメールを送るだけでは見落とされてしまいますし、「企業と組む必要はない」「自分のチームだけで研究を進めればいい」と考えておられる先生方も少なくありません。そのため、イベントや勉強会などを開催し、まずは先生方とのタッチポイント(接点)を継続的につくり出す工夫をしています。ほかにも、公募情報が目に留まるように、学内の他部署と連携して周知をしてもらったり、連携に意欲的な先生とのつながりを活かしたりしています。
 先生一人ひとりが求めているものが何なのか、資金なのか、企業の実証フィールドなのか、人脈なのか、それらを見極めながら丁寧に提案を行うよう心がけています。
 そういった難しさや課題はありますが、先生に「IPが入ってくれたから共同研究がうまく進んだ」と言っていただけた時は、大いにやりがいを感じます。

Q.今後、新しくチャレンジしていきたいことは何ですか?

 短期的な取り組みとしては、学内の情報集約・整理と外部発信の強化を進めていきます。学内の研究公募情報やイノベーション領域の取り組みを一元化し、先生方が簡単にアクセスできる仕組みをつくり、動画コンテンツの制作や体験型イベントの企画などを通じて、私たちの活動を積極的に発信していきたいと思っています。
 長期的には、先輩方の交渉力や案件組成のノウハウをしっかりと吸収し、自分自身の手でゼロから新しい大型の共同研究プロジェクトをプロデュースしたい。そして、研究者と企業の双方にとって最適な連携を生み出す戦略を描き出し、どちらからも信頼されるIPになることをめざします。
 そのためにも、学内の研究者の専門分野を幅広くリサーチすると同時に、社会や産業界の最新動向を勉強し、常に「知のストック」を蓄積していくことが今の課題です。

Q. 将来的にどのような姿をめざしていますか?

 研究者の方々にとって、何かあった時に、気軽に一番に相談したくなるIP。それが将来なりたい姿です。 忙しい先生方に、正式な面談を設定していただくのはハードルが高い場合もあります。だからこそ、キャンパス内ですれ違った時、あるいはちょっとした雑談の中で、「そういえば藤田さん、研究をこんな方向に進めたいのだけれど、企業との連携など、何かアイデアないかな」とフランクに声をかけてもらえるような、身近で頼もしい存在でありたいと思っています。
 この人に話せば、自分の研究の価値をわかってくれて、良い方向へ導いてくれるかもしれないと感じていただけるよう信頼関係を築き、京都大学全体の共同研究の件数や質の底上げに貢献していきたいです。

Q.転職を検討している方や、IPの仕事に興味があるけれど迷っている、という方へメッセージをお願いします。

 イノベーション領域は、やりたいことに挑戦できる場所です。提案やアイデアに対しても「失敗を恐れずにやってみよう」と後押ししてくれ、前向きに改善へ取り組むことができます。いろいろな人たちと関わりながら、社会にインパクトを与える仕事をしたい、そう考えている方には最適な職場ではないでしょうか。研究者自身も気づいていないような潜在的価値を、外部の視点を入れることで引き出し、社会実装へつなげていくプロセスは大きなやりがいに満ちています。
 「大学の産学連携の仕事に興味はあるけれど、自分に務まるだろうか」と迷われている方がいらっしゃれば、ぜひ一度、京都大学が主催する公開講座やシンポジウムなどに足を運んでみてください。私自身も応募前に大学のイベントに参加し、実際の雰囲気や働いている方々の活気を肌で感じたことが、一歩踏み出すきっかけになりました。キャンパスの空気を体感していただくことで、働くイメージが明確になるはずです。皆様と一緒に挑戦できる日を楽しみにしています。

(取材日:2026年7月)

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