北鎌倉駅|観光地の裏側に流れる、冬の鎌倉時間
北鎌倉駅に降り立つと、休日の鎌倉とはまるで別の顔があった。冬の平日は、人の気配がほどよく薄まり、観光地特有のざわめきも遠い。

ホームの端には、外国人のカップルと、一人で小さな旅をしているような人の姿がぽつりぽつりと見えるだけ。駅舎は控えめで、小さなロータリーには「わ」ナンバーのレンタカーが一台、ゆっくりとUターンをしていた。

すぐそばには、堂々とした佇まいの円覚寺。
アジサイで知られる明月院も近く、紫陽花の季節には人波が押し寄せる場所だが、今はその気配すらない。
駅の脇を抜けると、緑の中を、横須賀線の濃紺のラインがさーっと走っていく。
音だけが一瞬、空気を切り裂いて、また元の静かな風景に戻っていく。
建長寺の方向へ歩き出す。
狭い歩道を進むと、ときどき観光客とすれ違う。鎌倉駅へ向かう私と、鎌倉駅から北鎌倉駅へ向かう人たち。どちらが正攻法なのかと考えてみるが、「いざ鎌倉」という言葉が頭に浮かび、自然と自分の進む道に納得してしまう。やがて現れる建長寺の広い駐車場。
そこから見える鎌倉学園の校舎、そして早咲きの桜。
人の少ない風景の中に、季節だけが確かに進んでいるのがわかる。

建長寺の境内から漂ってくるのは、歴史を含んだ土の匂い。湿り気を帯びた空気と混ざり合って、時間そのもののように感じられる。
ポケットからボトルコーヒーを取り出して一口飲む。桜の淡い色と、少し苦いコーヒーの組み合わせが意外とよく合う。観光地としての鎌倉ではなく、生活の延長線にある鎌倉。
人の少ない冬の平日だからこそ見える表情が、そこにはあった。
