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氷河期世代AD、テレビの片隅で。#13「優しすぎた親友と、レギュラーになりたい補欠だった僕」

忙しく疲れ切った毎日を送っていた頃、
地元の友達、佐藤から電話が来た。

高校も大学も一緒だった。

高校へ入学して、
最初に友達になったのが佐藤だった気がする。

お互いバラエティ番組が好きで、
よくテレビの話をしていた。

「元気が出るテレビ」の話とか、
ダウンタウンの話とか、
深夜番組の話とか。

たぶん、
ずっと同じものを見て育ってきた。

電話の向こうで、
佐藤は言った。

「正月帰ってくるの?」

「一緒にスノボ行こうよ」

僕は言った。

「たぶん帰れそうにないな」

すると佐藤は、
いつもの感じで言った。

「そっか。仕事大変だな、頑張って!」

短い電話だった。

数日後。

編集明けで昼過ぎに起きると、
携帯電話に着信が入っていた。

佐藤と共通の友達からだった。

珍しいなと思った。

僕は折り返した。

電話に出た友達は、
少し黙ってから言った。

「佐藤、死んだ」

最初、
意味が分からなかった。

でも、
すぐに分かった。


佐藤は、
地元のメーカーに就職していた。

かなり厳しい会社だったらしい。

でも佐藤は、
弱い奴ではなかった。

真面目で、
優しくて、
ちゃんと頑張れる奴だった。

だから余計に、
信じられなかった。

通夜と葬式の日を聞いて、
僕は田中に相談した。

すると田中は言った。

「死んだ奴なんてどうでもええやろ」

僕は、
通夜にも葬式にも行けなかった。

今でも時々思う。

あの電話の時、
「正月帰るよ」
「スノボ行こう」
と言っていたら、
何か違ったんだろうか。

もちろん、
そんな簡単な話じゃないのは分かっている。

でも、
そう考えてしまう。

正月が明けて、
少し仕事が落ち着いた頃。

僕は佐藤の実家へ、
お線香をあげに行った。

高校生の頃、
何度も遊びに行った家だった。

お母さんも、
昔と変わらなかった。

でも、
無理に笑っていた気がする。

お線香をあげたあと、
佐藤のお母さんが言った。

「いつも孝行くんの番組、
楽しそうに見てたんだよ」

「あいつも、東京で頑張ってるから、
自分も仕事頑張るんだって言ってたのにね……」

僕は、
何も言えなかった。

佐藤は、
してはいけないことをした。

ダメなことだと思う。

でも、
逃げることができなかったんだ。

たぶん、
真面目すぎたのだと思う。

帰り道、
冬の空気はかなり冷たかった。

地元の景色は、
高校生の頃とほとんど変わっていなかった。

変わってしまったのは、
僕たちの方だったのかもしれない。


佐藤の家へ線香をあげに行った日、
たぶん2年ぶりくらいに、
僕は実家にも寄った。

あまり帰らなかったのは、
疲れている顔を
親に見せたくなかったからだ。

久しぶりに帰ると、
やっぱり夕飯はすき焼きだった。

実家は、
何年経っても実家だった。

でもたぶん、
あの頃の僕の顔は、
かなり疲れていたと思う。

父も母も、
仕事のことは深く聞いてこなかった。

たぶん、
何か感じていたのだと思う。

すき焼きを食べながら、
高校時代の事を思い出した。

僕は野球部だった。
でもずっと補欠だった。

一度だけ試合に出た事がある。
初ヒットを打った。

その日の夜も、家はすき焼きだった。
両親がすごく喜んでいたのを覚えている。

でも結局、その後もずっと補欠だった。

だからなのか分からない。
テレビの世界では、
絶対にレギュラーになりたかった。

母に、
「泊まっていくよね?」
と言われた。

でも僕は、
夕飯だけ食べて、
そのまま東京へ戻った。

泊まってしまうと、
もう東京へ戻れなくなる気がしたから。

その頃から僕は、
今の環境から

“逃げ出したい”と、

思うようになっていた。

#氷河期世代   #創作大賞2026  
#お仕事小説部門 #実話


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