30階以上専用のエレベーターの前で、少しだけ自分の場所が分からなくなった
都内の高層マンションに配達へ行った。
エントランスは、美術館みたいな匂いがした。
床は静かで、足音もあまり響かなかった。
配達先は30階以上だった。
エレベーターホールに行くと、ボタンが左右に分かれていた。
片方には、
30階以上専用
と書かれていた。
最初は、意味が分からなかった。
でも少し見ていると、住人らしき人たちは自然にそっちへ乗っていった。
迷う感じもなかった。
確認する感じもなかった。
身体が、もう慣れている動きだった。
僕もそのエレベーターに乗った。
別に、止められたわけじゃない。
何かを言われたわけでもない。
むしろ今回は、僕もそっちへ行く側だった。
ただ、低層階とは最初から動線が分かれていた。
それだけのことだった。
それだけのことなのに、ボタンの前で一瞬だけ手が止まった。
東京では、こういう線にたまに出会う。
大きく書かれているわけじゃない。
誰かが説明するわけでもない。
でも、毎日そこを通っている人たちは、もう自然に身体で分かっている。
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