ボイスドラマ視聴紀行 #12
今回ご紹介するのは、なるらんどさんが企画されたボイスドラマ『【ボイスドラマ】We need you!!!【ラジオドラマ】』です。
なお、聴取を推薦されたのは、こひら みかんさんです。
以下、文章表現の都合上、敬称略とさせていただく箇所が存在します。あらかじめご了承の上、本記事をお楽しみください。
また、ボイスドラマを視聴・聴取した上で感想を書き進めるスタイルのため、あえて備考やクレジットを見ずに執筆している場合もございます。
なお、本作は約68分の大長編になります。
作品内のどこかで聴取を区切ることは可能なので、一気に聞くために時間を準備する必要はありません。ただ、少し余裕があるとラストまで一気に聞けちゃう魅力のある作品なので、聴取の際は余裕を持った方がいいかもしれません。
なるらんどさんは「ワンテーマボイスドラマ」の主催として、何度か紹介記事にお名前が載ることがありましたので、お名前をご存知の方も多いかと思います。
今回は作品紹介ですが、なるらんどさんはたくさんのボイスドラマを幅広く世に出されています。短編から大長編、ジャンルも多岐に渡るので、ご興味のある方は下記リンクから好きな作品をご聴取ください!
作品を聞いた上での率直な感想
舞台はアメリカ。時代背景を具体的に表現するなら、20世紀後期のイメージで捉えるといいかもしれません。
お国柄を反映させたかのような軽妙で小気味いいセリフ運びとは裏腹に、重厚で冷徹とさえ感じるリアルな世界観がキャラの存在感をより際立たせます。
人間が過ごす人生という名の終わりなき物語は、決して綺麗事だけでは済まされません。時として失望し、時として迷い……今までに感じた幸せの数や重さを天秤にかけても、不幸せが上回ることもあるでしょう。
そんな人々が誰かと出会うことで、その傾きを逆転させることもある。幸福の天秤は自分の分だけで測るのではなく、みんなの分を載せて測れば、もしかしたら傾きが変わるのかもしれない。
あらゆる人が出会いによる変化によって喜怒哀楽を見せ、良くも悪くも思考や意思を変えていく。
不器用であるが故に、時にバイオレンスでありながらもアメリカナイズされたヒューマンドラマは、一話完結とは思えないほど清々しく美しい物語に仕上がっていると感じました。

人と人の出会いにこだわった洗練し尽くされた世界観
制作者のなるらんどさんは、企画立案の段階で「人と人との出会いによる心境や立場の変化」などをダイレクトに表現するシナリオ構想をお持ちだったように感じました。
そうなると「人と人の間にナニカを介在させない形でのストーリー展開が望ましい」と考え、少し時代を遡ったアメリカという舞台を選んだのでしょう。私は、この「ナニカ」とは「スマホや電話などの通信機器」だと推測しました。
日本でもほんのちょっと前までこのような時代が確かに存在し、昭和は江戸時代ほどではないにせよ、義理人情や浪花節が巷に溢れていた時代でもありました。
人間同士が実際に会わないと物事が進まない……今を生きる皆さんにはとても不便な時代に思えるかもしれませんが、逆に自分が出会った相手のことをダイレクトに知ることができるというのは、実は大きなメリットなのです。
声や文字だけのコミュニケーションでやり取りをするのは利便性が非常に高いのですが、真の意味で「知り合う」ということに繋がるのかと問われると、私は答えに窮してしまいます。そういった交流は不足する情報を掴めない場合に「自分の想像力で相手のイメージを補完する」ことになるので、直に会うよりもノイズのような不純物が混ざってしまう。これが積み重なるとお互いの認識に齟齬が生まれ、人間関係に悪影響を及ぼしてしまうことは火を見るよりも明らかです。
ヒューマンドラマを生き生きと描くために、あえて文明の利器を捨てる。実際に人と人が出会って、何度も顔を合わせて、少しずつ関係性が構築されていく展開は、物語を想像以上に弾ませてくれます。
メインとして「若者たちの群像劇」が据えられているかもしれませんが、たまに顔を見せる大人たちもまた人間です。彼らもまた物語に生きる者として、若者たちにも彩りを与えており、そういった意図が丹念に練り込まれた素晴らしい脚本になっていると思います。

個性だらけのキャストの熱演にも注目!
絶望の地獄から華やかで雑多な見知らぬ街へ。ある大人に促されて旅立つ主人公のキャサリン=エドワーズ(CV:葵シャルドネ)は考えるよりも先に動く積極性がありながらも、未成年とは思えないほどの思い切りのよさが心地いいキャラです。完全に思考を放棄している訳ではないのですが、それを上回るアクティブさは聴取者さえも唖然とさせるほどの活力に満ち溢れています。
葵シャルドネさんは全編を通して出演されていますが、キャシーの感情の機微を捉えるのは本当に難しかったと思います。本当に難役だったと思いますが、最後までキャサリンとして駆け抜けたのは「素晴らしい!」の一言に尽きます!
そんなキャシーに「子供?」と思わせる姿見の青年・トム=ワトソン(CV:諏訪滋俊)に、神経質な友人のピーター=ランド(CV:大﨑晋司)が加わることで、ゆっくりと物語が動き出します。
積極性という意味では、ピーターはキャシーに引っ張られるようにして行動し、感情をあらわにします。トムも悲嘆に暮れながら仲間たちに自分の心境を吐露するシーンがあるなど、ストーリーが進むたび「ああ、なんか気を許すくらいになったのかな?」などの感想が自然と感じられます。
大﨑晋司さんの熱演がトリオになっても光るので、ぜひピーターにもご注目ください!
諦めの境地に住まうジェームズ(CV:フルゴオリ)は、キャシーに旅立ちを勧める素敵な大人のひとりです。また、道中で立ち寄るガソリンスタンドの店員(CV:みそ汁)も人間味あふれる男性です。
ピザ屋の店長(CV:K K)、売店の店長(CV:くれは)はキャシーとひと悶着あったりなかったりと……彼らも物語の中でもれなくイキイキしているのはとても楽しく感じます。
その他にも登場人物は存在しますが、それはストーリーを追っていけばわかることですし、どんな役であろうとも企画の意図通りに存在感を見せつけてくれますので、役名があろうとなかろうと、そんなものは関係ありません。
声優さんがさらに盛り上げてくれる本作において、印象に残らない登場人物は存在しないのです。改めて、皆さんの熱演に大きな拍手を贈りたい!

総評「古き良きヒューマンドラマの金字塔」
大長編にも関わらず、ずっと聞いていられる心地よさが魅力の本作ですが、決して楽しいコトばかりではありません。ストーリーは山あり谷ありで、無念や失望を感じ取ることもあるでしょう。
ですが、案ずることはありません。
聴取してくださる皆さんには、素晴らしいラストが待っていますから。もし、時として気持ちが落ち込んだとしても、ちゃんと物語が手を引いてくれます。決して優しくはないかもしれませんが、キャシーが「こっちがエンディングだよ」と、力強く引っ張ってくれることでしょう。ぜひ最後までのご聴取をオススメします。
海外ドラマの吹替好きな私からすると、なるらんどさんの組み立ては本当に秀逸だと思いました。こういう作品が舞台化とかされると面白いと思うんですよね。
大長編のヒューマンボイスドラマ、ひとつの完成形がここにある!
クレジット(敬称略・リンクあり)
▢キャスト
キャサリン=エドワーズ:葵シャルドネ
トム=ワトソン:諏訪滋俊
ピーター=ランド:大﨑晋司
ジェームズ:フルゴオリ
エリザベス=ワトソン:ラウ・シュシュリー
ロバート=ワトソン:ゼフ
ガソリンスタンドの店員:みそ汁
ピザ屋の店長:K K
売店の店長:くれは
肉屋の店長:あさみな
八百屋の店長:いけどゆき
キャサリンの母:はせべ倫世
キャサリンの父:控田まりお
運転手A:くれは
運転手B:いけどゆき
運転手C:ゼフ
通行人:K K
売店の客:控田まりお
▢スタッフ
イラスト・ロゴ制作:エンドーハイロウ
脚本・編集・企画:なるらんど

