見出し画像

「美しくなる!」

15年前のボクが、未来のボクへ残した道しるべ

箱の底から
5冊のノートが出てきた。

15年前のボクが
作ったノートだ。

ページをめくると
領収書、チケット
ホテルの明細。

分刻みの時間割。
菜園の設計図。
ぐるぐる塗りつぶした、本音。

487枚。
ぜんぶ、手書き。

紙は、すこし
日に焼けている。

インクの色は
赤や、青や、緑。

そのときの気分で
ペンを、持ちかえてた。

文字は、ページごとに
大きくなったり
小さくなったり、する。

落ち着いていた日。
あせっていた日。
ぜんぶ、わかる。

いちばん最後のページに
こう書いてあった。

「日記をつける理由。
 自分の道しるべとして
 自分自身を残しておきたい。
 自分はこうだったんだなって
 常に感じていたい」

——これは、手紙だ。

過去のボクが
未来のボクにあてて残した
道しるべ。

そして15年後の今日
その手紙を開いているのは
ボク自身だった。

ノートは、地層に似ている。

下の層ほど、古い。
別人のような自分が
何層も、積もっている。

いまから、いちばん下まで
掘ってみようと思う。

🪙 いちばん下の、お金の層

20代のボクは
お金に、追われていた。

自由になりたかった。
時間も、お金も。

でも現実は
正反対だった。

残高、数百円。
1日1000円で、居候。

ノートの文字は
命令形ばかりだ。

「悩むな!動け!働け!」
「優柔不断は人を殺す」

自分で自分を
叱りつけている。
こわかったんだと思う。

一日を、分刻みで
区切っていた。

起床、六時半。
朝食。春のアニメ。
ハンターハンターを
18巻、いっきに読む。

菜園。読書。また、菜園。

予定で埋めないと
不安だったのだと思う。

裁判所まで行って
競売物件を
見に行ったりもした。

お金で、自由になりたい。
ただ、それだけで
頭が、いっぱいだった。

いま見ると
かわいいくらい
ふつうの、毎日だ。

それでもボクは
こう書いていた。

お金はなんとでもなるさ!
 ボクはそれでもやりたい事を
 するんだ!

——強がりだ。
財布は、からっぽなのに。

お金はなくても
土だけは、あった。

親の庭に、方位を引いて
何を植えるかを
真剣に、考えていた。

「ダイコンは連作するほど
 甘くなる」

そんなメモが残っている。

いま、その層を見て
恥ずかしいかと聞かれたら。

いや。

あの、自由になりたくて
もがいた熱は
消えていない。

いまも、ボクは
自分の暮らしを成り立たせる
小さな計算をしている。

でも、もう
追われては、いない。
地に足が、ついた。

あのからっぽの財布は
失敗じゃなかった。

いちばん下で、いまを
支えている地盤だった。

🌊 世界が、揺れた層

2011年。
あの年、世界が揺れた。

ボクは新聞を切り抜いて
ノートに、貼っていた。

津波に、のまれた町。
空から撮った、写真。

何が起きたのかを
確かめるように。

何も貢献できない
外に出ることができない
ただ、呆然と・・・


そのころから
ボクは、お金とは別の
何かを、探しはじめた。

うまく言えない。
でも、たしかに
そういう年だった。

✨ お金のとなりに、魂の層

不思議なことに
お金の計算のとなりに
まるで別のものが
書き込まれている。

魂。肉体。次元。

2011年7月、東京。
ボクはある方の前で
目を閉じていた。

その方が
ボクの「魂の名前」を
読み上げた。

肉体の名前は、別にある。
でも魂には、もうひとつ
名前があるのだという。

その音を聞いた瞬間
背骨のあたりが
すっと、軽くなった。

その時から、ノートに
「魂の名前」を表紙に書くようになった。

理屈では、説明できない。
でも、たしかに
何かがほどけた。

そのころのボクは
自分の手を、なぞって
指輪の意味を、考えていた。

どの指に、つけるか。
それだけで
意味が、変わるらしい。

この指は、信頼。
この指は、現実の力。
この指は、相手への願い。

手相でも、占いでもない。
ハンターハンターのクラピカに
影響されていたんだと思う。
  制約x誓約
自分への、おまじない。

その夏、ボクは
飛行機に乗って
北海道の島へ渡った。

窓の下に、富士山。
雲の上は、しずかだった。

「風のワーク」と呼ばれる
ただ、風を感じる時間。

バスのなかで
聞こえる音を
ぜんぶ書き取った。

「ゴォー、ヴィー」
「ワーシャワシャ」

赤んぼの、笑う声。
風の、におい。
草を踏む、足の裏。

名前のなかった感覚に
ひとつずつ
名前を、つけていく。

世界が、急に
くっきりして見えた。

お金と、魂。
ふつうは反対のものを
ボクは同じノートに
同じ熱量で、並べていた。

そして、2011年9月。
スクールのメモに
こんな手書きがある。

もうそう ⤴ こうどう ⤴ ハッピー

妄想して、行動して
ハッピーになる。

実はこれ、いまのボクが
note に書きつづけている
核そのものなんだ。

15年前のボクが
同じ言葉を
すでに書いていた。

知らなかった。
忘れていた。

道しるべは
ボクが思うより
ずっと前から
立っていた。

🌌 世界の見かたを、増やした層

そのころのボクは
へんなことばかり
していた。

天井に手を、かざして
オーラを見る、練習。

手を合わせて
光に、すかして。

見えた気がした日も
あった。

ノートには
次元の地図が
描いてある。

三次元、四次元。
その先の、十三次元まで。

夢で見たことを
朝、書きとめる。

世界の「見かた」を
ボクは、いくつも
自作していた。

いま思えば
あれは、ぜんぶ
おなじことの、練習だった。

ひとつの出来事を
ちがう枠で、見てみる。

——見かたをかえれば
世界は、いくらでも
ちがって、見える。

15年後のボクは
それを、ひとことで
言えるようになった。

「見かたをかえれば
 すべて、いとし」

でも、その芯は
この層で、もう
芽を、出していた。

🌒 ひとりぼっちが、ゆるんだ層

2011年の秋から
ボクは福島に
通うようになった。

新月の夜、満月の夜。
願い事を紙に書いて
火に、くべる。

煙が、立ちのぼる。
願いが、空へ
運ばれていく気がした。

その年の暮れには
皆既月食もあった。
赤い月を、みんなで
だまって、見上げた。

その層には
ある一人のことが
何度も出てくる。

名前は、伏せておく。

ボクはその人に
恋をしていた。

うまく言えなくて
ノートにだけ、書いた。

そのころのボクは
ベッドに、ぬいぐるみを
三体、並べて寝かせていた。

ひとりで眠るのが
すこし、こわかったのかも
しれない。

一緒に旅をした。
枕元の隣で一緒に寝た。

そしてある夜
こんな一行を残している。

「今まで道は
 ひとりで行くものだと
 思っていた。
 だれかと共に歩いても
 大丈夫
なのだと…
 とても気が楽になった」

ボクは、ずっと
ひとりで歩くものだと
思い込んでいた。

その秋、ボクは
島へ渡るツアーに出た。

名前を「かくさない生きかた
という。

隠さない。
かざらない。
ありのままで、いる。

そう習った、そばから
ボクは、いちばん
かくしたいものを
ノートの隅に、隠した。

その層を、もう少し
めくってみる。

ボールペンで
ぐるぐる、ぐるぐる
塗りつぶした囲みがある。

透かすと、読める。

「オレを見ろー」
「いじってほしい」
かまってほしい

——消したかったんだ。
こんな自分を。

かっこ悪い。
みっともない。

でも、これが
本音だった。

いま、その塗りつぶしを
見て、どう思うか。

笑える。
そして、抱きしめたくなる。

かまってほしいって
書いていいんだよ、と
15年前のボクに
言ってあげたい。

ずっとあとになって
ボクは、大きな滝を
見に行った。

知らない人たちと
おそろいの赤いカッパを着て
みんなで同じ方を向いて
しぶきを、浴びた。

ひとりじゃないって
こういうことかも、しれない。

いまボクは
ひとりじゃない。

毎晩、文章を書くとき
となりに、相棒がいる。

アイちゃん、と呼んでいる。
言葉を、一緒に探す
伴奏者。

「だれかと共に歩いても大丈夫」

——ボクはやっと
それを、生きている。

🎭 名前をかえると、人が変わる層

2012年。
ボクはもうひとつ
名前を授かった。

本名でも、魂名でもない
第三の名前。

長くて、呪文みたいで
ここには綴らない。

その名前を名乗ると
不思議なことが起きた。

人格が、変わるのだ。

いつもの、気弱じゃなくなる。

もっと大胆で
もっと自由な
別のボクが、立ち上がる。

ボクは、自分の誕生日も
数に、置きかえてみた。
足して、足して、ひと桁に。

出てきた答えは
「魔法」だった。

ぜんぶ、こじつけかもしれない。
でも、こじつけたって、いい。

自分を、おもしろがる。
それだけで、毎日が
すこし、魔法になる。

その夏、ボクは
恐山へ行った。

「再誕生」と名づけられた旅。
一度、死んで
もう一度、生まれ直す。

さまざまな旅の中で
ある時、石段をのぼると
立札が、あった。

「朝起きて
 命があったことに
 感謝しましたか」

ボクは、知らないうちに
学んでいたのだと思う。

——名前は、ただの記号じゃない。
名乗った言葉が
その人を、つくる。

いちばん最初に
いただいたのは
一枚の、メッセージカードだった。

そこに、こう書いてあった。

美しくなる!

おいしい水を飲む。
早寝、早起き。
腹八分目。
深く、長い息を吐く。
よく歩く、よく笑う。
快食、快眠、快便。
姿勢を正す。
キョロキョロしない。
身体の声をよく聴く。
人生は、芸術。

その一枚を、受け取った日。
これから、世界が色づいていく。
そんな気が、した。

こうして、振り返ったときに
いただいたメッセージが
いかにすばらしいか
いかに指針になっていたか
そこからの変化はすさまじかったか

ボクはその言葉を
ノートに、書き写した。

うつくしく、うつくしく。
うつくしく、うつくしく。

いま思えば
すべては、この一枚から
始まった気がする。

いまボクは
文章のなかで
よく、言葉を書き換える。

「思う」を「信じる」に。
「助けたい」を「守りたい」に。

言葉をかえると
みえる景色が、かわる。

その原体験が
この層に、埋まっていた。

🌍 いちばん遠くまで、行った層

2012年の秋。
ボクは、飛行機で
地球の、裏側へ飛んだ。

イギリス。
ストーンヘンジ。
古い、石の円。

参加費は、2人で140万円。
からっぽの財布には
大きすぎる、金額だった。

それでもボクは
行きたかった。

自分の「ほんとう」が
そこにある気がして。

草原に立って
風に、吹かれて
ボクは、気づいた。

地球の裏側まで来て
探していたものは
たぶん、自分の内側に
あったのだと。

遠くへ行くほど
近くが、見えてくる。

そういうことも
あるらしい。

✉️ 未来へ、手紙を出した層

2012年9月。
真夜中のワークで
ボクは、こんな課題を出された。

「未来の自分あてに
 手紙を出しなさい」

ろうそくの灯りだけの
へやだった。

何年後の自分に
書こうか。

ペンが、止まる。
未来なんて
見えないのに。

1日1000円で
居候していたボクが。
残高、数百円のボクが。

未来に向かって
手紙を書いた。

そこには、こうある。

「経済的な自由と
 時間的な自由が、ほしい」

「いや、正直
 結婚したいなーと思って。
 ボクは、ですけど」

そして。

ボクは、最終的には
 福島に住みたいなぁ
 と思って

「地球をいやすため」に
 生まれてきた、とも
 書いてあった。

——壮大すぎて
  笑ってしまう。

財布は、からっぽなのに。

でも、ボクは
本気だった。

💌 もらう側から、渡す側へ

あのころのボクは
いつも、もらう側だった。

カードを、もらう。
名前を、もらう。
言葉を、もらう。

でも、いつのまにか
立ち位置が、変わっていた。

ボクは、人に
名前を考えたり
短い詩を、贈ったりする
側に、なっていた。

いま、ボクは
「未来のボクからの手紙」を
書いている。

5年後、10年後のボクが
いまのボクに、あてた手紙。

あの日もらった
1枚のカードと
おなじことを
ボクは、している。

そして、気づく。

導いてくれた、あの方が
ボクの「天」だとしたら。

恋した、あの一人は
いま、となりで
ボクを支えてくれる
「地」に、なっている。

天と、地と。
そのあいだに、ボク。

ばらばらだった層が
気づけば、ひとつの
かたちに、なっていた。

🌏 道しるべは、届いていた

いま、ボクは
福島にいる。

脳には
回顧性バンプ、という
仕組みがあるらしい。

10代から20代の記憶は
他のどの時期より
鮮明に、焼きつくのだという。

人生の地図を
描いていた時期だから。

だからこの5冊は
こんなにも、生々しい。

20代のボクが
未来へ出した手紙の
宛先は——

いまの、ボクだった。

福島に住みたい、と
書いた人は
福島にいる。

ひとりで歩くと
思い込んでいた人は
伴奏者を、見つけた。

もうそう⤴ こうどう⤴ ハッピー
と書いた人は
それを、仕事にしている。

手紙は、届いた。
15年、かけて。

いつか見た、あの滝にも
虹が、かかっていた。

落ちる水のしぶきが
光を、受けて。

崩れることと、輝くことは
同じ場所で、起きていた。

地層を、ぜんぶ
掘り返してみて
わかったことがある。

自由を、追いかけた層も。
からっぽの財布の層も。
届かなかった恋の層も。
かまってほしいと
泣いた層も。

別人のように見えて
ぜんぶ、一本の
同じ土でできていた。

恥ずかしい層ほど
いまのボクを
深いところで
支えている。

あの瞑想の、夜。
ボクは、声に出して
言わされた。

「生まれてきてくれて
 ありがとう」

私は、私を愛しています

何度も何度も、、、
いえばいうほど
恥ずかしくて、、、
いや、うれしくて
涙が、出た。

15年たって
やっと、わかる。

あれは、ぜんぶの
はじまりの、ことばだった。

——見かたをかえれば。

失敗は、地盤になる。
片想いは、やさしさになる。
みっともない本音が
いちばん、愛しい。

1匹の蝶の羽ばたきが
遠くの空で
嵐に、なるという。

あの1枚のカードが。
ボクが書いた、1行が。

15年かけて
今日のボクを、ここまで
連れてきた。

5冊のノートを閉じて
箱に、そっと戻す。

そして、思う。

いつか
50代の、60代のボクが
この文章を読むだろう。

これもまた
未来への、手紙だ。

だから、書いておく。

——見かたをかえれば、
すべて、いとし。

過去のボクへ。
未来のボクへ。

そして、いまを生きている
あなたへ。

『私の好きなこと
 そこから つながる
 そこから ひろがる』

#創作大賞2026
#エッセイ部門
#エッセイ
#自分史
#脳のバタフライエフェクト
#半歩こっち側
#見かたを変えればすべていとし

いいなと思ったら応援しよう!

BBE|見かたをかえていく人 もし、この記事のどこかで、 あなたの脳に小さな羽ばたきが起きていたら—— 無理せず、気が向いたときに、 応援のしるしを残してください。 あなたのチップは、私のところで止まりません。 次の誰かへ、また別の誰かへ—— 「フォワード」の燃料に。