サイエンス誌に載った偽・誤情報研究のジレンマの爆発
2024年10月30日にサイエンス誌に掲載された「A field’s dilemmas Misinformation research has exploded. But scientists are still grappling with fundamental challenges」( https://www.science.org/content/article/five-biggest-challenges-facing-misinformation-researchers )は、これまで何度もご紹介してきた現在の偽・誤情報、デジタル影響工作研究の問題点を端的に紹介したものだ。いくつかある類似のものの中でもコンパクトかつ網羅的で根拠となる資料も広く紹介されている。関係者必読と言ってよいだろう。
●偽・誤情報への注目が集まり、研究は増加。しかし……
この領域には金と人が集まってきている。民主主義を標榜する多くの国で起きている現象であり、日本も例外ではない。しかし、5つの基本的な課題は克服されておらず、金と人の努力は無為に空回りしているようだ。
この論考であげられている5つの課題を見た方の多くは、「こんなこともできていないのか?」とあきれると思う。しかし、それがこの領域の研究の実態なのだ。悪いことに重要な課題が克服されていないのに、金と人が増え、プロジェクトや無数のアウトプットが生み出され。それがこの分野がまるで重要で進歩しているかのような誤解を生んでいる。
●第1の課題 偽・誤情報とはなにか?
実はこのもっとも基本的な問いへの答えがでておらず、共有されてもいない。この論考では定義が定まっていない現状と、それぞれの研究者が考えている定義の差異を整理している。このチャートは衝撃的である。定義についての認識でこれだけの乖離があるのは驚きだ。

●第2の課題 全てが政治的である
アメリカでのこの分野の研究の後退、バッシングが示すように、この領域の研究は政治的な問題とは切り離せない。アメリカで起きている偽・誤情報対策へのバッシングは、その典型である。共和党を中心とする右派によって多くの研究が阻害された。また、逆に予算が集まりやすく、政治的に優先されるテーマは研究が進みやすくなる。また、研究者自身にも偏りはある。
●第3の課題 被害の特定は困難
いくつかの事例をあげて偽・誤情報が被害を引き起こしたことを立証するのは難しいと解説している。その理由は大きく2つ。多くの研究は行動にいたるまでを調査していない。しかし、信念から行動までは大きな隔たりがある。反ワクチン陰謀論とワクチン摂取率の関係も立証は難しい。2021年の最初の3カ月の間、フェイスブック上でもっとも読まれたワクチン関係の投稿は、偽・誤情報ではなく、健康な医師がワクチン接種後に死亡した記事だった
もうひとつは測定、評価方法の問題。ピザゲートでの事件では、数百万人が陰謀論に接触したが、レストランに銃を持って現れたのはひとりだけだった。統計的には数百万分の1ということになる。
●第4の課題 データは民間企業に保有されている
この領域に関するデータの多くは民間企業が保有しており、研究者が扱えるのはその一部にすぎない。これまでの、そしてこれからの研究は、民間企業が提供するデータに依存している。特にやっかいなのはWhatsやTelegramなどメッセンジャーである。メッセンジャーでやりとりされている内容は原則として公開されない。
また、これまでの研究がSNSのデータに依存しすぎていたのではない、という批判もある。莫大なデータが容易に入手可能だ(民間企業が提供してくれれば)。
●第5の課題 問題は世界規模
この領域の問題は世界各地に広がっているが、ほとんどの調査研究および対策は北半球、特に英語圏に偏っている。たとえばモデレーションも英語に偏っている。
論考は、この問題に関する調査研究はアメリカを中心としたものがほとんどで、共和党と民主党に焦点をあてていることから、適用範囲が限られることを指摘している。より広い範囲に適用できる調査研究が必要とされているのだ。
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