【中編】BIO International Convention 2025-京都大学ブースのkey visual誕生物語② デザイナー田村育歩氏に聞く
キービジュアルのデザインを依頼することになった田村育歩(たむら いくほ)は、グラフィックデザインや3DCG、映像など領域横断的な制作を得意とした、デザイナーである。
もともとサイエンス分野への興味があり、BSフジの「ガリレオX」の愛聴者でもある田村は、今回の京都大学からの依頼を、ストレートに「うれしかった」と振り返る。
「自分のなかで、ぼんやりとですがサイエンスとの相性の良さみたいなものを感じていましたので」
京都大学に対しては、研究のレベルが高い大学だという程度で、あまり詳しいことは知らなかったというが、SNS等に流れる情報をみて、「ちょっと変わったところもある」という印象を持っていたという。
イメージのすり合わせを終えた田村は、キービジュアルの鍵となるファクターの整理・検討を早速開始した。
colorful or monotone?
marginable or cram‐full?
concrete or abstract?
「まず、明るい開かれたコミュニケーションを意識して、初見でポジティブな印象を与えられるような。そして、隔たりを感じさせないカラーリングをめざしました。一方で、ハイカラな印象 を与えないよう、そして伝統を重んじる様相を含めたく。京都大学のブランドカラーのネイビーが基調になるような色彩設計にし、色数については絞りました」
見る者に色数の少なさを感じさせないデザインだが、その点に関して田村は続ける。
「ハーフトーンで中間色を表現したり、幾何学を基調とした多様なパターンを使ったりしているので、視覚的には多階層と言いますか、情報量が上乗せされているので、絞っているように見えないのかもしれません」
色使いの方針が固まると、描くオブジェクト、つまりどのような「形」を描くか、という段階へと進んだ。
“いきもの”に象徴されるようなモチーフや「ライフサイエンス」を想起させる幾何学的な抽象を生み出した時、そこに「自由さ」が足りない、と気づいたという。ベクターアートで構成されると、どうしても形が整いすぎるのである。
そこで田村は、手描きのフリーな「線」を加えた。
「人の手で引かれた線が持つ自然な揺らぎや不均一さは、画面全体に柔らかさや人間味を加え、 より自由で開かれた印象を生み出す。結果として、整然とした構成の中に、意図的に“外し”を加 えることで、視覚体験に深みと温もりが加わったな、と」
「これだ!」と感じた瞬間であったと、田村は語った。

構造設計については、ビジュアルをさまざまに運用していく際に支障にならぬよう、各要素が「個」として成立するような設計を前提としたという。
つまり、厳格な運用ルールやレイアウトの規定を設けず、各要素が自由に再構成された場合に全体の印象が大きく損なわれることなく、むしろ「個の自由さ」が全体のビジュアルと調和するように、との配慮であるという。


そして話は「博士」を想起させるキャラクターの部分に及んだ。
もともと、キャラクターを設定するという前提ではなかったというが、京都大学が持つ豊かな知の土壌やその上に育まれる多様な探究をひと目で表す方法に、田村は思いを巡らせた。
「ちゃんと機能するアイコンといいますか、もっと自立できるアイコン、それもビジュアルの中に入れても馴染むものは・・・? というふうに発想していきました」
さらに、来場者へのエンターテインメント性も考慮され、キャラクター探し的なニュアンスも込め、キャラクターは最終的に、大・小の2体で構成されることになった。
見方によっては、ベテラン感を醸し出す穏やかな学者と、好奇心に満ちた若手研究者のようにも映るが、「そこの想像もご自由に。キャラクターへの愛着や親密性が、見る人それぞれの中で自然に醸成されてくれれば」と田村。自由なそれらキャラクターにはまだ名前もない。

今回のブースは国際的な場に設置されるものであり、ビジュアルにも「グローバル性」が求められる。「造形」に対する文化風土や民族性といった、印象や解釈の違いが存在するのではないか、と質問をぶつけた。
すかさず田村から、「そうなんです、だから、“ドット”と“丸”なんです!」と返ってきた。
ネガティブに見えてしまう可能性は避けたいと考えていた田村が、どんな人にもポジティブな印象で迎えられる造形を考えた時に出てきた答えが“ドット”と“丸”だったのだ。
あらためて見ると、その“丸”が、国と国の違いを超えて、明るさに満ちた未来を確かに予感させる。

制作を終えての思いを最後にまとめていただいた。
「京都大学って、"変わっている"という印象が僕にも他の人にもあって、でも、それが多面的または多義的に捉えられ、うまく伝わっていないようにも感じていたんです。その“変わった印象”や“自由さ”っていうのを京都大学の“凄さ”として感じてもらえるよう、視覚的なフックといいますか、そこにコネクトできるようなビジュアル をすごく意識したんです。ですから、見た人が何かを探る、何かを見つける、そういう“探求の姿勢”のようなものにつながって、その行為が京都大学との接点を育む時間にはなってほしいな、と願っています」
見る人の解釈に委ねる、見る人の感性をくすぐるビジュアルは、BIO International Convention 2025の京都大学ブースでついに初披露される。

田村育歩 / TAMURA Ikuho
グラフィックデザイナー / ビジュアルデザイナー / 映像作家
愛媛県出身。東京都在住。尾道市立大学芸術文化学部美術学科を卒業。広告、宣伝美術、音楽アートワーク、ミュージックビデオなどのクライアントワーク、コミッションワークを中心に活動。 新しい情緒的価値の創造をめざし、ビジュアル制作からさまざまな媒体への展開も視野に入れた、領域横断的な視覚表現を追求している。昨今はライフワークの一環として、3Dプリンターを活用したフィギュア制作や、VJパフォーマンス等にも注力している。
Webサイト : https://tamura-ikuho.com
Instagram : https://www.instagram.com/dondon_sodatsuyo

