早稲田駅でコーヒーを飲みながら考えたこと|光の多い街の、静かな路地
東京メトロ東西線の早稲田駅。
ホームは長く、端がどこか曖昧だ。
歩いても歩いても、まだ地下にいる気がする。
遠くで、東西線の発車チャイムが鳴る。
少しだけ高くて、少しだけ急かすような音。
この音を聞くと、時間が前に進んでいることを思い出す。
改札へ向かい、階段を上がる。
踊り場にある広告には、
ビッグベンチャーや財閥系メーカーの名前が並んでいる。
派手ではないが、軽くもない。
ここが、早稲田大学の街だということを、
静かに知らせてくる。
地上に出ると、午後でも学生が多い。
町全体が大学の構内のようだ。
歩く速度が若く、声がはっきりしている。
イキイキしている顔が目につく。
人生の勝者、
そんな言葉が、ふと頭をよぎる。
たぶん、違うのだけれど、
そう見えてしまう瞬間がある。
東大生とも、慶應生とも、
少し違う気がする。
理由はわからないし、
わからなくていい。
大隈講堂の方へ歩くと、
昔ながらの定食屋が並ぶ。
昼下がりでも、学生が黙々と食べている。
値段は、特別安いわけではない。
それでも、この街では、それが普通なのだろう。
一本、路地に入る。
急に、人の気配が薄くなる。
おしゃれな喫茶店が、ひっそりと営業している。
韓国スイーツの店もある。
女子学生の甲高い笑い声が、少し遅れて聞こえてくる。
アルバイトで稼いだお金は、
こういう場所で使うのだろうか。
そう考えても、答えは出ない。
路地裏で立ち止まる。
カバンから、ボトルのブラックコーヒーを取り出す。
冷たい。
一口、静かに飲む。
苦味が、喉の奥に残る。
音もなく、時間だけが、少し沈む。
大学を卒業したのは、28年前になる。
28を、2で割ったり、
4で割ったりしながら、
30歳頃の自分は、何をしていただろうかと考える。
働いていた気もするし、
何かを迷っていた気もする。
思い出せないことの方が、多い。
路地を抜けると、
最先端の研究施設のビルが見える。
社会人が、もう一度、学び直す場所なのかもしれない。
若さと再挑戦が、同じ町にある。
それを、特別なことだとは思わない。
早稲田は、明るい。
けれど、その裏に、
何かが、ひそんでいる気もする。
光の当たる場所と、
当たらない場所。
その距離が、妙に近い。
だから、この駅が好きなのだと思う。
元気もあって、
静けさも、ちゃんと残っている。
この先には、
時間が止まっているようなラーメンとオムライスを出す
定食屋の「メルシー」がある。
たぶん今日も、
変わらない味で、
誰かの午後を受け止めているのだろう。
