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新幹線が停まるのに、誰も急いでいない街──小田原駅でコーヒーを飲む午後

小田原駅で、静かにコーヒーを飲みたいと思った。
小田原駅は、神奈川県西部の玄関口だ。新幹線が停まり、東海道線の終点にも始点にもなる。箱根駅伝の5区のスタート地点でもあり、小田原城もある。肩書きだけを並べると、かなり大きな街に見える。

でも、実際に駅に降り立つと、その印象は少し違う。

新幹線が停まる駅なのに、誰も急いでいない。
速い乗り物と、遅い街が、ここでは不思議と共存している。

理由は、たぶん「こだま」しか停まらないからだ。
のぞみも、ひかりも通過していく。
時間を詰める人は、最初からここを選ばない。
だから、小田原に降りる人は、どこか最初から余裕がある。

駅舎は再開発されていて、とてもきれいだ。歴史のある城下町なのに、古びた感じはしない。清潔で、整っている。でも、人影は少ない。人がいないというより、街の中に吸い込まれていくような静けさがある。

観光地のはずなのに、スマホを構えて写真を撮っている人が少ない。
観光客はいる。でも、シニア層が多い。
インスタ映えを気にする若者はいない。
インバウンドの外国人観光客も、ほとんど見かけない。

箱根や熱海という、強すぎる観光地が近くにあるからだろう。
小田原は、観光の“入口”であり、ついでに通過される街でもある。

それでも、この街にはちゃんと観光地の顔がある。
箱根駅伝の5区スタート地点。
毎年、正月になると全国中の視線が集まる場所だ。

でも、普段は驚くほど静かだ。
記念碑の前に人はいない。
あの熱狂は、年に一度だけ、ここに立ち寄って、すぐに去っていく。

Dynacity WESTのスターバックスでコーヒーを飲む。
このスターバックスは、観光客のための店ではない。
スーツケースを転がす人はいない。
地元の人が、普通に、静かに使っている。

コーヒーを飲みながら、駅を行き交う高校生を見る。
なぜか、少し田舎臭い。
悪い意味ではない。
垢抜けていないというより、急いでいない感じがする。

小田原は、大学が多い街ではない。
若者が集まる街でもない。

でも、ふと思う。
小田原は、戻ってくる場所にはなりそうな気がした。

東京で働いて、疲れて、
ある程度の時間を過ごしたあとに、
「実家に戻る」という選択肢が、ちゃんと成立しそうな街だ。

城がある街は、急いで変わろうとしない。
再開発も、どこか控えめだ。
新しさよりも、積み重ねを大切にしている。

新幹線が停まる。
でも、誰も急がない。
大きな肩書きを持っているのに、街は静かだ。

午後の小田原は、そんな矛盾を抱えたまま、穏やかに時間が流れていた。
コーヒーが少しぬるくなっても、悪くない。
この街では、それくらいがちょうどいい。


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