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尺貫法とバリアフリー

日本の住宅設計において、今なお根強く息づいているのが「尺貫法(しゃっかんほう)」である。
1ユニットを「1尺(約30.3cm)」とし、その3倍である「1間(約182cm)」を基本単位(モジュール)とするこの体系は、伝統的な木造建築の美しさや合理性を支えてきた。
しかし、現代の「バリアフリー」という視点からこの尺貫法を見直してみると、そこには意外な盲点と、克服すべき課題が浮かび上がってくる。
今回は、日本の住まいの寸法体系が、車椅子利用や介助にどのような影響を与えるのかを考えていく。

「910モジュール」がもたらす有効幅の制約

日本の多くの住宅は、柱の中心から中心までの距離を「3尺(91cm)」とする「910モジュール」で設計されている。
この「91cm」という数字だけを見ると、一見、人が通るには十分な広さに思えるかもしれない。
しかし、ここにバリアフリーの落とし穴がある。

・柱と壁の厚み: 91cmはあくまで「柱の中心」の距離である。ここから柱の太さ(約10.5〜12cm)と、壁を作るための石膏ボードや仕上げ材の厚みが差し引かれる。
・実際の有効幅: その結果、廊下や入り口の「実際に通れる幅(有効幅)」は、約75cm〜78cm程度まで狭まってしまう。

一般的な自走式車椅子の全幅は約62cm〜67cmである。
有効幅が75cm程度では、両脇にわずか数センチの余裕しかなく、操作に慣れていない方や介助者が付き添う場合には、非常に窮屈で、壁に手をぶつけるなどの危険が伴う。

「尺」の文化とバリアフリーのジレンマ

日本の建具(ドアや引き戸)もまた、尺貫法に基づいた規格サイズで作られることが一般的である。
・入り口の狭さ: 標準的な片開きドアを910モジュールの壁に取り付けると、ドア枠や扉自体の厚みによって、有効開口幅は70cmを切ることも珍しくない。これでは、車椅子での通過は極めて困難になる。
・方向転換の難しさ: 尺貫法に基づいた「1坪(2畳)」の洗面所やトイレは、歩行者には機能的だが、車椅子がその場で回転するには「3尺(91cm)」の制約が厳しく、設計に工夫が求められる。

尺貫法を超えて:これからの住まいづくり

バリアフリーを真に実現するためには、伝統的な寸法体系を尊重しつつも、必要に応じて「メーターモジュール(1ユニットを100cmとする体系)」や、部分的な「芯ずらし(柱の位置をずらす手法)」を取り入れることが重要である。

・有効幅85cmの確保: 車椅子でのスムーズな通行と、横に介助者が立つゆとりを考えるなら、廊下の有効幅は85cm以上(モジュールで言えば100cm以上)が理想的である。
・引き戸への置換: 開き戸から引き戸に変更することで、尺貫法の制約下でも開口幅を最大限に確保しやすくなる。
・大壁(おおかべ)構造の検討: 柱を壁の中に隠す大壁構造では、壁の厚みがダイレクトに有効幅に影響するため、設計段階で「実質的に何センチ残るか」をシビアに計算する必要がある。

寸法に「身体」を合わせない設計

日本の尺貫法は、日本の気候風土や、日本人の体格に合わせて洗練されてきた素晴らしい文化でもある。
しかし、車椅子という「道具」と共に生きる、あるいは「介助」という動作が加わる現代においては、その寸法に無理に身体を合わせるのではなく、道具や動作に合わせて空間を拡張する視点が欠かせない。
伝統の知恵と現代のアクセシビリティ。
この二つを融合させることで、誰もが「窮屈さ」を感じることなく、伸びやかに暮らせる住まいが実現を目指していく段階にある。

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