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海の見えない観覧車は身近にあった。ということにしてほしい。

前回のわたしたち。

蒲田に冷麺を食べに来たわたしたち。ついでにかまたえんの観覧車に乗ったところ「海の見えないもっと大きな観覧車に乗りたい」と言い出したたかやまさん。寄り道しながら観覧車のはしごに向かったのでした。


寂しいときに召喚していっしょにごはん食べたいらしい。

五反田を15時48分に出る池上線に乗って、旗の台、大岡山。続いて乗るのは向かいのホームにやってきた急行・海老名行きです。

埼京線からの海老名行きという存在にはだいぶ慣れましたが、東急目黒線からの海老名行きにはまだ慣れません。要するにこれは日吉行きなんだ、と自分に言い聞かせて乗りこみます。多摩川を渡って神奈川県に入り、日吉で下車します。

大岡山から乗った急行・海老名行き。ホームドアがあるときどう写真を撮るべきなのか未だにまったくわかりません。とりあえずこの写真は間違っている気がします。

日吉からは横浜市営地下鉄グリーンラインに乗ります。帰宅ラッシュが始まっていて、そこそこ混雑しています。

たかやまさん
「あそこに立ってる子、かわいいな。スカウトしたい」

たかやまさんが視線を送る先を見ると、穏やかな茶色の髪をした、ハーフっぽい顔立ちの女の子がむすっとした顔でスマホを見つめています。

ささづかまとめ
「どこにスカウトするんですか?」

たかやまさん
「え、なんだろう。自分のデッキに、かな?」

ささづかまとめ
「デッキ?」

たかやまさん
「かわいい子デッキ」

ささづかまとめ
「……よくわからないですけど、たしかにきれいな子ですね」

たかやまさん
「じゃあ私とあの子、どっちがかわいい?」

たかやまさんはものすごくわざとらしい上目遣いです。たかやまさんの後ろに立っている会社員のお兄さんがスマホから視線を上げてたかやまさんをちらっと見遣りました。ちょっと恥ずかしいです。

ささづかまとめ
「そういうのは男の子にやってください」

たかやまさん
「ううん、男の子にはできない。さーさちゃん相手のごっこじゃないとできない、これ」

たかやまさんが素に戻って言いました。たかやまさんはまじめな人です。本来は。

たかやまさん
「私、ああいう子がどういうおばちゃんになっていくのか、興味ある」

ささづかまとめ
「ブラタモリのタモリみたいに?」

たかやまさん
「そうそう、あんな感じで追いかけて観察したい。最近いろんな人のnoteスキするついでに読んでて、おばちゃんになってからが人生だよなって、考えるようになった。あの子がおばちゃんになる過程、参考にしたい」

なんだか失礼な発言のような気もしますが、そうじゃないかもしれなくて、難しいところです。

ささづかまとめ
「あの子よりわたしたちのほうが年上ですよ?」

たかやまさん
「でも私エルフだから。すぐ追い越されるから」

ささづかまとめ
「なるほど、そういうことならわかりますね」

一応言っておきますが、たかやまさんはエルフじゃないです。


住みたい街ランキング145位の街。

16時39分、センター北で下車します。駅名標を眺めていると「左中間と右中間に駅があるみたいなこと?」とたかやまさんが言いました。たしかに不思議な駅名ではあります。

改札階に上がるとたかやまさんが小さく歓声を上げました。

たかやまさん
「改札の中にケンタッキー買える窓口がある。すごい!」

ささづかまとめ
「乗り換えるときにおみやげに買うんですかね?」

たかやまさん
「あとさ、駅ナカのコンビニがデイリーなのすごくよくない? 高校生はみんなスカートの丈短いし。ここ住みたい。私、田舎好き!」

港北ニュータウンは田舎ではないとわたしは思います。

ささづかまとめ
「スカート短いの、住み心地に関係あるんですか?」

たかやまさん
「ある。見たいから。見せてくれるなら、見る」

ささづかまとめ
「堂々と言いますね」

いっそ清々しい。そういえば根岸線の石川町の駅で下りたときもたかやまさんはすごく饒舌だったことを思い出しました。

たかやまさん
「さーさちゃんが山梨にいた頃、高校の制服着てるの見たときも実はちょっと興奮してた。ごめん」

たかやまさんはそう言って、へへ、と笑いました。うん、ちょっときもちわるいです。

ささづかまとめ
「それもう制服フェチみたいになってるじゃないですか」

たかやまさん
「うん。あのブレザーの制服、憧れてた。しかも、さーさちゃん身長高いから似合ってたしかっこよかったし。あの頃のさーさちゃんイケてた」

ささづかまとめ
「そこまで言うほど似合ってなかったと思いますけど」

たかやまさん
「ううん、似合ってた。あのときばかりは私の身長が低いことを恨んだね」

改札口を出て階段を上がると広大な駅前広場があって、斜向かいにモザイクモールというショッピングセンターが建っています。その背後にお目当ての観覧車が。

たかやまさん
「これが海の見えない観覧車かー」

ぽかんと口を開けて、たかやまさんが見上げます。

ささづかまとめ
「意外と見えちゃうかもしれませんけどね」

たかやまさん
「うん。けっこうしっかり見えちゃうこともあるし、意外と全然見えないこともあるよね」

ささづかまとめ
「はい。海はあるはずなんですが遠すぎて視認できない、みたいな感じなのかなって」

たかやまさん
「うん。はあ、さーさちゃんツッコんでくれないのちょっとしんどいな。なんの話してんの! ってツッコんでよ、ちーちゃんみたいに」

ささづかまとめ
「ええ…? がんばってスルーしてるんですけど」


アイコンが四角だった時代をまだ覚えてる。

モザイクモールは一昔前の雰囲気ながら、高級すぎもせず安っぽくもなくバランスのとれた構成で、いかにも近所にあったらよさそうなショッピングモールでした。エスカレーターで上がっていくと3階にわたしが好きなコロンビアのお店がありましたが緊張してやっぱり入れず(わたしはいつも服とか靴は通販で買っています)、5階の観覧車のりばに向かいました。

のりばに近づくと窓から観覧車を見上げることができます。

ささづかまとめ
「わたし、飛行機乗るときも思うんですけど、こういう仕組みがわかりそうでわからない乗りものに乗って、平気で高いところまで行っちゃうのってよく考えるとすごいですよね」

たかやまさん
「そんなこと考えながらよく飛行機乗れるね。高所恐怖なのに」

ささづかまとめ
「あ、そうでしたね、わたしたち高所恐怖……」

わたしたちはふたりとも数秒間静止・沈黙したのち、たかやまさんがチケットの券売機を指さして「で、乗る?」と言いました。ここまで来て乗らないわけないじゃないですか。よーし、乗るぞお。

たかやまさん
「4人で乗るときだけ性別があるの気になる。三角関係と、じゃまな親友?」

ささづかまとめ
「普通に2組の男女がいっしょにデートしてる、じゃダメなんですか?」

たかやまさん
「さすがに観覧車は2人ずつ分かれて乗ると思う。三角関係の私たちと、鈍感でかっこよくもかわいくもないけど、勘違いさせない程度に仲よくしないといけない彼のお友だちの合計4人なら、しかたなく4人で乗る。それ用のボタン」

ささづかまとめ
「なるほど。この3人のボタンの絵もなんか不思議ですね」

たかやまさん
「3人組にリーダーが必要なのはわかるフォイ」

券売機の前で話していると、係員のお姉さんがやってきました。

「こんにちはー。今、ゴンドラの中、31℃あって暑いんですけど、大丈夫ですか?」

真夏の観覧車の係員さんのセリフはだいたい同じらしいです。わたしたちは顔を見合わせます。たかやまさんがわたしにばちっとウインクしました。

「大丈夫です」とわたしが答え、たかやまさんが「7℃も低い。よゆー」とつぶやき、係員のお姉さんは若干不思議そうな顔をしながら、「ではのりばでお待ちしてますね」と言って去っていきました。

たかやまさん
「さて、犬はチケット1枚で5kgまで。さーさちゃんは12枚買えば足りるのかなー? それとももしかして足りないのかなー?」

ささづかまとめ
「そういう意味なんですか? 大きい犬は乗せられないってことなんじゃ…」

たかやまさん
「そこは『犬扱いした上でさらに体重イジりですか!? 信じられない、ぎゃおーん!』ってツイッターによくいる人みたいな反応してよ」

ささづかまとめ
「そんな反応しないですし、できないです。っていうか、早くチケット買いましょうよ。お姉さん待たせてますから」

そういえば、わたしたちがぐだぐだしている間、ほかのお客さんが一切やってきませんし、降りてくる人もいません。日常的にこれくらい空いているんでしょうか。だとすると少し心配になります。


わたしはくもみ。

チケットを買ってのりばに向かいます。ゴンドラに乗りこむと、お姉さんがにこやかに扉を閉め、送り出してくれました。所要時間はおよそ12分。今度はゆっくり景色が見られそうです。

ゴンドラは屋上を飛び出して、周りの建物の高さを超え、少しずつ視界が広くなっていきます。

たかやまさん
「観覧車って、本来は乗る必要のない乗りものだよね」

ささづかまとめ
「移動しませんからね」

たかやまさん
「それでも乗るのはほかの欲求が満たされるからだよね」

ささづかまとめ
「またエッチな話しようとしてません?」

たかやまさん
「今日一度もそんな話してないけど(←これは嘘)、してほしいならするよ? マジックミラー観覧車の話。聞きたい?」

ささづかまとめ
「いちがやさんがいないからって適当にしゃべりすぎですって」

ビールの酔いはさすがに覚めていると思いたいです。

たかやまさん
「そうそう、それでね、動物の本能として、基本的にはみんな高いところが好きだよね? 見下ろされるよりは見下ろすほうがいい」

ささづかまとめ
「はあ、それはまあそう思います」

たかやまさん
「だからああいう高層マンションの高い階に住んでる人ってさ」

ささづかまとめ
「あ、もういいです。その話もわかりました」

たかやまさん
「ほう、私にみなまで言わせない作戦か。さーさちゃんも手練れだね」

ささづかまとめ
「わかりやすすぎるので」

たかやまさん
「あそこが一番近い大きい街かな」

ささづかまとめ
「あれは…武蔵小杉ですね」

たかやまさん
「おー。あれが野生的本能に従いし者たちの住む…、あと、たまに水浸しになる日本のヴェネツィアか。行ったことないけど」

ささづかまとめ
「用事がないですよね、武蔵小杉」

たかやまさん
「私、川崎みたいな街に住むならせめて、家建てて大きい犬飼いたい。なんでマンションとか住んじゃうんだろう」

ささづかまとめ
「いろんな人がいるんですよ。個人的にはベランダからいろんな方向に行き交う電車を見下ろせそうなのはうらやましいですけどね」

たかやまさん
「高所恐怖なのに?」

ささづかまとめ
「あっ…。もう、意識させないでくださいよー」

たかやまさん
「あっちが都心」

ささづかまとめ
「うっすらいろいろ見えますけど」

たかやまさん
「あっ、防衛省のアンテナっぽいの見える!」

ささづかまとめ
「え? 本当ですか?」

たかやまさん
「霞んでるけど見える。ちーちゃーん、見てるー?」

たかやまさんがおそらく市ケ谷のほうに向かって手を振りました。

ささづかまとめ
「たかやまさんの目がよすぎて…とりあえず写真だけ撮ってあとで見ます」

帰宅後にたかやまさんと検討した結果、こんな眺めだったことがわかりました。空気の澄んでいる秋から初冬にかけて乗ればもっとはっきり見えるかもしれません。

たかやまさん
「つまりもっと左、あっちが新宿か。だいぶ遠いね」

ささづかまとめ
「あそこまで遠いともやもやしててよくわかりませんね」

たかやまさん
「でも都庁の横、一番手前に初台のオペラシティ見えてるよ?」

ささづかまとめ
「笹塚はどのあたりなんでしょうね」

たかやまさん
「その左のほうのどっか」

ささづかまとめ
「そうなりますよねえ」


ななめが気になる。

ささづかまとめ
「ランドマークタワー見えますね」

たかやまさん
「横浜はわかりやすい。ってことは、その背後が海か」

ささづかまとめ
「よし! 海、やっぱり見えなかったですね。ふう、これで海の見えない観覧車に乗るミッションは終わりですね!」

たかやまさん
「いや、ちゃんと見れば…」

ささづかまとめ
「目を凝らさないでいいですって。ね、やめましょう。こっち向いてください」

窓に張りついて横浜方面を凝視するたかやまさんをわたしは止めにかかります。

たかやまさん
「さーさちゃんどうしたの?」

たかやまさんはきょとんとした顔でこちらを向いてくれました。

ささづかまとめ
「海は見えませんでした。そうですよね? …もうそっち見ないでいいですから」

横目でちらちらと横浜方面を見遣るたかやまさんと向かい合います。

たかやまさん
「ずいぶん真剣だね」

ささづかまとめ
「だって、ここで終わっておかないといよいよ相模湖とか行かなきゃいけなくなるんですよ?」

たかやまさん
「ううん、さすがにそこまで求めてないから大丈夫。『あーやっぱり海見えちゃったねー』って言ってさーさちゃん軽く煽ったら、私満足するよ?」

ささづかまとめ
「でもそれだとくやしいですし、ちょっと恥ずかしいじゃないですか。自信満々でここまで連れてきちゃってるんですよ?」

わたしがそう言うとたかやまさんがくくくっと笑います。

たかやまさん
「そっか、そっか。そうだよね。じゃあ、さーさちゃんすごーい。海、見えなかったねー。さーさちゃんの勝ちー」

笑いながら、棒読みで言うたかやまさん。そう来ますかあ。

ささづかまとめ
「もう、もっとちゃんと褒めてください」

そう言った途端、わたしは一体なにを言ってるんだろうと思いました。

たかやまさん
「あははっ、なんか今日のさーさちゃん注文多くてかわいいね。普段からそんな感じでいいのにね。でもとりあえず、もうちょっと景色見よう? まだ3分の1くらい残ってるし」

観覧車から横浜市営地下鉄を眺めます。手前がセンター北、やや右奥にあるのがセンター南の各駅です。グリーンラインとブルーラインの2つの地下鉄が並走し、さらにどちらも高架橋の上を走る珍しい区間です。

たかやまさん
「あの右側の、横縞の建物の角度。あれは怪しいね」

ささづかまとめ
「斜めですね」

たかやまさん
「あのへんが昔は台地の縁(へり)とかだったのかな」

たかやまさんは地形が好きなのです。普段からよくスーパー地形のアプリを眺めています。

ささづかまとめ
「あとは、古い道に沿ってるとかですかね?」

たかやまさん
「でもそれだって地形のせい。あの建物の向こうに川があるんだと思う」

ささづかまとめ
「地下鉄は地形に合わせて地上に出てきてるってことですね。ニュータウンの開発前の痕跡巡りとかしたら、ブログのビュー数増えるのかな…」

たかやまさん
「それより普通にストックになってる旅行の記事書いたほうがいいと思う」

たしかにそうです。北海道だって何回か行っているのに全然書いていません。がんばって書こうと思います。


トーストしてもらうのがこだわり。

ドアを開けてくれた係員のお姉さんに、ありがとうございました、とお礼を言って観覧車から降ります。海が見えなかったせいかわかりませんが、情報量が多くて満足感が高いように感じました。またそのうち乗ってみようと思います。

その後はセンター北駅直結のビルに入っているコメダ珈琲でくつろぎました。話題は港北ニュータウン周辺の地形と古道と地名についてでしたが、ちょっとオカルトっぽい話もしたので、ここに書き出すのはやめておきます。

たかやまさんが「半分こしよ」と言って注文しがちなミニコメバスケット。コメチキは大抵の場合たかやまさんが2つとも食べます。

あざみ野まで地下鉄に乗り、田園都市線に乗り換えます。

「今日ってお昼ごはん、準備してあった?」
押上行きの準急列車の車内で、たかやまさんが小さな声で言いました。

ささづかまとめ
「え? どうして知ってるんですか?」

たかやまさん
「私が冷麺って言ったときちょっと悲しそうな顔してたから。ごめんね?」

顔に出さないようにしたつもりですが、やっぱりたかやまさんにはバレてしまうみたいです。

ささづかまとめ
「フレンチトースト仕込んだのになーとは思いましたけど、まあいいじゃないですか。今夜食べればいいんですよ」

たかやまさん
「フレンチトーストかー。じゃあライフに寄ってメープルシロップ買っていこう」

ささづかまとめ
「お砂糖じゃだめなんですか?」

たかやまさん
「メープルシロップじゃないとだめ。フレンチトーストには絶対メープルシロップ! せっかく作ったんだから、買って帰ろ!」

小声で主張するたかやまさんがかわいくて、はーいと返事をします。その後は列車が地下に潜るまで、窓の外を眺めて帰りました。

(おわり)

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