冬の終わり、上野駅で立ち止まる
今日は、どこかに行く理由が特にない日だった。
上野駅は、日本を代表する駅だと思う。
東京駅や新宿駅、池袋駅ほどの乗降客数ではないかもしれないが、
それでも「上野」という名前には、特別な重さがある。
JR東日本の中でも、上野駅の駅長は別格だと聞いたことがある。
本当かどうかは分からないが、なんとなく、そうだろうなと思う。
上野駅と聞くと、石川啄木が浮かぶ。
人混みの中で、東北の方言を探しに行く気持ち。
いま、その感覚を実感として分かっている若者は、どれくらいいるのだろうか。
パンダを目当てに上野に来る人は多いけれど、
啄木の気配を感じに来る人は、あまりいない気がする。
駅舎を眺めていると、中国の大連駅を思い出す。
どちらがどちらを真似たのかは覚えていない。
ただ、どこか似ている。
最近、JR東日本は大きなビジョンを設置して、広告を流している。
このビジョンに使われているLEDも、中国から来たのだろうか、
そんなことを、ぼんやり考える。
アメ横に向かう。
平日の昼間は、驚くほど歩きやすい。
テレビのニュースで見るような、あの騒々しさはない。
歴史のあるカレー屋は、今日も変わらずそこにあり、
昔ながらの喫茶店も、特別な顔をせずに営業している。
少し歩いて、東京国立博物館の方へ向かう。
緩やかな坂を上がると、新しくできた公園口が見えてくる。
空気はまだ冷たく、冬の終わりを感じさせる。
今日は、キヨスク――いや、ニューデイズでホットコーヒーを買った。
花壇の脇に腰を下ろして、静かに飲む。
中国人観光客の姿が、少しだけある。
以前よりは少ないが、それでも目につく。
日本人と中国人は、よく似ているけれど、
歩き方や服装で、なんとなく分かる。
欧米の人には、この違いはきっと分からないだろうな、と思う。
東京国立博物館に入ろうかとも考えたが、
なぜか今日は、西洋美術館の方が気になった。
理由は特にない。
気分が、たまたま「洋」だっただけだ。
コーヒーを飲み終えても、急ぐ理由はない。
上野駅は、相変わらず人が多いけれど、
不思議と、落ち着く場所もちゃんと残っている。
理由がなくても、立ち止まれる駅。
それだけで、今日は十分だった気がする。
