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建築に関する無形文化遺産

木を組み、藁や葦を編み、鏡や漆喰で壁を飾る―世界各地の建築文化には、素材と気候風土に根ざした固有の技術と、それを次世代へと伝える人々の営みが息づいています。今回はマダガスカル、マリ、フランス、中国、韓国、スペイン、モンゴル、ペルー、キルギス・カザフスタン・ウズベキスタン、ドイツ・オーストリア・ノルウェー・スイス、日本、イラク、ボスニア・ヘルツェゴビナ、サウジアラビア、イラン、パナマという22か国、18件の登録物を通じて、木造建築の匠の技から壁面装飾の芸術まで、建築をめぐる無形文化遺産の世界をご紹介します。


ザフィマニリの木彫知識

登録名:Woodcrafting knowledge of the Zafimaniry
登録年:2008(「人類の口承および無形遺産に関する傑作」として、2003年に登録)
申請国:マダガスカル

Woodcrafting knowledge of the Zafimaniry

2008年に代表リストに登録された、マダガスカル島にかつて広く見られた木工文化を今も唯一継承するザフィマニリの人々の知識体系です。18世紀に森林伐採を逃れてマダガスカル南東部の奥地に移り住んだ彼らは、壁や窓枠、柱、梁、腰掛け、櫃、道具に至るまであらゆる木の表面に精緻な装飾を施す高度な木工技術を発展させてきました。20種の固有樹種をそれぞれ用途に応じて使い分け、家屋や墓は釘や金具を一切使わずほぞ組みだけで組み立てられます。幾何学模様は高度に体系化されており、蜘蛛の巣を表す文様が家族の絆を、蜂の巣を表す文様が共同体の暮らしを象徴するなど、豊かな意味が込められています。近年は観光客向けの手工芸品としての側面が強まる一方、森林伐採の進行がこの技術を支える主要な収入源を脅かしています。

カンガバの聖なる家カマブロンの7年ごとの屋根葺き替え儀礼

登録名:Septennial re-roofing ceremony of the Kamablon, sacred house of Kangaba
登録年:2009
申請国:マリ

Septennial re-roofing ceremony of the Kamablon, sacred house of Kangaba

2009年に代表リストに登録された、マリ南西部マンデン地方のマリンケ族などが7年に一度、村カンガバの円形の建物「カマブロン(言葉の家)」の茅葺き屋根を葺き替える際に催す祭事です。1653年に建てられたこの建物は共同体にとって高い象徴的価値を持つ品々を収め、村の議会としての役割も果たしています。マリ帝国の建国者スンジャタ・ケイタの子孫であるケイタ一族と、ディアバテという姓を持つ語り部(グリオ)たちが、この建物の歴史の継承者であり儀式の主催者です。屋根の葺き替えは口承を通じてマンデン地方の歴史と文化を語り継ぐ機会であるとともに、社会的な絆を強め、対立を解消し、次の7年間を占う場ともなっています。5日間にわたり20歳前後の若者たちが古い屋根を取り払い新しい屋根を葺く作業を行い、その過程で長老たちからこの建物の建築や歴史、象徴的な価値にまつわる知識が伝えられます。

フランスの木骨造工法におけるスクライビングの伝統

登録名:Scribing tradition in French timber framing
登録年:2009
申請国:フランス

Scribing tradition in French timber framing

2009年に代表リストに登録された、複雑な木造建築の設計を三次元で正確に把握するための伝統技術「スクライビング」です。13世紀以来フランスで用いられてきた図法を組み合わせたもので、建物の実際の容積や部材同士の組み合わさり方、木材の特性を設計図の上に正確に表現することを可能にします。この技術により大工は、どれほど複雑な構造であっても事前にすべての部材を割り出し、組み立て時に継手がぴったりと合うことを保証できます。同業組合に属する大工たちの間では、スクライビングの伝統は象徴的・入門儀礼的な意味を持つ秘伝として受け継がれ、「コンパニョナージュ」の価値体系において重要な役割を果たしています。現在も数十の研修センターや組合、企業で専門的な訓練が行われています。

中国木造建築における伝統技術

登録名:Chinese traditional architectural craftsmanship for timber-framed structures
登録年:2009
申請国:中華人民共和国

Chinese traditional architectural craftsmanship for timber-framed structures

2009年に代表リストに登録された、中国全土に見られる伝統的木造建築の建築技術です。柱、梁、桁、まぐさ、斗栱(組物)といった木造部材を、地震にも柔軟に対応できるほぞ組みで接合するのが特徴で、あらかじめ製作しておいた部材を現場で速やかに組み立てられる合理的な構造となっています。この構造的な大工技術に加え、装飾的な木工や瓦葺き、石工、装飾彩色といった技芸も含まれ、それぞれ師匠から弟子へと口伝えと実地の指導を通じて受け継がれています。現在は伝統様式での新築や、古い木造建築の修復を中心に用いられており、中国の建築文化を象徴する存在として、自然と人間関係についての伝統的な理解を体現しています。

大木匠(テモクジャン)

登録名:Daemokjang, traditional wooden architecture
登録年:2010
申請国:大韓民国

Daemokjang, traditional wooden architecture

2010年に代表リストに登録された、韓国の伝統的木造建築とそれを手がける大工を指す言葉「大木匠(テモクジャン)」にまつわる技術です。伝統家屋から宮殿や寺院といった大規模な木造建築まで、その維持・修理・再建を担う大木匠は、計画・設計から施工、下位の大工の監督に至るまで建築工程全体を統括します。木材を選び、切り出し、釘を使わずに組み合わせて「千年持つ継手」を作り出すには、高度な技術的知識と美的センスの両方が求められます。この技術は世代を超えて受け継がれ、習得には数十年に及ぶ教育と現場経験を要します。大木匠は歴史的建造物を伝統技法で修復する中で、自らの芸術的な創造性と技術力をもって伝統建築の美を再解釈し、再現しています。

コルドバのパティオ祭り

登録名:Fiesta of the patios in Cordova
登録年:2012
申請国:スペイン

Fiesta of the patios in Cordova

2012年に代表リストに登録された、5月初旬の12日間にわたりコルドバの街で催される祭りです。パティオを持つ住居は、市の歴史地区に位置する共同住宅や家族・複数家族向けの住宅、あるいは共有のパティオを囲む一戸建ての住宅群であり、この特徴的な文化的空間は豊かな植物であふれています。祭りの期間中、住民たちは訪れるすべての人々を自由に迎え入れ、その美しさと創造の技を披露します。パティオでは伝統的な歌唱やフラメンコギターの演奏、舞踊も催されます。持続可能な共同生活を営んできた先祖伝来の慣習が、親愛の情や食事・飲み物を分かち合うことを通じて、訪れる人々とも共有されます。この祭りはコルドバの文化遺産の不可欠な一部と見なされており、強いアイデンティティと連続性の感覚を街に与えています。あらゆる年代・階層・背景の多くの人々による無私の協力を必要とし、チームワークを促進・奨励するとともに、地域の調和と親睦に寄与しています。世俗の伝統や知識、技術に導かれたこの営みは、それぞれのパティオが持つ豊かな花や色彩、音、香り、構成の創造性という形をとり、コルドバの共同体、とりわけこれらのパティオのある住居に暮らす住民たちの象徴性と伝統を表現しています。

モンゴルゲルの伝統工芸技術とその慣習

登録名:Traditional craftsmanship of the Mongol Ger and its associated customs
登録年:2013
申請国:モンゴル

Traditional craftsmanship of the Mongol Ger and its associated customs

2013年に代表リストに登録された、遊牧民の移動式住居「ゲル」を作る伝統技術です。ゲルの製作は家族や集団の労働からなる伝統的な営みで、男性が木材を彫り、女性・男性ともに彩色や縫製、フェルト作りに携わります。木の骨組みと支柱、尖った屋根からなる円形の構造は白いフェルトと帆布で覆われ、動物の毛で作った縄で締められており、モンゴルの厳しい春の強風にも耐えられます。組み立てと解体は常に家族単位の作業として行われ、子どもたちは年長者の様子を見ながら技術を学びます。羊毛の裁断や準備、フェルト作り、帆布の縫製、木工の準備は共同作業として行われることが多く、伝統的な住居としてのゲルは遊牧生活を営む家族にとって重要な社会的・文化的役割を果たしており、その作り手は高い敬意を集めています。

ケスワチャカ吊り橋の毎年の架け替えに関する知識・技術・儀礼

登録名:Knowledge, skills and rituals related to the annual renewal of the Q’eswachaka bridge
登録年:2013
申請国:ペルー

Knowledge, skills and rituals related to the annual renewal of the Q’eswachaka bridge

2013年に代表一覧表に登録された、南部アンデスのアプリマク川の峡谷に架かる縄橋「ケスワチャカ」を、インカ時代から伝わる伝統技術と天然素材を用いて毎年架け替える技術です。ケチュア語を話すウィンチリ、チャウピバンダ、チョッカイワ、コリャナ・ケウェの各農民共同体にとって、この橋は単なる交通路ではなく、社会的な絆を強めるための存在であり、自然や伝統、歴史との結びつきを表す神聖な象徴と見なされています。架け替え作業は3日間で完了するものの、その準備は一年を通じて参加する共同体の暮らしを形作り、意思疎通を確立し、幾世紀にもわたる絆を強め、文化的アイデンティティを再確認する機会となっています。作業はまず各家庭が藁を裁断・撚り合わせて長さ約70メートルの細縄を作ることから始まり、2人の橋大工の指導のもとでこれらを撚り合わせて中縄にし、さらに編み込んで6本の大縄に仕上げます。大縄が完成すると、共同体の男性たちがこれを古くからの石造りの土台にしっかりと結びつけ、熟練した職人たちがそれぞれ橋の両端から編み進めていきます。完成後には共同体を挙げての祝祭が催され、橋を編む技術は家族の中で教え、学ばれています。

テュルク系民族の移動式住居ユルトの伝統的知識と技術

登録名:Traditional knowledge and skills in making Kyrgyz, Kazakh and Karakalpak yurts (Turkic nomadic dwellings)
登録年:2014(拡大登録:2025)
申請国:キルギス、カザフスタン、ウズベキスタン(2025年登録)

Traditional knowledge and skills in making Kyrgyz, Kazakh and Karakalpak yurts (Turkic nomadic dwellings)

2014年にキルギス、カザフスタンで先行登録され、2025年にウズベキスタンを加えて拡張登録された、キルギス・カザフスタン・ウズベキスタンのカラカルパク地方に伝わる遊牧民の住居「ユルト」の製作技術です。ユルトは組み立て式の円形木造骨組みをフェルトで覆い、縄で編み込んで作られる住居で、短時間で容易に組み立て・解体ができるよう工夫されています。天然の再生可能な原材料から作られ、男性とその弟子たちが木・革・骨・金属の部材とともに木製の骨組みを手作業で製作する一方、女性たちは有機的・幾何学的な文様で飾られた室内装飾と外側の覆いを手がけます。女性たちは通常、経験豊かな女性職人の指導のもとで地域社会に根ざしたグループを組み、機織りや紡ぎ、組み紐、フェルト作り、刺繍、縫製といった伝統技法を用いて作業を進めます。関連する知識と技術は家族内で、あるいは師から弟子へと伝えられるほか、地域の年長者や、展示会・祭事・ワークショップといった様々な文化行事、メディアを通じても継承されています。ユルト作りは人類共通の価値観と協働、創造性を育む営みであり、あらゆる祝祭や儀式、誕生・婚礼・葬送の儀礼がユルトの中で執り行われます。ユルトは家族の中で受け継がれ、神聖な家宝として親から子へと伝えられていくことから、担い手となる共同体のアイデンティティの根幹をなす家族史の象徴であり続けています。また、社会的結束や、文化的多様性と自然への敬意にも寄与しています。

コニツの木彫

登録名:Konjic woodcarving
登録年:2017
申請国:ボスニア・ヘルツェゴビナ

Konjic woodcarving

2017年に代表リストに登録された、ボスニア・ヘルツェゴビナのコニツ自治体に長い伝統を持つ木彫刻の芸術工芸です。家具や凝った内装、小さな装飾品などが手彫りの独特な文様と全体的な視覚的個性によって特徴づけられます。この木彫刻は地域社会の文化を構成する要素であり、住まいの美しさと快適さの尺度であるとともに、共同体意識と帰属感を育む伝統でもあります。コニツの地域社会だけでなく国内全体やディアスポラのコミュニティにも重要な役割を果たしており、経済的に成り立ち、社会的に包摂的で、環境的にも持続可能な工芸として、異なる民族・宗教集団によって実践され、対話と協働の手段としても機能しています。

アル=カット・アル・アスィーリ

登録名:Al-Qatt Al-Asiri, female traditional interior wall decoration in Asir, Saudi Arabia
登録年:2017
申請国:サウジアラビア

Al-Qatt Al-Asiri, female traditional interior wall decoration in Asir, Saudi Arabia

2017年に代表リストに登録された、アシール地方のアイデンティティを象徴する古い芸術形式である、女性による室内壁面装飾です。主に女性たちが自発的に行う技法で、自宅の室内、とりわけ来客をもてなす部屋の壁を装飾する慣習です。女性たちはさまざまな年代の女性の親族を家に招いて作業を手伝ってもらい、こうしてこの知識が世代を超えて伝えられていきます。下地には主に白い石膏が使われ、幾何学的な形やシンボルを組み合わせた文様が描かれます。かつては女性のみが行っていましたが、現在では男女の芸術家やデザイナー、室内装飾家、建築家もこの技法を実践しており、壁以外の面にも応用されています。この芸術は地域社会における社会的な絆と連帯感を高め、実践者に癒やしの効果ももたらすとされ、多くの家庭でこの装飾が施されていることが技術存続の基盤となっているほか、自宅にギャラリーを設けて保護に努める人々もいます。

ヨーロッパの大聖堂工房バウヒュッテンの工芸技術と慣習

登録名:Craft techniques and customary practices of cathedral workshops, or Bauhütten, in Europe, know-how, transmission, development of knowledge and innovation
登録年:2020
申請国:ドイツ、オーストリア、フランス、ノルウェー、スイス
リスト:ベストプラクティス

Craft techniques and customary practices of cathedral workshops, or Bauhütten, in Europe, know-how, transmission, development of knowledge and innovation

2020年に「ベストプラクティス」に記載された、ドイツ、オーストリア、フランス、ノルウェー、スイスにまたがる大聖堂建設現場の工房組織「バウヒュッテンヴェーゼン」に関する取り組みです。中世ヨーロッパの大聖堂建設現場に起源を持つこの工房は、複数の職種が緊密に協働する場として今も機能しており、中世末期以来、国境を越えた広域のネットワークを形成してきました。工房は各職種の伝統的な慣習や儀礼を守るとともに、口頭と文書の両方を通じて世代を超えて伝えられてきた豊富な知識を保存しています。技術継承者の減少と機械化・コスト削減が進む中、19世紀から20世紀にかけて創設・再興されたこれらの工房は、伝統技術とノウハウを保護・伝承・発展させる機関としての役割を担うようになりました。政治・教会・文化財保護・産業・研究といった関係者との緊密な協力を通じた啓発活動は、他の文脈にも応用しうる好例と見なされています。

日本木造建築における伝統技術

登録名:Traditional skills, techniques and knowledge for the conservation and transmission of wooden architecture in Japan
登録年:2020(拡大登録:2025)
申請国:日本

Traditional skills, techniques and knowledge for the conservation and transmission of wooden architecture in Japan

2020年に代表リストに登録、2025年に拡大登録された、新たな木造建築物を建てたり既存の建物を修復したりするための、日本の伝統的な技術・技法・知識の体系です。左官仕事や原材料の栽培・採取、伝統建築の漆塗りなど、多岐にわたる技能が含まれます。当初は熟練した職人が弟子を養成することで関連する知識と技術が伝えられていましたが、近代化に伴いこの継承過程は次第に難しくなり、これを受けて保存会が組織されるようになりました。畳表の一種「中継表」の製作など特定の技術は、天然資源の持続可能な利用や原材料の栽培に焦点を当てた研修会や講習会を通じて伝えられています。日本の高温多湿な気候ゆえに定期的な修繕作業が欠かせず、修復現場ではさまざまな技能を持つ職人たちが協力して作業にあたり、一部の維持管理作業には地域住民の参加も求められることから、協働と社会的結束を育み、担い手コミュニティの文化的アイデンティティの共有意識を強める社会的な機能も果たしています。

アル・ムディフ建築の伝統的な技術と芸術

登録名:Traditional craft skills and arts of Al-Mudhif building
登録年:2023
申請国:イラク

Traditional craft skills and arts of Al-Mudhif building

2023年に代表リストに登録された、イラク南部の湿地帯に自生する葦とパピルスから作られる大型のアーチ型建物「アル・ムディフ」の建築技術です。この建物は地域社会の人々が意見を交わし、対立を解決し、経験を分かち合い、物語を語り、婚礼や割礼の儀式、宗教的儀礼、国民的祝祭といった文化的活動や社会的儀礼を行う集いの場として機能します。伝統的な知識や価値観、手工芸技術、規範や慣習を子どもや若者に伝える空間としての役割も担い、イラク国内外からの来訪者や客人を迎える場でもあります。建物自体は熟練した職人が建て、部族の長が管理しますが、葦の採取やマットレスとして使われる敷物やラグを編む作業には地域社会全体が関わります。関連する伝統的な慣習と手工芸技術は、実地での実践や文化的活動への参加を通じて非公式に伝えられるほか、物語や伝説、出版物やメディアを通じても継承されています。

パリの亜鉛屋根職人の技術

登録名:Skills of Parisian zinc roofers and ornamentalists
登録年:2024
申請国:フランス

Skills of Parisian zinc roofers and ornamentalists

2024年に代表リストに登録された、19世紀にパリで建てられたオスマン様式の建物の屋根を修復するための知識と技術です。この屋根は屋根裏部屋の形状と、屋根材としての亜鉛の使用によって特徴づけられます。亜鉛は軽量な金属で屋根の骨組みを小さくでき、屋根裏の居住空間を広げることができます。修復作業では古い亜鉛板を取り外し、パリ式の折り曲げ機で新しい板を採寸・裁断し、屋根に組み付けて固定します。装飾職人は工房で亜鉛を加工し、窓や、屋根の美観を高める装飾品を製作・複製します。パリの屋根の約8割が亜鉛葺きであることから、この街はこれらの技術の生きた記録庫であり、都市景観の独自のアイデンティティを形作っています。技術は理論と実技講習、現場での実地経験を組み合わせた実務研修プログラムを通じて伝えられ、パリの景観美を守るという誇りが職人同士の社会的な絆を育んでいます。仕事を終える際に屋根材の下に品物を残しておき、数十年後に葺き替えを行う職人がそれを見つけるという慣習も、この職業文化を象徴しています。

中国の木造アーチ橋建造の伝統的な設計と実践

登録名:Traditional design and practices for building Chinese wooden arch bridges
登録年:2024
申請国:中華人民共和国

Traditional design and practices for building Chinese wooden arch bridges

2024年に代表リストに登録された、中国南東沿岸部の福建省・浙江省に見られる木造アーチ橋の建造技術です。木材の使用、伝統的な建築道具と職人技、「編梁式」と呼ばれる中核技術、そしてほぞ組みを組み合わせ、経験豊かな職人が異なる環境条件や必要な構造力学を見極めながら建造にあたります。この橋は地域社会のニーズに応えると同時に環境や自然資源の管理にも配慮しており、人と自然の調和的共存という価値観を反映しています。急速な都市化や木材の不足、建設用地の確保難などから技術の存続が脅かされ、当初は緊急保護リストに記載されていました。今日でも職人たちの生計を支える存在であるとともに、橋そのものと関連する伝統技術・知識が地域の村の文化的生態系の一部を成しており、意思疎通の場・文化的空間として地域の調和と文化的アイデンティティを高めています。あらゆる性別の地域住民と職人が建設・維持管理・利用や関連する民俗行事に参加しており、関連する技能・知識・歴史・文化は正規教育にも組み込まれ、若い世代への普及に役立っています。

アイェネ・カリ:ペルシャ建築における鏡細工の芸術

登録名:Ayeneh-Kari, the art of mirror-work in Persian architecture
登録年:2025
申請国:イラン

Ayeneh-Kari, the art of mirror-work in Persian architecture

2025年に代表リストに登録された、天井や壁、ドーム、柱、パネルといった建築面を鏡の切片で装飾する手工芸技術です。鏡を幾何学模様や有機的な形に切り出し、接着して光を反射させ空間を明るく彩る意匠を作り出します。設計から鏡の裁断、漆喰塗り、彩色、モザイク作業に至るまで複数の技能を組み合わせるこの工芸において、鏡と水は清浄さと輝きの象徴とされ、光と啓明の重要性を体現する存在と位置づけられています。技術は徒弟制度や講習会を通じた非公式な形と、大学やNGO、研修機関を通じた正式な形の両方で受け継がれ、多くの場合祖父や父、叔父から子孫へと数世代にわたって伝えられる家業となっています。アイェネ・カリの熟練職人は高い社会的地位を占め、聖廟や宗教施設から王宮、個人邸宅に至るまで、伝統的な空間にも現代的な空間にも用いられる、豪奢さと精神性を兼ね備えた表現として認識されています。

キンチャハウスの建築工程とフンタ・デ・エンバレ

登録名:Construction processes of the quincha house and the junta de embarre / embarra
登録年:2025
申請国:パナマ
リスト:緊急保護リスト

Construction processes of the quincha house and the junta de embarre / embarra

2025年に緊急保護リストに記載された、パナマの農村部・準都市部の多くの地域に見られる伝統的な建築慣習です。「キンチャハウス」と呼ばれる泥や粘土で作られたこれらの家屋は、粘土質の土や干し草、天然繊維を混ぜ合わせ、構造を支える木材や植物とともに作られます。「フンタ・デ・エンバレ(泥の集い)」と呼ばれるこの建築工程には、地域の材料と環境に関する深い知識に加え、材料を混ぜ、形作り、組み立てる技術が求められます。キンチャハウスを建てる技術は、あらゆる年代の人々が集まって学び、助け合い、祝う「泥の集い」という地域行事を通じて非公式に受け継がれています。参加者は粘土を混ぜて突き固め、壁に塗り、構造を組み立てる方法を教わります。この慣習はチームワークや協力、相互扶助といった価値観を強めるものであり、構造の設計を担う棟梁から、粘土の準備やレンガ・瓦作り、作業の割り振りを手伝う参加者まで、様々な役割を伴います。歌や伝統料理、音楽がこの共同作業にしばしば加わり、建築の工程を社会的・文化的な行事へと変えています。

まとめ

今回ご紹介した18件の登録物からは、世界各地の建築文化に共通するいくつかの特徴が浮かび上がります。第一に、木造建築の技術(スクライビング、大木匠、中国の木造建築技術、木造アーチ橋、日本の木造建築技術)に象徴されるように、金属の釘に頼らず木材同士を組み合わせるほぞ組みの技法が、地理的に離れた地域で独自に、しかし驚くほど似た構造原理のもとで発展してきた点が印象的です。

第二に、建築という営みが単なる技術の行使ではなく、共同体の社会生活そのものと分かちがたく結びついている点も共通しています。カマブロンの屋根葺き替え儀礼やモンゴルのゲル製作、アル・ムディーフでの集いは、いずれも建築行為そのものが対話・和解・世代間伝承の場となっていることを示しています。パナマの「泥の集い」もまた、家屋の建築という実用的な作業を、歌や料理を分かち合いながらチームワークと相互扶助を確かめ合う社会的な行事へと変える好例です。

第三に、多くの技術が近代化や都市化、気候変動、担い手の高齢化といった共通の脅威に直面しながら、保存会やバウヒュッテンのような組織的な取り組みを通じて存続を図っている点も見逃せません。中国の木造アーチ橋のように緊急保護リストから代表リストへと移行を遂げた事例がある一方、キンチャハウスの建築技術のように、森林伐採や後継者不足によって近年新たに緊急保護リストに記載された事例もあり、建築にまつわる無形文化遺産の保護が今なお進行中の課題であることを物語っています。そして、アル=カット・アル・アスィーリやアイェネ・カリのように、建築という実用的な営みが、光や清浄さ、家族の絆といった精神的・象徴的な価値と深く結びついている点も、建築が単なる「入れ物」ではなく、人々の世界観そのものを映し出す存在であることを改めて示しています。

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