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氷河期世代AD、テレビの片隅で。#15「大事な事は相談せんでいい」顔面凶器の優しい言葉

結局、僕はテレビの仕事を辞めた。

正確に言うと、会社を辞めた。

次は、どこの会社にも入らなかった。

フリーになることにした。

ディレクター経験も、
ほとんどないのに。

今思うと、かなり無謀だったと思う。

でも、あの時はもう限界だった。

これ以上あの場所にいたら、
自分が壊れる気がしていた。

顔面凶器、桜井さんには、
辞めてから少し経って電話した。

理由は簡単だった。

もし辞める前に相談して、

「辞めない方がええ」

と言われたら、
たぶん僕は辞めるのをやめていた。

だから相談じゃなく、報告にした。

電話口で桜井さんは笑っていた。

「お前、ずいぶんゴタゴタして
辞めたな」

そして言った。

「飯行こうや」

連れて行かれたのは、
高級焼肉店だった。

たぶん、それまでの人生で一番
高い肉だった。

桜井さんは、ずっと肉を焼いていた。

「食べろ食べろ」

基本、ずっと笑っていた。

顔面凶器みたいな顔なのに
不思議と安心する人だった。

僕が会社を辞めた経緯を話すと、

「まあ、あの辺は昔から
そうやからな」

と苦笑いしていた。

そして言った。

「俺がお前の立場でも、
辞めてから報告してたわ」

さらに、

「大事なことは、
相談せんで自分で決めた方がええ」

「その方が、自分で責任持つやろ」

と言った。

桜井さんらしい言葉だった。

正しいかどうかじゃなく、
自分で決めろ。

昔から、そういう人だった。

帰り際、桜井さんは言った。

「仕事紹介したろか?」

本当にありがたかった。

でも僕は断った。

全く新しい環境で、
一度やってみたかったから。

「どうにもならなくなったら、
その時お願いします」

そう言うと、桜井さんは笑った。

「うん、わかった」

店を出ると、
夜風が少し気持ちよかった。

肩書きもなかった。

会社もなかった。

ディレクター経験も、
ほとんどなかった。

でも不思議と、
前より少しだけ自由だった。

#テレビ業界    #創作大賞2026  
#お仕事小説部門 #実話


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#16  「小さな仕事でも全力だった、一発屋芸人さんに見たプロ意識」

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僕はどこかで、そう思っていました。
でも、ある芸人さんの仕事ぶりが、その考えを変えてくれました。


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『氷河期世代AD、テレビの片隅で。全話まとめ』

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